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レイが来てくれた

エリカ・・・、死なないでくれ」

「ちょっと、勝手に殺さないで。死なないわよ」


 レイに抱かれながら、思わずそんなかわいげのないことを口走っていた。


 よかった。ちゃんと発声して、意志を伝えることが出来た。


 そのとき、レイがわたしのことを「エリ」ではなく「エリカ」と本名を呼んだことに気がついた。


「よかったよ。それだけの憎まれ口を叩けるんだったら、死なないよな」


 レイの美貌が、泣き笑いの表情にかわった。


 キュートだわ。


 彼のそんな表情に、ドキッとしてしまったのは気のせいね。


「きみに注意される前に言っておくよ。距離が近すぎるのは、重々承知している。これは、きみがいますぐ死んでしまわないかを確認する為だ。たとえいますぐには死ななくっても、死にそうなほど痛いとか苦しいとかで体を動かしにくいはずだ。だから、たとえいまきみが怒り狂っておれをショベルで殴り飛ばしたとしても、きみから離れるつもりはない。それから……」

「わかっているわよ、もう。だれかをショベルで殴り飛ばすのはこりごり。そのせいでこんなことになっているんだから。そうね。どうせなら、拳をくれてやりたいわ」


 レイが側にいてくれている。彼に抱かれている。


 それだけで元気が出てくる。


 思考や精神力は、ちゃんと戻ってきている。


 さっきまでの恐怖心や苦痛が嘘のように消え去り、いまは安心とよろこびに心も体も満たされている。


「ああ、なるほど」


 彼は、真面目な表情で一つうなずいた。が、すぐにまたやさしい笑顔にかわった。


「エリカ、遅くなってすまない。きみを危険にさらしてしまった」

「どうして?どうしてわたしの名前を?っていうか、やっぱり近すぎるわ。起こしてちょうだい」


 わたしのバカ。


 ほんとうはこのまま彼に抱かれていたいのに、どうして可愛くないことばかり口走るの?


「あー、そのことはまた後で。ほら、起き上がれるかい?」


 あいかわらず、彼はわたしの言いなりになってくれる。


 やさしく起こしてくれ、床の上に座らせてくれた。


「そうだわ。あいつは?王太子は?」


 レイに会えたうれしさで、クソまみれの王太子のことなどすっかり忘れていた。


「向こうの暗がりに転がっている」


 レイは立ち上がり、ロウソクを灯した。


 地下室に灯りが戻った。


 ホッとする。


 彼は、椅子も持ってきてくれた。助けてもらいながらそれに腰かける。


 すると、地下室の入り口近くに王太子が転がっていることに気がついた。縄で縛られた状態で、うんうん呻いている。


 さっきのくぐもった音。あれは、レイが王太子を殴ったか何かしたのね。


 レイとの初対面で、彼が剣をよく遣うことを思い出した。


 あのときも、彼は剣で襲撃者たちを圧倒した。


「エリカ、ほんとうに大丈夫かい?」


 レイがすぐ横に立っていて、わたしの顔をのぞきこんでいる。


「おっと、すまない」


 わたしが見上げると、彼は姿勢を正した。


 また「近すぎる」って叱られると思ったに違いない。


 正解だけど。


 そのときになってやっと、彼が軍服に身を包んでいることに気がついた。しかも、将校服で胸元にたくさんの勲章がぶら下がっている。それらは、ロウソクの灯を受けてキラキラ光っている。


「レイ、あなたは何者なの?」


 この疑問を叩きつけずにはいられない。そして、答えをぜったいに得たい。


 どれだけ悩み、推測をし、悶々としたりイライラしたことか。


 いまこの場ではっきりさせないと、わたしはどうにかなってしまいそうだわ。


「まず、そこよ」


 悪女らしく、椅子の上でふんぞり返った。


 レイに会えばそれだけで満足だと思っていた。だけど、会うことがかなえばそれ以上のことを欲してしまう。


 人間の業ってすごいわよね。


 もしかして、わたしが欲張りなだけかしら?


「いまのが、おれの問いに対しての答えのようだね」


 彼は、やわらかい笑みのまま違うことを言いだした。


「ほら、『大丈夫かい』って尋ねただろう?それだけエラそうに出来るんだ。大丈夫じゃないわけないよな?」


 仰る通りよ。


 彼のお蔭で、先程の王太子の暴力の影響はほとんど残っていないはず。


「エラそう?失礼ね、まったく」


 わたしったら、すっかり悪女っぷりが板についてしまっている。


 そんな必要などないのに。


 これだけ会いたかったレイなのに、いざ会ってみるとどうして素直になれない。


 自分でも、その理由がわからない。


 うれしくてうれしくてたまらないのに、どうしてこんなにつっけんどんになってしまうのかしら?


 これまで、他者とこんなふうに接したことがないから、気持ちと正反対の行動をとってしまう自分自身がわからない。




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