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童話

夢の世界のプーシー

作者: 碧衣 奈美

 みんなが眠っている時に見る夢。

 プーシーは、その夢の世界に住んでいます。


 プーシーはもこもこの、まっしろな毛のひつじ。

 生まれてから数日しか経っていないので、身体はまだ小さいです。

 プーシー以外にも、ひつじはたくさん。

 夢の世界にいるひつじ達は、柵を跳び越える以外にも

 夢の世界の神様からとっても大切なお仕事をまかされています。


 夢はいつも楽しいものばかりではありません。

 時々、怖いものになったりします。

 誰かが怖い夢を見そうになったり、怖い夢を見ると、

 夢の世界に雑草が生えるのです。

 草が伸びすぎると、木になったりすることもあります。


 夢の世界が、怖い夢の元になる雑草でいっぱいにならないために、

 プーシー達はその雑草を食べる、というお仕事をしているのです。

 雑草がなくなれば、夢の世界がきれいになります。

 きれいになると、きれいなお花が咲きます。

 そうして、みんなが楽しい夢を見られるようになるのです。


 今日のプーシーは、あっちの夢の雑草を食べるように言われました。

「これが怖い夢になっちゃうなんて、ふしぎだなぁ」

 プーシーはそんなことを考えながら、もぐもぐと雑草を食べていました。


 ぐすん ぐすん


 何か聞こえて、プーシーは周りを見ました。

 今のは誰かの泣き声……だったような気がします。

「あ、だれかいる。この夢を見てる子かな?」

 ひざをかかえて泣いている、小さな子がいます。五歳くらいでしょうか。

 黒く短い髪の、男の子のようです。


「ねぇ、どうして泣いてるの?」

 プーシーは、男の子に近付いて聞いてみました。

「え……きみはだれ?」

「プーシーだよ」

「ぼくは……こうちゃん」

 こうちゃんはプーシーのもこもこの白い毛を見て、大きな目を輝かせました。

「かわいい。うちのコロより小さいね」

 こうちゃんは、おうちでしば犬のコロを飼っています。

 プーシーは、そのコロよりも少し小さいのです。

「わぁ、もふもふ」

 近付いて来たプーシーを、こうちゃんが抱きしめました。

「こうちゃんは、どうして泣いてたの?」

「……ママにしかられたから」

「どうして叱られたの?」

 こうちゃんは黙っています。その目に、また涙がたまりました。


 その時です。


 まだプーシーが食べていなかった雑草が、いきなり伸び始めました。

 雑草はびっくりして立ち上がったこうちゃんよりも高くなり、

 まるでジャングルのようです。

「こーうーちゃーん」

 どこからか、こうちゃんを呼ぶ低い声が聞こえました。

 プーシーとこうちゃんがきょろきょろしていると、

 高く伸びた草の間から影のように真っ黒な身体をした人が出て来ました。

 おとなくらいの大きさで、その形は髪の長い女の人のようです。

 頭には、二本のツノがありました。

「きゃーっ」

 プーシーとこうちゃんはびっくりし、そこから逃げ出しました。


 こ、こ、これが怖い夢? ど、どうしよう。


 プーシーは、まだ怖い夢の中に入ったことがありません。

 でも、ツノのある人が出て来たのだから、きっとこれが怖い夢なのです。

 こういうことがあったら、バクのタピさんを呼びなさい、と言われていました。

 タピさん達は、怖い夢を食べるお仕事をしているのです。

 でも、今はタピさんを呼びに行くことはできそうにありません。

 プーシーとこうちゃんは、伸びた雑草の間に隠れました。

 怖くてどきどきしています。


「いまの……ママだ」

 こうちゃんが、プーシーを抱きしめながら言いました。

「え? こうちゃんのママって、あんなに真っ黒でツノがあるの?」

「ち、ちがうよ。でも、声がそうだったから」

 さっき見た黒い人は、こうちゃんをさがしているようです。

「こうちゃんをまた叱ろうとしてるのかな」

「ぼくが……ごめんなさい、しなかったから」

 こうちゃんがちゃんと「ごめんなさい」をしなかったので、

 ママが怖い夢になって出て来たようです。

「じゃあ、ごめんなさいをしたら?」

 ここに隠れていても、きっとツノがあるママに見付かってしまうでしょう。

「う……うん、わかった」

 プーシーに言われ、その場でこうちゃんは大きな声で言いました。


「ママ、お片付けしなくて、ごめんなさいっ」


 こうちゃんが言うと、長い雑草の間から優しそうな女の人が顔を出しました。

 真っ黒でもないし、ツノもありません。

「ちゃんとお片付けしようね、こうちゃん。ママと約束したでしょう?」

「うん……」

 こうちゃんがうなずくと、伸びていた雑草がちぢんでいきます。

 あっという間に、プーシーが食べられる大きさの雑草に戻りました。


「お部屋へ戻りましょう、こうちゃん」

 ママが手を出し、こうちゃんもママの手をにぎりました。

「ぼく、行くね。バイバイ、プーシー」

「バイバイ、こうちゃん」

 こうちゃんが手をふり、プーシーは手をふるかわりに小さく飛びはねました。


 その後、こうちゃんの夢に雑草は生えませんでした。

 起きたこうちゃんが、ママにちゃんと「ごめんなさい」をしたのでしょう。


「プーシー、次はあっちをお願いね」

「はーい」

 夢の世界がきれいになるよう、プーシーは今日も雑草を食べます。

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― 新着の感想 ―
[一言] とてもかわいいお話でした。 プーシーとこうちゃん逃げずに頑張りましたね。 私事ですが、『夢が汚れる』と『掃除』をテーマに書こうとして断念してしまいました。お手本を読ませていただいたような気が…
[一言] ごめんなさい、は大事ですね。 怖いことにならなくて良かったです!
2023/12/28 22:29 退会済み
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