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侍女がねぇ、面倒くさいの

 人の口には戸が立てられないということは、往々にしてある。


 偽王太子アルフォンスの事件も、どれだけ秘密にしてもしきれるものではない。しかも、宰相マチアス・バルリエの姿も表舞台から消えてしまったのである。そして、国王陛下の突然の復帰。さらには、レイモンドが王都に戻ってきて王太子になった。


 まあ、彼はもともと王太子だったので、その座に就くのは当然なんだけど。


 それはともかく、レイモンドと国王はそれからが大変だった。


 控えめに言っても、多忙をきわめまくった。それこそ、トイレでゆっくりしゃがむ暇もないほどである。


 事件の関係者の断罪はもちろんのこと、宰相の代行者を任命しなければならない。


 そこで、宰相一派のやり方に不満があった為に閑職に甘んじていた官僚たちを起用し、しばらくの間様子をみることになったらしい。


 当然の対処と言えばそうよね。


 そんなバタバタの中でも、かわらないのはわたしの身辺である。


 専属の侍女であるレリア、それから侍女長のアメリー・コメットは、あいかわらずわたしをバカにしている。


 今回の事件のような噂、というよりかは真実は、侍女たちの情報網の方がよほどはやくて正確である。


 だから、彼女たちも知っているはずなのである。何が起こり、どうなったかということを。


 その上でなお、わたしにケンカを売ってきている。


 いまやわたしは、れっきとした悪女。正当な王太子の悪妻。


 彼女たちにケンカを売られたとしても買うくらいで、屁とも思わない。


 とはいえ、悪ぶっているのは自分がそう思っているだけで、実際はそうではないかもしれない。


 なにせわたしは、生来気が弱くて臆病だから。


 というわけで、今朝も朝一番からレリアにケンカを売られた。


 そういえば、あの事件直後の洗濯物の一件以来、彼女がわたしのことを無視することはなくなった。


「だから、しなくていいと言っているでしょう?」


 レリアは、部屋に入ってくるなりブスッとした表情で洗濯籠を置いているところに向った。


 あの事件直後、彼女に衣服を洗濯するようお願いした。偽王太子のアルフォンスと揉めたとき、肥料のにおいが染みついてしまったのである。彼女は、あろうことかわたしの部屋の中で洗濯籠をぶん投げた。それがたまたま鏡にあたり、ヒビが入ってしまったのである。


 いまだに鏡にヒビが入ったままである。交換してくれたり修理に出してくれたり、なんてことはしてくない。


 しかも彼女は、そのことについていまだにだんまりをきめこんでいる。


 彼女がわたしの部屋で大暴れしたとき、偶然レイモンドがわたしに会いに来た。彼がその瞬間を目撃しなければ、どうして鏡にヒビが入ったのか謎のままだったに違いない。


 というよりか、ヒビが入っていることに気がつかなかったかもしれない。


 鏡の前で自分を見つめるなんてこと、めったにしないから。


「洗濯をしろとおっしゃいましたが?」


 彼女は、ブスーッとしたまま尋ねてきた。


 まるでわたしが、ドラゴンのよだれかけかフェンリルの靴下を洗濯して来いと命じたかのように。


「あのねぇ、それは前の話でしょう? あなたがあまりにも暇そうにしているから、仕事を与えてあげたの。だって、そうでしょう? わたしの部屋の扉に耳をくっつけ、日がな一日様子をうかがっているんですもの。あなたがちゃんとお給金をもらえているのかどうか、心配でならないのよ。わたしは、あなたがわたしを蔑ろにしているように、これまでいろいろなところで同じように蔑ろにされてきたわ。侍女やメイドたちは、なーんにもしてくれなかった。だから、わたしは自分でやってきたの。わたしが何を言いたいのかわかる? 料理、洗濯、掃除、お裁縫。わたしはそういった家事や大工仕事など、自分である程度出来るの。あなたよりもよほどうまくね。ということは、別にあなたがいなくてもかまわないわけ」


 息継ぎなしでまくしたてたから、酸欠状態だわ。というか、貧血を起こしそう。


 いやだわ。やはり、わたしは気弱よね。思っていることの三分の一すら言えないのだから。


 テラスへと続くガラス扉から庭を見下ろし、息を整え心を落ち着けた。


 クルリと体ごと振り返ると、なんとレリアが泣きそうな表情になっている。



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