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事件後

 ロッテは、わたしをギュッと抱きしめ無事をよろこんでくれた。


 彼女は牧場で役立たずの親衛隊の隊員たちの尻を叩き、レイモンドに急使を出すとともに捜索を開始してくれた。


 機転がきく上に勘のいい彼女は、偽王太子アルフォンスの仕業ではないかと予測していた。もしくは、偽王太子かれの意を受けた宰相の仕業かと。


 それとは別に、急使の報告を受けたレイモンドもまた、偽王太子の仕業だとすぐに確信した。だから、自分が幽閉を命じたあの屋敷の地下室に、単身乗り込んだ。


 レイモンドは、親衛隊が出発の準備をしている間にとっとと飛び出したという。


 彼は、あとでこっぴどく叱られた。いろいろな人に。


 それはともかく、結局この件に宰相が絡んでいるかどうかの確証はとれなかった。


 なぜなら、偽王太子は大分前からいろいろと手配していたらしい。それこそ、わたしが現れる以前から。厳密には、レイモンド暗殺を決めた際に、金貨をばらまいて手当たり次第に小悪党を集めていた。森の中の隠れ家で彼自身が捕まるまでに雇っていたそれら小悪党の残りが、今回活躍、もといお粗末な仕事をしたというわけ。


 雇い主である偽王太子も含め、全員がお粗末すぎたからよかったのかもしれない。


 その小悪党たち三人も捕まった。地下室にいたノッポと太っちょの二人と、わたしを拉致した偽隊員である。


「宰相のことは知らない」


 三人は、口を揃えて言っている。


 そして、偽王太子は死んだ。


 毒杯を飲むはずだった日よりも早く。


 あの地下室で、レイモンドが置いていった王家の紋章入りの短刀で喉をついた。


 わたしは、偽王太子かれが死んだことについてどうも思わない。


 それこそ、「ざまぁみろ」とか「残念だわ」とか、いっさいの感情がわきあがってこない。


 こういうものなのかもしれない。


 感情がわきおこるほどの付き合いでもなかったし。


 偽王太子かれにたいしては、小説の犯人をバラしたことだけがムカついただけ。

 彼とは、ただそれだけの関係だった。


「陛下」

「エリカ、無事でよかった」


 国王陛下は、わざわざ寝室を訪れてくれた。


 この一件も当然秘密にされた。わたしは、調子が悪いということにして部屋でまったりすごしている。


「重ね重ね愚息のことで……」

「陛下、わたしは大丈夫です。それよりも、心中お察しします。どうかお気をおとされませんよう」


 国王とは、レイモンドの控えの間で立ったまま会話をかわした。


 国王かれは、すぐにでも立ち去らねばならない。


 お忍びでよってくれたのだ。ひきとめるわけにはいかない。


「ありがとう、エリカ。やさしい子だ」


 国王は、偽王太子の策略により一時期退位させられた。そのとき、彼は庭園で草木の管理をしていた。それは趣味としていまでも続いている。だから、彼は陽に焼けていてすごく健康的な容貌をしている。


 彼は、いまもやわらかい笑みとともにわたしの手をとってやさしく握ってくれた。


 逆に元気をもらった気がする。


 そのあと、ロッテとその夫であるラザール・シャリエ公爵が訪れてくれた。


 ラザールは、もう間もなく正式に宰相に就任する。


 彼は、めちゃくちゃ大きい。縦も横も奥行きも。しかも、顔面髭だらけの強面である。


「もともと武闘派なのです」


 声も大きい。控えの間が震えるほどの声量で、彼は大笑いした。


「殿下と愚息のリュックは、わたしが鍛えました」


 彼は、控えの間の長椅子では小さすぎるみたい。というよりか、既製の家具類のサイズはすべて小さいに違いない。だから、彼はいまも立ったままである。


「妃殿下、そうとう暴れられたとか」


 ラザールの髭面の下に真っ白な歯が見えた。


 というか、彼ってたしか政治家として有能だったときいた気がする。それなのに武闘派なの?


「師匠は、文武両道なんだ。将軍でありながら、政治的手腕もかなりのものというわけだ。だから、父上がもっとも信頼している」

「そうなのよね。でも、すごくお茶目さんなの。こういう見た目でシャイすぎるから、他人に誤解されやすいわけ。それに、正義感が強すぎるのよね。昔、政治家たちの不正やごまかしが耐えられなくてブチぎれてひきこもってしまったのよ」


 レイモンドに続いてロッテが説明してくれた。


 だけど、これからはそういう人がこの国を、レイモンドを支えてくれることになる。


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