会話は、他者を理解することで成り立つ。
主人公、小谷 千紘
少年の真辺 凪と共に、島の医者をしている石田 真衣に誘われて、彼女の知り合いが営む上代亭で、ご飯をいただくことになった。
私たちが、上代亭に入ると従業員の方に食事処へ案内された。
そこには、不貞腐れながら手伝っている石田先生と、
彼女を引きずって行った着物を着た女性がテキパキとした手捌きで食事の準備をしていた。
私がその光景に、唖然していると従業員の方から『こちらにお掛けになってお待ちください』と、
座席に通されお冷をお出しされた。
『あっ。ありがとうございます』とお礼をすると従業員の方は、頭を下げて仕事に戻る。
もしかしなくても、これは…急な訪問でお店に迷惑をお掛けしているのでは?
私がしっかり断りをしたら良かったのかも…と不安に駆られる。
私は、頭が下を向きマイナスの方向へ思考が傾いていく。
目の前に行われている。好意に不安と恐怖が襲う。
手足が、いつもより冷えていくのを感じた。
『小谷さん、考えすぎかもしれないです』
『えっ…』
横に座っている真辺君から、声をかけられた。
私は、自分の考えていることが漏れていたのかと瞳が揺れる。
『人間関係って、さっき言われて考えてみたんですけど』
『そもそも、不得特定多数のことあれこれ考えたらキリがないと思いました』
彼は、さっきしていた会話の答えを話しているのか。
私は、彼の方を見ると自分なりに考えながら答えを語ってくれている姿が見てとれた。
私は、『そうだね。考えすぎる癖があるかもしれない』と答える。
「考えすぎる」は、よく身内から言われてきた言葉だった。
言われているから自分でも理解はしてるでも、この思考は止まらない。
『それを、プラスに広げれないですか?』
『その方が楽しくなりませんか?』
純粋な疑問をそのまま投げられる。それが出来たら苦労はしてない。
私は、彼の思考に少しだけ苛立ちを感じてしまった。
何でかわからない。ただよくも知らない状態でアレコレ言われているそんな気持ちなった。
『小谷さーん。料理できたみたいなんで食べましょう!!』
石田先生が、お皿を運びながらこちらに声をかけてくる。
苛立ちは、いきなりの声掛けでゆっくり収まっていく。
少し緊張がほぐれた気がした。
『ありがとうございます。頂きます』
そう私は伝え、お皿を貰い受ける。
『じゃ、揃いましたんで頂きましょうか!』と
石田先生は、にこやかに手を合わせ
『いただきます』と声を出す。
それに釣られて、私や真辺くんも『いただきます』といい食事を始める。
美味しい。無意識に口角が上がる。
私は、黙々と食事を食べ始める。
『沢山食べてくださいな。お代わりも沢山用意してますよ』と着物を着た彼女が伝えてくれる。
私は、口入れた物を必死に飲み込んで『ありがとうございます』とお礼をする。
ガツガツと食べてしまっていたことに恥じらいを感じながら。
『そうそう。彼女のこと紹介してませんでしたよね』
『彼女は、上代亭の若女将をしている。神崎 楓さん』
『私の幼馴染』と石田先生が、紹介してくれた。
『私は、小谷 千紘です。よろしくお願いします』
私は、立ち上がり頭を下げる。
『小谷さんね。こちらこそ、よろしくお願いします』
『石田先生から、事情は少しだけ聞いてます。』
目を見開き、石田先生の方を向くと彼女は、美味しそうに食事をしていた。
『まぁ。彼女のことだから、特に説明もなく拉致られた感じだとはおもってたけど…』
神崎さんは、呆れた顔しながら石田先生を横目に見る。
『安心して、部屋の空きもあるしこちらとしても、部屋が埋まると嬉しいから』と笑顔に答えてくれる。
『えっと、宿泊料はいくらくらいでしょうか?』
と私が聞くと、神崎さんは瞳をパチパチさせ笑い出した。
『そうね。宿泊代はそこまで高くはないわ。1日あたり5千円程度かしら』
5千円…払えなくはない。と考えていると彼女はより楽しそうに笑顔になる。
『貴方が良ければだけど、少しうちの仕事を手伝ってもらえたら割引できるけれど…』
割引という言葉を聞き、私は一気に彼女の方に目線を向ければ、
彼女は、声に出して笑い始めた。
『ふっあはは…そうね。割引もする。こんな感じなんだけどいかがでしょう』
私は、『よろしくお願いします』と頭を下げ交渉を成立した。
僕は、なにか変な事を聞いてしまったのかな。