フットワークの軽さに蹴落とされそうになる
主人公、小谷 千紘
診療所の先生、石田 真衣が、呼ばれて部屋を出て行ったあと
一人取り残されてしまった。
部屋に取り残されてしまった…。
『少し席を外す』って認識で合っているよね?
待っていれば良いのかな…石田先生は、いつ戻ってくるのだろうか。
不安な気持ちを押し込むかのように、手に持っているハーブティーを飲んでいたら
飲み干してしまった。
手元の情報が無くなったためか、
あっ。私のカバン…と思い出し、周りを見渡すと近くの座席に掛けてあるのを見つけた。
中身を確認すると特に無くなっているものは無かった。
コンコンと扉がノックされる
『小谷さん、入りますね』と声掛けされた後扉が開く。
石田先生が、部屋に入って来たあと後ろにもう一人いることに気がついた。
『おーい。そこじゃ話せないでしょ?ほらこっちに来る』
彼女が、後ろにいる人物を手招きをするとゆっくりこちらまで歩いくる
私の目の前に、現れたのは海で出会った男の子だった。
『あの、昨日びっくりさせてすみませんでした』
『あと、髪の毛引っ張ってごめんなさい』
『お詫びの品です』と両手に持ったカゴを渡してくれる。果物とチケットが数枚入ってた。
『いや、こちらこそすみませんでした』
『上手く伝えれないですけど、君のおかげで助かりました』
『ありがとうございます…』
私は、恥ずかしい気持ちで一杯で顔を隠してしまう。
『えっと…。その数枚のチケットはウチの店の割引券です』
『体調が良くなったら、食べに来てください』
気まずそうに、顔を背けながら話す姿を見て少し微笑ましく思えた。
『ありがとう。今度お邪魔させてもらいます』
このやり取りを眺めていた石田先生は、満足そうな顔をしたあとハッと思い出した顔をする
『そうだ。小谷さんは、どこか宿泊する場所はお決まりですか?』
私は、宿泊先のことを忘れていたのを思い出し
『実は、特に決めていなくて…。』と深々と頭を下げる。
『そうですね。ちょっと待っててください。』
『良い場所紹介できると思うので!』
そう意気込んで、また石田先生は部屋から退出してしまった。
私は、声をかけようと手を伸ばした右手は行き場所がなくなり空気をつかむしかなかった。
少し気まずくなり、近くいた男の子を見ると、呆れて顔をしながら扉を見ていた。
『あー。えっと、君の名前は何て言うですか?』
『真辺 凪』
『真辺君ね。私は、小谷 千紘』
『…』
『あー。えっと石田先生は、いつもあんな感じなの?』
『先生は、いつもあんな感じ。思い立ったらすぐ動く』
『そうなんだ。』
会話が続かない!!
なんて会話をすれば良い。今時の若い子ってどんな話しているの??
私は、どうしたら会話が続くのが必死に考えて話題を捻り出そう唸っていると
その表情を見ていたのか、気づいたら私の顔を見ていた。
『小谷さんは、この島に何故来たのですか?』
『えっあー…行ってみたかった場所だからかな』
心底理解できない顔しながら『ここ何も無い島ですよ?』と不思議そうな顔をする。
『都会ってつまんないんですか?』
『つまんない…のかな?考えたことなかった』
『???そうなんですか?』より謎が深まったのか眉間に皺を寄せる。
『小谷さんの顔みると、楽しくなさそうなんですけど』
楽しくなさそう。楽しくなかったのかな。
『僕が思う都会は、楽しい事が沢山あるし新しい最新のものが溢れてる』
『ってイメージなんだけど…違うですか?』
『確かに、新しいものは沢山集まるよ。』
『じゃどうして、表情が死んでるみたいな顔してたんですか?』
『……色々あるだよ。』
『物だけじゃない。人も集まる』
『人が多くなれば、それだけ苦労があるの』
『へー。』そう言ったあと何か考え込むように、黙り始めた。
小走りの音が響く
『小谷さん!!お待たせしました!』と石田先生が駆け寄ってくる。
『さっき、知り合いの民宿をしている友人に声かけたら、是非来てくれって』
『えっ、そんな。行きなり…申し訳なさが』展開の速さに、置いてかれてる。
石田先生は、胸を張りながら『大丈夫です。心配しないでください!!』と言ってくれているが
いや無理です。超心配どころか恐れ多いです。
救いを委ねて、真辺くんを横目で見たらまだ考えているようで気づいてもいない。
『私もこれから、休憩時間なんで一緒に向かうので安心してください』
『凪くんも、行きますよ!一緒にお昼も兼ねておいでと言われているので!!』
……勢いに流されるまま、向かうことになってしまった。
勢いに蹴落とされてます。