勢いって大事なんですよ
主人公、小谷 千紘
傷心旅行中だったが色々あり、少年の真辺 凪に髪を引っ張られ
診療所の石田 真衣先生と出会い。
宿泊先を紹介されました。
石田先生の勢いに圧倒されながら行き着いたのは、
上代亭と書かれた民宿だった。
先程まで前を歩いていた石田先生は、私の方に振り向き
『小谷さん、ここです!』と高らかに紹介してくれた。
『えっ。ああ。ここなんですね!』
私は、あまりにも急な出来事が多く挙動不審になってると思う。
そんな私の姿が、面白かったのか石田先生は笑い
『ちょっとここで待っててくださいね!』といって上代亭に入っていく。
あっ。また取り残されてしまった。
ちらっと隣にいる同じく連行された真辺くんの方を見る。
先程と変わらず考え事をしているみたいだった。
『彼は、一度考え始めると自分の世界に入るタイプだから』と、
石田先生が、話してくれたのでそっとしといたほうがいいのかもしれない。
しばらく、沈黙が続いたあと
『…分からない』
『えっ?どうしたの』
先程まで、ずっと考え事をしていた彼が
唐突の「わからない」発言に少しびっくりして反射的に返してしまった。
『人が増えると、その分苦労が増える理由がわからないです』
『もしかして、さっき話してたやつ…?』
彼は、私の顔を見ながら頷く。
『僕は、人が増えたらその分効率が良くなるし楽できると思いました。』
『でも、小谷さんは苦労が増えると言いました。』
『小谷さんが思う“苦労”はどこからくるモノなんですか?』
私は、彼の質問に驚いてしまった。
会話の重きが違うからの質問は、初めてだった。
『…人間関係かな』
『……人間関係……』そう呟き、彼はまた考え始める。
彼は、自分の考えを他者に伝えることができて分からないを言える子なんだ。
私は彼の素直さに、羨ましさと眩しさを感じた。
《ガラガラ》と、上代亭の扉が開く
『お待たせしました!どうぞお入りください!』
と石田先生が手招きしながらこちらを呼ぶ姿が見えた。
『あんたの店じゃないのだけど?』と奥から女性が出てきた。
女性は、和服を身につけており見るからに、上品な方だと思った。
こちらの方に気づくと、お辞儀してから優雅に微笑み
『いらっしゃい。』
『そんなところに突っ立てないで、どうぞお入りください』
しなやかな動きで、引き戸を開けてくれる。
その後、石田先生を引きずってお店に入って行ったけど
その姿をみて、私は何だか可笑しくて笑ってしまった。
『真辺君、呼ばれたら行こうか』
考え事をしている彼に声をかけて、二人についていく。
勢いに飲まれてしまっているのか
ずっと暗かった景色が少しだけ明るく見える気がする。
ここの島で出会う人たちは、不思議な人ばかりだ