表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/80

厨房でかくれんぼ

「ほら、やはりいない。だいたい料理やスイーツを作るわけでもないのに、厨房にいる理由がないですよね」

「おまえは彼女のことを知らないからだ。きまっているだろう? 彼女、食いしん坊なんだ。というよりか、つねに飢えている。だから、厨房に忍び込んでは食い物を奪っていく。覚えているか? 昔、森の中の例の隠れ家で、作物を育てていただろう?」

「ええ、もちろん。トマトやパステークなど、美味かったですよね」

「子どもの頃、あれだって食い尽くされたんだ。大人になってからも同じさ。まるでいなごロウカストだ。大量に飛翔して来て、すべてを食い尽くすってやつ」

「ちょっと、いい加減なことを言わないでちょうだい」


 あまりの誹謗中傷に、立ち上がって怒鳴り散らしてしまった。


「ほーら、見ろ。やはり、ここにいただろう?」

「え、ええ」


 エラそうに腕組みをしているレイモンドと仔犬のリュックが、調理台を幾つもはさんだ向こう側に立っている。


 腹立たしいことに、レイモンドの美貌には勝ち誇った表情が浮かんでいるじゃない。


 二人とも、森の中で別れたときのまま将校服姿である。距離があるにもかかわらず、美貌と可愛い顔は疲労がにじみでているのがわかる。


「エリカ。きみの部屋に行ったら、きみの侍女がきみの部屋で暴れていたよ」

「なんですって? 侍女が暴れている?」

「ああ。洗濯籠をぶん投げていた」


 いますぐ走っていって、レリアをぶん投げてやりたいわ。


「そう。彼女、わたしに似て豪快なのよ。ぶん投げるって、斬新な掃除方法でしょう? 彼女、侍女としては最高よ。だからお腹が減ったらこうして厨房に足を運んで食べ物を物色し、いなごロウカストのごとくすべてを食らい尽くさないといけないの」


 ふん。これでどうよ。


「なるほど。リュック、いまのをきいたか? 彼女、やさしいだろう? へっぽこ侍女をかばったり、負担をかけたりしないのだから」


 ムカつくわ。


 レイモンド。あなた、わたしにケンカ売っているわよね?


 子どもの頃、ちょっとトラブルがあったからって、いまさらこんなに虐めたりする?


 だいたい、子どもの頃のトラブルって時効じゃない。


「ここにはへっぽこ侍女しかいないから、いちいち目くじら立ててもキリがないのよ。それで? 何か用事かしら」

「偽王太子のせいだな、それは。あー、なんだか厨房に来たら腹が減ってきた。リュック、おまえは?」

「え、ええ。ぼくも減っています」

「ちょっと、なんなのよ? わたしに作れというわけ? 食いしん坊で飢えまくって盗人猛々しいわたしが、将軍閣下と副将軍閣下の為に作らないといけないわけ?」

「妃殿下。それはぼくが……」

「いや、リュック。おれがやる。彼女、生食専門だから料理は作れないだろうからな」

「生食専門ですって? 全部が全部生で食べるわけないでしょう。それに、わたしは調理するのは得意なのよ。いままで、自分のことはある程度自分でやってきているから。ほら、何をしているの。さっさと料理に使える食材を探してちょうだい」


 あれ? もしかして、レイモンドにまんまとのせられた?


 気がついたけど、まぁいいわと気を取り直した。


 美味しい料理を作って彼をぎゃふんと言わせる方が、よほど気持ちがいいはずだから。


 かくして、見つけ出した食材を使い、ちょちょいのちょいで作った。


 とはいえ、見つけたのが根菜や葉物の野菜とベーコンだったから、単純にごった煮にした。それに、硬くなったパンとチーズを添えた。


 時間をかけられないということもある。


 夕食の準備は、もう間もなく始まる。料理人たちが戻って来るまでに、ここから退散しなくてはいけない。


 作ってから、カートに鍋や食器類をのせ、さっさと退散した。


 食材の一部分がなくなっていることはすぐにバレてしまう。


 そこは、レイモンドがうまくやってくれるでしょう。


 なにせ、彼は本物の王太子だから。


 そして、カートを偽王太子が使っていた執務室へと運びこんだ。というよりか、本物の王太子の執務室ね。


 正直なところ、レイモンドが本物の王太子であることに慣れていない。いまだに偽王太子のアルフォンスが王太子だと錯覚してしまう。


 こんなこと、レイモンドには言えないけれど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ