ヤルんですって?
「きいて驚いたか? ここは、すごいところだろう?」
偽王太子は、まるで自分がこの精神病院もどきの建設を計画・設計して建て、何百年と管理しているみたいにエラそうに言った。当然、すべての資金も彼持ちである。
「でっ、それで? それがなに?」
実際のところ、興味は尽きない。
その当時、ここに閉じ込められた王族たちや上流階級の人たちは、ほんとうに精神を病んだことによって閉じこめられたのかしら。それとも、策謀などによって無理矢理閉じこめられたのかしら。閉じこめられた人たちの待遇はどうだったのかしら。どういう気持ちだったのかしら。
いろいろなことを考え、想像し、想いを馳せる。
まるで小説のストーリーみたいで、こういうのは嫌いではない。
だけど、それはまた後日ね。いまは、そんなのんびりムードではないから。
とりあえず偽王太子にたいしては、まったく興味がないというオーラを出しまくってみた。
「妃殿下っ」
「妃殿下っ」
すると、またノッポと太っちょが鋭く呼んだ。
いったいなんなの?
睨みつけると、二人は視線をそらした。
「ここの歴史や歴史的価値には興味がないの。さっさと用件を言ってくれないかしら」
腰に手をあて傲慢な感じで尋ねると、偽王太子は鉄格子の向こうでニヤッと笑った。
それがまたフツーの精神状態っぽくなくてゾッとしてしまう。
「ヤルんだ」
「はい?」
「ヤルんだよ」
「はいいい?」
彼の要領を得ない答えに、耳に手をあて無言で尋ね返した。
「おれとヤッテ楽しむのだ。その為に、おまえはここにいる」
いまや彼の血色の悪い美貌には、冷酷以上に冷たいものが浮かんでいる。
それを認めた瞬間、背筋に冷たいものが走った。
彼は、完全にイッテしまっているわ。
そう確信をした。
「ヤッテ楽しむって、何をよ」
わかっているけれど、念のため尋ねてみた。
万が一にも、お茶を飲むとかダンスをするとか朗読するとかウオーキングをするとかだったらダメだから。もしくは、格闘術や剣術の稽古だったらいけないから。
もしかしたら、わたしがイヤらしい妄想に溺れているもしれないし。
「きまっているだろう、このクソ女っ!」
突然、彼がキレた。
こういうキレ方も、イッちゃっている証拠よね。
「なにがきまっているのよ、このクソ野郎っ!」
冷静なわたしは、穏やかに尋ね返した。
「妃殿下っ!」
「妃殿下っ!」
すると、またノッポと太っちょに呼ばれた。
「なんなのよ、その他大勢っ!」
やはり、冷静に尋ねてみる。
「もっとやさしくお願いします」
「もっとレディらしい対応をされた方がいいかと……」
「なんですって?」
いわれのないひどすぎる助言に、思わず叫んでしまった。
「やさしいレディ? だったら、あなたたちは人違いをしているのよ。やさしい王太子妃だったら、他の国から連れて来ればいいわ」
「そういう問題ではないでしょう」
「そうです。あなたがおとなしく従順になればいいだけのことです」
「バカ言わないでっ! いままでそうだったのよ。どこの国でもそうやってきたの。もちろん、いまもそう。これ以上、おとなしく従順になんて出来るわけがないし、するつもりもないわ」
もっとも、いまはもうやっていないけれど。一応、そうごまかしておいた。




