表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/80

ムカつく奴

 目が覚めたのは、物音がしたからである。


 すぐに覚醒した。なぜなら、室内に人の気配を感じたから。


 感じたときには上半身を起こしている。


 悲鳴をあげそうになったけど、必死に呑み込んだ。


 驚くべきことに、寝台のすぐ横に人が立っているのである。


「いくらなんでも失礼すぎるわ」


 さすがのわたしもカチンときた。以前のわたしでもカチンときたはずだ。ただ、以前は怒りをあらわさなかっただけである。


 思わず、言葉をあらためることも忘れて非難してしまった。


 いつからいたのだろう。ということは、わたしの寝顔を眺めていたことになるわけよね。


 いったい、どういうつもりなの?


 そんなに長時間じゃなかったはず。だけど、もしかしたらイビキをかいていたり寝言を言ったり歯ぎしりをしていたかもしれない。


 いいえ、そこじゃないわね。

 そもそも女性の部屋に無断で入ってきて、眠っているのをじっと見下ろしたりする?


 そんなことフツーするの、王太子殿下?いいえ。夫であるはずのあなたは、平気でそんな非常識なことをするわけ?


「殿下、どういうつもりなの?」


 何の感情も浮かんではいない王太子の美貌に向かって問い詰めた。


「ノックはした」

「はあ?」


『ノックはした』、ですって?

 それで?返事もないのに入ってくるわけ?


 それが例え返事がなく扉を開けたとしても、部屋の主が眠っていたらフツーは入って来ないわよね。


 やはり、彼はフツーじゃないのかしら?


 図書室での密談が思いおこされる。


 ちょっと待ってよ……。


 急に怖くなってきた。


 もしかして、バレているの?


 そうではなく、疑われていて確かめるとか揺さぶりをかけに来たのかしら?


 これまで、王宮で彼とすれ違ったことすらなかった。それどころか、遠くいるのさえ見かけたことがない。視界の片隅にチラついたこともない彼が、いきなり部屋を訪れて来て寝顔をじっと見つめるだなんてこと、あるわけないわよ。


 それこそ緊急の用事か、あるいは捜している人物を見つけたのでないかぎり。


 大丈夫。怖れちゃダメ。がんばるのよ、わたし。


「ノックはしたって、返事がなければフツーは入室しません。ちょっと、そんなにジロジロ見ないで」


 自分では噛みつくような勢いで責めているつもりだけど、もしかしたら声が震えていたかもしれない。


「死んでいるのではないかと思ったのだ」

「はああああ?」


 ああ、もうっ!この男、めちゃくちゃムカつくんですけど。


 想像も出来ないような返答ばかりじゃない。


 しかも、無表情でだなんて。


「ああ、なるほど。それはお気の毒さまでした。死んでいた方がよかったでしょうに。死んでいなくて申し訳ないわ」


 怒りは、かえってわたしに勇気を与えてくれる。


 辛辣に返してやった。


 彼が寝台から一歩下がったので、さっと寝台からすべりおりて彼の前に立った。


 ああ、しまった。


 寝間着代わりのシャツとズボンは、一番ボロボロのを使用している。


 彼がわたしを頭の先から爪先まで見つめている。


 見下すようなその視線に、またしても怒りを覚えてしまう。


 そうだわ。彼に服を買わせようと思っていたんだっけ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ