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主寝室で彼と二人っきり

 レイモンドが少しでも近づいてくると、ついつい「近い」と指摘してしまう。いいえ、訂正。「近いわよ」と怒鳴ってしまう。


 辛抱強い彼は、文句をタラタラ言いながらも少し距離を置いてくれる。


 レイモンドは、二人きりのときはまだマシである。たいていは、わたしの言いなりに、もとい意見をきき入れてくれる。

 そういう彼は「ガマン強いわね」と感心してしまう。それこそ、他人事みたいに。


 それはともかく、この夜も二人で話をしていた。キングサイズの寝台に並んで座って。とはいえ、二人の距離は、かなり離れているけれど。


 偽王太子アルフォンスの処刑、というよりかは自害する日が決まったらしい。


 反逆者アルフォンスは、本来なら多くの人々が見守る前で斬首に処せられる。だけど、今回のこの事件に関しては、公には出来ない。国王陛下や王太子であるレイモンドの威信にかかわるからである。


 だから、密かに毒杯を飲むことになった。その日が決定したのである。


「十日後だ」


 レイモンドの横顔を見つめていると、彼がポツリと言った。


「これで一応、決着ケリはつく。あとは、宰相を彼の領地に追い払う。きみが図書室やバラ園で見聞きしたことが有力な証拠になるからな」


 偽王太子アルフォンスと宰相が、図書室で密談しているのを目撃したことがある。それから、バラ園で直接会って会話をかわしたことがある。それらが証拠になる。


「宰相を追い払うことが出来れば、宰相派の官僚や貴族たちをどうにかする。じつは、ラザール・シャリエ公爵が復帰することになった」


 ラザール・シャリエ公爵は、可愛らしい仔犬ちゃんことリュック副将軍の父で、ロッテの夫で、国王と宰相マチアス・バルリエの幼馴染らしい。


 というか、国王と宰相マチアス・バルリエって幼馴染だったの?


 宰相って頭のてっぺんが剥げて残念だから、ものすごく老けて見えるのですけど。


 シンプルに驚いてしまった。


 それはともかく、ラザールは宰相よりもずっとずっと有能な政治家らしい。しかも、人徳者でもあるとか。


 しかし、いかんせんラザールには野心がない。宰相のバルリエ公爵家が筆頭で、シャリエ公爵家が第二位ということをさしひいても、自分が宰相になったり政界を牛耳ったりしたいという意志はいっさいなかったらしい。


 あるとき、宰相とラザールがぶつかった。宰相が、ムダに重税を課そうとしたからである。それだけでない。それまでにも、自分たちが肥え太ることしか頭にない。そういうもろもろのことが積もり積もっていた。


 結局、ラザールはブチギレた。


 政界からきっぱりすっきりさっぱり去ったのだ。


 彼はそのまま屋敷にひきこもり、いっさいの社交を断った。


 今回、国王がそのシャリエ公爵を説得しまくったらしい。幼馴染の頼みというよりか、このままでは政治だけでなくベシエール王国がなりたたなくなってしまう。上流階級がどのようになろうとかまわない。しかし、多くの国民を犠牲にするわけにはいかない。


 国王は、懇々と説いた。切々と諭した。くどくどと愚痴った。


 ラザールは、ついに折れた。国王の情熱に負けたというよりかは、面倒くさくなったらしい。説得に応じ、重い腰を上げた。


 そういう経緯はあるけれど、ラザールのように自分のことより国民のことを考える政治家だったら間違いないわよね。


 昔、いろいろなことがあったに違いない。宰相マチアスとの確執もすごかったのかもしれない。それでも、国民の為にと味方になってくれるのなら、国王やレイモンドにとってこれほど頼れる人はいないわよね。


 そんな素敵な政治家が活躍するということは、国王やレイモンドだけでなく多くの国民にとってもよりよき将来につながることになる。


「これでひと安心だ。きみのご家族の捜索に集中出来るようになるだろう」

「それはうれしいけれど、近いわ」


 いつの間にか、レイモンドが近くなっている。シーツの上で、ズリズリとお尻をずらしてきたに違いない。


「あ、気がつかなかった」

「嘘よ。わざとでしょう?」

「いや、違う。話に夢中になっていて気がつかなかったんだ」

「いやらしいったらないわね」

「だから、違うって」


 彼は、大声で否定するなり寝台から立ち上がった。


 そして、わたしの前に立つなりエラそうに見下ろしてきた。




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