ヤッたかと問われましても……
「というより、そんなことはどうでもいいの。わたしとヤッて楽しむですって?」
ノッポと太っちょから、偽王太子の方へ体ごと振り向いた。彼は、鉄格子の向こうで舌なめずりしている。
まるでそれで気色悪い感じを強調するかのように。
「わたしとヤル為にわざわざこんなことを? ヤリたいだけなら、やさしいレディとすればいいじゃない、この王都に、いくらでもいるでしょう? わたしより美しくて従順なレディがね」
ド正論すぎるでしょう?
「おまえでなければダメだ。ダメなんだよ。おれのタネをおまえに与えてやる。将来、その子が国王になる」
「はああああああ? あなた、すごい自信ね。たった一回ヤッタだけでできるって思っているの? ドンピシャ的に授かるとでも? 大当たり―ってことに? タイミングバッチリよねって感じで? だとすれば、生命の神秘もビックリだわ。それとも、子どものときにきかされた『鳥さんが赤ん坊を運んでくるの』をまだ信じているわけ? だとすれば、夢みる純真少年もビックリするに違いないわ」
ほんとうにいろいろな意味で驚きだわ。
自分でもちょっと違うかもしれないって思いつつ、控えめに指摘してしまった。
「うるさいうるさいうるさいっ!」
鉄格子の向こうで、偽王太子は三歳児みたいに地団駄を踏んでいる。
「おれはうまいんだよ。たった一度で充分。おまえに種を植え付けさえすれば、かならずや育つ」
あのねぇ。雑草ではないのだから、そう簡単に育つわけではないの。
そう言い返したかったけど、彼の狂気に満ちた瞳を見て諦めた。
ダメだわ。こいつ、ヤルことしかない。
「レイモンドとは何十回ヤッた?」
どう対処するか考えていると、偽王太子がものすごく個人的なことを尋ねてきた。それって、微妙すぎる質問だわ。
「まあ、何十回、何百回ヤッたところで、子は出来ないがな。あいつは下手糞すぎる。だから、おまえはぜったいに物足りない」
ちょっ……。
いまの、いろいろツッコみたいんですけど。
グッとグーッとガマンしなければならない。
でも、確認したくて仕方がないわね。
「おあいにくさまね」
また腰に手をあて、「ふふふん」と鼻を鳴らしてから続ける。
「レイモンド、いえ、王太子殿下はすごいわよ。精力的で高度なスキルを持っていて、最高だわ。アレっていうのは、本性が出るでしょう? そもそもの人間性が強調されるのよ。彼は、間違いなくこの大陸で、いえ、この世界で一番の男性よ。だからこそ、あっちの方でもすごいというわけ。毎晩、激しくヤッているわ。それこそ、一晩中眠る間もなくね。いつもやさしく教えてくれるし、恍惚感、それから満足感を与えてくれる。フツーでもそうだけど、あっちの方でもしあわせすぎて怖いくらいよ」
いまのわたしって、うっとりした表情になっているに違いないわね。
「へー、さすがは『氷竜の貴公子』だ。あっちの方も貴公子ってわけだ」
「さすがは将軍。剣や戦いだけでなく、あっちの方もすごいのか」
ノッポと太っちょが感心している。
まぁ、嘘はついていないわよね。うん。ヤル内容を曖昧にしているだけ。
まったくの嘘だったり誇張だったり、ということはなかったわよね?
うん。やはり大丈夫。誤解されるような言い方はしていない、はず。
「ふんっ! だったら、おれの方がずっと上手だ。上手に出来るっ!」
偽王太子は、拳で自分の胸を叩いて宣言した。
嫌よね、オスって。くだらないことを主張して。それに、ムダに競争心があって。
まるで五歳児だわ。いいえ。それ以下ね。




