表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/80

恥とトマトとパステーク

 一瞬のことである。


 ゴロゴロしている石やら小岩やらに、背中があたってしまう。


 すぐにでも衝撃やってくることを覚悟した。


「おっと」


 そのとき、彼が背に腕をまわして抱きとめてくれた。


 彼は『だから注意しただろう』とか『どん臭いんだな』とか、そんな言葉を発することはなかった。そんな類の表情を、美しい顔に浮かべることはなかった。


 彼は、わたしを立たせてくれた。そして、わたしからすばやく離れて距離をおいた。


 二度の注意がきいているのね。


 それにしても恥ずかしい。


 わたしってば、彼の前でどれだけ恥をかけばすむわけ?


「ほら、これ。今朝、もいで冷やしておいたんだ。とりあえず、トマトをどうぞ。パステークはすぐに切るよ」


 差し出されたのは、大きな赤いトマト。見ると、沢に網の袋が入っている。その網袋の中には、トマトやパステークなどがいっぱい入っている。

 

 沢の水で冷やしているわけね。


 先程転んだのがバツが悪すぎて、無言のままトマトを受け取った。それから、一口かじってみた。


 お、美味しい。美味しすぎる。


 気がついたら、貪るようにして食べていた。でっ、あっという間になくなってしまった。


「これもどうぞ」


 黒い縞模様の入った人の頭位の大きさのパステークを八分の一に切り、その一つを手渡してくれた。


 わたしの国にはない食べ物である。小説の中でしか見たことがない。


 赤い果肉が、みずみずしさを感じさせる。


 木洩れ日がそのみずみずしさを強調している。


 小説の中では赤い果肉の中に黒い種があって、ヒロインが口から種を「プッ」と飛ばしていた。


 これには黒い種がないわね。


「それは、種無しなんだ。さあ、食べてみて」


 彼は、わたしの心を読んだかのように説明してくれた。


 一口かじってみた。「シャリッ」という小気味よい音とともに、口の中に甘い汁が広がる。


「甘くて美味しい……、ま、まあまあじゃない」


 悪女を気取るのもラクじゃないわ。


 つい口から素直な感想が出てしまい、慌てて悪女っぽく言い直した。


「気に入ってくれたのならいいんだけど。まだあるから、腹一杯食ってくれ。こんなところだから、マナーなど必要ないからラクだろう?」


 彼もパステークを食べはじめた。


 だから、わたしも口を動かし続けた。


 もちろん、食べる為にである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] パステークは西瓜かな? 川の水で冷やしたトマトと西瓜をたくさん走った後に食べるなんて、ご馳走過ぎる~!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ