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きみへの態度がムカついたんだ

 宮殿の大廊下を、レイモンドのうしろを神妙に歩いている。彼とは、少しだけ距離をおいて。


 親衛隊の隊員たちは、さらに距離をおいてついて来ている。


 大廊下を行き交う人はいない。少なくとも、いまはいない。それどころか、わたしたち以外に人の気配はない。


「ちょっと、どういうことなの?」


 スラッとした背中に問いかけた。レイモンドは、これまで将軍として戦時中であろうとなかろうとたいてい最前線にいた。だから、金髪はさっぱり刈り上げている。


 小説や子ども向けのお話に出てくるような王太子や皇太子というのは、たいていやわらかい金髪がクルンとなっている。


 が、彼は違う。ガチガチの兵隊カットに徹している。


「なにが? どういうことって、なにに対してどういうことなの?」


 レイモンドはこちらを振り返らず、足を止めることなく問い返してきた。


「その、いっしょの部屋。そう、いっしょの、いえ、わたしの部屋がかわることよ」

「きみの部屋?」


 彼は、まるでわたしがいやらしいことを彼の耳にささやいたかのように頓狂な声を上げた。


「ああ、おれの部屋に移るってことか」


 彼が急に立ち止まったので、もう少しでその背中にぶつかるところだった。


「急に立ち止まらないでよ」

「ムカついているんだ」


 抗議すると、彼は真面目な表情で「ムカついている」発言をしてきた。


「はいいい? ムカついているって、わたしのどこに対して。ええ、わかっている。答えなくっていいわ。どうせ『全部にきまっているだろう』とか言うつもりでしょうから」

「バカだな」


 彼は、鼻で笑った。だけど、いまだ美貌には真剣な表情が浮かんだままになっている。


「きみに対してではない。きみを蔑み、蔑ろにする連中に対してさ。だから、いっしょの部屋にするからきみが移動すると宣言をした」


 ああ、なるほど。


 わたしの専属の侍女レリアや侍女長に対してムカついているわけね。


 そうね。彼が宣言してくれたから、わたしも溜飲を下げることが出来た。


 そのことについては、彼にお礼を言わないといけない。


 それなのに、いきなり「どういうことなの?」って彼に詰問するなんてあり得ないわよね。


 では、いまよね。いま、このタイミングでサラッとスキッとシレッと「ありがとう」と感謝の言葉を伝えるべきよね。


 たった一語なんだし、簡単なことよ。


「あのねぇ、レイモンド。わたしは、これで部屋をなくしてしまったのよ。今夜からどこで眠ればいいわけ? ああ、そうね。わたしたちの思い出の場所の森の中の隠れ家。あそこの地下室に隠れ、ひっそりと眠ればいいのね。あなたが逃げ隠れしていたように」


 わたしって、バカなの?


 どうしてベラベラといらないことを喋っているのよ。どうして必要なたった一言ではなく、不要なことを囀りまくっているのよ。


 自分で自分が信じられないわ。


 レイモンドに感謝しているはずなのに、嫌味をぶつけているし。


 このパターンでいけば、彼も嫌味を返してくる。いいえ。嫌味どころかとんでもない誹謗中傷を叩きつけてくるかも。


 思わず、身構えてしまう。


「だから、きみはおれの部屋に来ればいいんだ。部屋はちゃんとある。眠るところだって、キングサイズの寝台がある。大の字になろうと端から端までゴロゴロ転がろうと、充分ゆったりぐっすりまったり眠ることが出来る。なにも隠れ家に行って地下室で眠る必要などない」


 が、彼は真面目な表情のまま嫌味や誹謗中傷を叩きつけるようなことはしなかった。


 なに? なんなの? これは、何かの罠?


 レイモンド。あなた、もしかしてわたしに罠を仕掛けようとしているの? それとも、悪質極まりないいたずらでもたくらんでいるの?


 余計に身構えてしまう。






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