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下女と王太子

「下女、なの」


 決めたら即行動。だから、彼を睨みつけながらつっけんどんに言った。


 言ってから、いきなりミスったことに気がついた。


 なんて態度がでかくて横柄な下女なの?ありえないわ、こんな下女。


 こんなのを雇うって、王宮の使用人採用担当者の怠慢だわ。


「きみが下女?」


 ええ、わかっているわ。当然の反応ね。


「ええ。悪いかしら?わたし、勤務中以外は態度がちょっと、なの」

「はあ……」


 彼は、あきらかに納得していない。


「あなたは?わたしが答えたんだから、あなたも答えなさいよ」


「休日は態度でかっ」の下女のふりをし続けるしかない。


「あー、そうだなぁ」


 彼は、わたしから視線をそらすとそれを天井へと向けた。


 つられて天井を見上げると、キャンドルシャンデリアがぶら下がっている。


 いまにも鎖が切れてしまいそうだわ。しかも、埃だらけの蜘蛛の巣だらけじゃない。


 鎖、切れないわよね?


 見るんじゃなかったわ。


 それにしても、キャンドルシャンデリアなんてどこの国でも見たことがなかったわ。過去の遺物よね。


「きみが下女なら、おれは王太子だ。命を狙われていて、ここで隠れている。っていうのはどうだい?」


 またしても、彼は幼児以下の答えを投げつけてきた。だから、思わず笑ってしまった。


『だとしたら、あなたはわたしのほんとうの夫ね。そして、わたしはあなたの「戦利品妻」ってわけよ』


 と言いかけ、慌てて口を閉じた。


 それにしても、でかくきたわね。


 偽るのはいいけど、いくらなんでもそんなバレバレの嘘はよくないわ。


 だけど、ツッコむのはやめておいた。


 関わり合いになってはダメだから。


「レイ。ということは、あなたはわたしの大雇い主というわけね。はじめまして。雇ってくださってありがとうございます。がんばりますから、お給金をアップして下さい」


 意地悪な笑みとともに言ってやった。


「大義だ、エリ。給金のことは、きみの働きを見て検討するとしよう」


 すると、彼は背もたれから背中を引き剥がして姿勢を正し、威厳たっぷりに返してきた。


 また笑ってしまった。すると、彼も笑いだした。


 しばらくの間、二人で笑い続けた。



 不思議な出会いだった。


 帰りは、バラ園が見えるところまで彼が送ってくれた。


 別れ際、また来てほしいと言われた。バラ園までの間に、レンガ造りの屋敷にいたるまでの道しるべを教えてくれていたのである。


 目印になる木とか茂みとかを指し示し、教えてくれた。それだけでなく、目印がないところには石を転がすとかわずかに土を盛るとか、二人だけにわかる目印それを作ってくれた。


 いくらなんでも、これだけしてくれれば迷うことはない。


 彼に「また来てほしい」と誘われたのも驚きだけど、「かんがえておくわ」と拒否をしなかった自分に対しても驚いてしまった。


 宮殿へと歩きながら、また行ってもいいかなと思っているのは、あのみずみずしくって甘くて美味しいトマトやパステークを食べたいからね、と結論付けた。



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