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家族がみつかった?

「いえ、公爵閣下。それは誤った情報です。だれが流した情報かは想像はつきますが」


 わたしがあの地下室でそうとう暴れたですって?


 そんな誤報を平気で告げるなんて、レイモンドしかいない。だいいち、極秘にされている。あそこにいたのは小悪党以外は彼だけである。


 レイモンド、覚えていなさいよ。


 ローテーブルをはさんで向かい側に座っている彼をおもいっきり睨みつけた。


 レイモンドは、あいかわらずカッコつけて足を組んで座っている。その姿は、やはり絵になる。


「誤った情報? あながち嘘でも誇張でもありませんぞ、妃殿下。謙遜なさるな。妃殿下の二の腕と肩と胸は、ジャケットを着用していても筋肉がついていることがわかります。これからが楽しみですな」


 ガハハハハ!


 豪快に笑うラザールを見ながらゾッとしてしまった。


 もちろん、偽王太子の狂気に触れたときとはまた違う意味でのゾッと感だけど。


「妃殿下。レディも強くあるべきです。よろしければ、体術と剣術をみっちり仕込みましょうか?」

「あなた、いい加減になさい」


 ロッテは、立ち上がるなりラザールの腹部に拳を繰り出した。


「グウウウウッ」


 その拳は、見事ラザールのみぞおちにきまった。


 呆然と見守る中、ラザールは髭面を横にフリフリ痛みをこらえている。


「師匠。エリカがこれ以上強くなったら、おれはどうすればいいのです」

「ちょっと、レイモンド。どういう意味? そもそも、あなたがわたしに教えたんでしょう?」

「勘弁してくれよ。きみが強いのは、きみがもともと強いからだ。おれの教えのせいではない」

「はいいいい? またわたしのせいなの?」

「エリカ、落ち着いてよくきいて。男っていうのはね、五歳未満の子どもなの。わがまま放題で甘えん坊な子どもというわけ。だから、五歳児を躾けるつもりで接しなさい。厳しくね。その方法は、おいおい伝授するから安心してね」

「ええ、ロッテ。お願いします」

「いや、ロッテ。妃教育の内容が違うような気が……」


 口出ししてきたレイモンドを、ロッテと二人で睨みつけた。すると、彼はシュンとしてしまった。組んでいた足も、いまではきちんと揃えている。


 ロッテは控えの間から出て行くとき、わたしの耳にささやいてきた。


「だけど、殿下のあなたへの愛は本物よ。それは信頼していいわ。彼は、心からあなたを愛している。そして、けっして裏切らない。あなたを大切にし、守ってくれる。そのことはぜったいに忘れないでね」


 彼女は、可愛らしすぎる顔にいたずらっぽい笑みを浮かべた。


 執事が、そのタイミングで報告にやって来た。


「シャリエ副将軍がおみえです」


 なんてこと。仔犬ちゃんことリュックが戻ってきたの?


 彼は、わたしの祖国に行ってわたしの家族を捜してくれているのである。


 当然、すぐに入ってもらった。


 出て行こうとしていたロッテとラザールはそのまま残ることになった。


 リュックは、レイモンドの乳母子。大親友で片腕という存在でもある。


 彼は、控えの間に入って来て簡単な挨拶をしてからすぐに本題に入った。


 彼は自分の父親と母親が控えの間にいることに、たいして驚かなかった。


「妃殿下、レイ。妃殿下のご家族の居場所がわかった」

「なんだって?」

「なんですって?」


 レイモンドと二人、長椅子から立ち上がって小柄なリュックの前に立っていた。


 リュックは、完璧なまでに母親似よね。父親とはまーったく似ていない。


 だけど、剣や頭脳は父親似なのね。


 そんなどうでもいいことをふと思った。




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