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殿下、彼女ともうヤッちゃったんですよね?

 レイモンド、勘弁してちょうだいよ。わたしたちの初対面のちょっとしたやり取りのことを知っているのは、いったいどれだけの数にのぼるわけ? もしかして、当時王宮にいた人たちみんな知っているのではないでしょうね?


 そのとき、ローテーブルをはさんで向こう側に座っている彼と目が合った。


 彼がたじろいだ。上半身が、わずかにのけ反ったのである。


 そのタイミングで、侍女が紅茶を運んで来てくれた。


 セッティングしてくれている間、公爵夫人はわたしに話しかけてきた。


「ロッテという愛称で呼んでね」

「気が合いそうだわ」

「マナーなんてあってないようなものだから、難しく考える必要はないわよ」

「いっしょにすごしていてわからないことがあったら、遠慮なく尋ねてね」


 彼女はずっと話しかけてくれるけれど、可愛いすぎてしかも若く見えすぎるのが謎すぎる。それに気をとられてまったく頭に入ってこない。


 侍女が出て行った。


 とりあえず、気持ちを落ち着かせたい。いろいろな意味で。


 紅茶を飲むことにした。


 ローズティーね。


 庭園の一画にあるバラ園のことが頭に浮かんだ。


 そもそも、あそこでレイモンドと出会った。そのとき、彼が襲撃者に背後から襲われそうになったところを、わたしがショベルでぶっ飛ばしてしまった。


 それがすべての始まりだった。


 バラ園で起こったあの事件が、こんな事態に陥っているそもそもの元凶である。


 今後、バラがトラウマになりそうだわ。


 とはいえ、このローズティーはいい香りね。


 使っている肥料は、強烈なにおいだけど。


 いまだに鼻についている。


 偽王太子のアルフォンスは、肥料、つまりクソにまみれまくった。その彼に絡んだときに、いえ、彼に絡まれたときにその強烈なにおいが移ってしまった。


 ローテーブルの向こうを上目遣いにうかがうと、レイモンドもちょうど紅茶を口に含もうとしている。


「それで、殿下。エリカとはもうヤッちゃったのですよね?」


 ロッテが可愛らしい声で尋ねた。


 口に含んだ紅茶をふきだしたのは、わたしだけではなかった。


「な、な、な、な、なんだって?」


 動揺のあまり、むせ返りまくっているのもわたしだけではない。


「『なんだって?』、ですって? ねえ、メグ? きまっているわよね。大人の男女、というよりかは夫婦でしたら、まずヤル・・ことがありますわよね?」


 ゴホゴホとむせ返りつつ、またレイモンドの方を見てしまった。すると、レイモンドもそのおなじタイミングでわたしを見た。


 当然、視線がバッチリ合うわけで……。


 ロッテの「ヤッちゃった」の一語が、やけに生々しく耳に残っている。途端に耳が熱くなってきた。いいえ、訂正。耳だけではない。顔全体が熱くなっている。顔が真っ赤になっているのに違いない。


 レイモンドの顔も、真っ赤なリンゴよりも真っ赤になっている。


 ここに来るまでの大廊下で、彼の顔が真っ赤に見えたことをふと思い出した。


「い、いえ、わたしたち、その……」


 火照りまくっている顔を彼女に向け、何か言おうとするも言葉が出てこない。


 いいえ。何を言っていいのかさっぱりわからない。


「まあ、二人とも」


 ロッテは、少女のようにクスクス笑い続けている。


「さすがに子どものときにヤッちゃうのは早すぎますが、いまならヤッちゃうのは自然ですわ。夫婦なのですし」


 彼女は、レイモンドとわたしを交互に見た。それから、首を傾げた。その間もクスクス笑いはずっと続いている。


 可愛らしい人は、どんなことをやっても可愛らしいのね。


 つくづく感心してしまう。


「ロッテ。その、ゴタゴタがあったのはきいていますよね?」

「ええ、殿下。アルフォンスのことですわね? いまさらですが、殿下よりあの子の方に真剣に向き合うべきでしたわ」


 彼女はクスクス笑いをやめ、大きな溜息をついた。


 そんな仕草でさえ、ドキッとするほど可愛らしいからすごいわよね。


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