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美味しそうなトマト

「ちょっ、ちょっと、急に立ち止まらないでよ。それから、距離が近すぎるわ。何度も言わせないで」

「おっとすまない。いや、きみの、なんていうか、きみの腹にいる虫が空腹を訴えているようだから、つい気の毒になってね」


 彼は、わたしを自分の胸元から解放すると後ろに下がった。


 その美貌には、いたずらっこのような笑みが浮かんでいる。


 物は言いようよね。


 彼のユニークさに救われたような気がする。


 もちろん、表情には出さないけれど。


「きみの腹の虫は、トマトは好きかな?ちょうど食べ頃のトマトがたくさんある」


 彼は、目線で小さな畑を示した。


「そんなこと知るわけないわ。何でも食べるんじゃない?」


 トマトは大好物。一番好きな食べ物よ。

 あんな美味しそうなトマトにかじりつけるんだったら死んでもいいわ。って、おおげさよね。とにかく、エラソーにそう返事をした。


「こっちだ」


 彼は、わたしに背中を向けるとまた歩きはじめた。


 なーんだ。


 軽く失望感を覚えた。


 なぜなら、彼は畑とは反対の方に向かっているから。


 頭の中で、彼が畑に駆けて行ってトマトをもいで差し出してくれる。そんなシーンを思い描いていたのに。


 あの美味しそうなトマトを丸かじり出来ないとわかったら、よりいっそう空腹感を覚えてしまう。


 泉を通りすぎた。


 ああ、こうなったらお水をがぶ飲みでもいい。


 そう思いつつ、わたしも通りすぎる。その際、泉から「プツプツ」と音がきこえたような気がした。


 また森に入った。と思ったときには、「サラサラ」と水の流れる小気味よい音がきこえてきた。


 彼が向かった先は、沢だった。木々の間を縫うように、さほど大きくない筋が走っている。


 ベジエール王国の王宮って、すごいわね。


 あらためて感心してしまう。


「滑るから気をつけて」


 彼が注意してきた。


 足元を見ると、足場になっている石が苔むしている。


「キャッ」


 気をつけたつもりだけど、こういう場所は履き古して底がツルツルしている靴には向いていないらしい。


 一歩踏み出した瞬間、つるんと滑ってしまった。


 当然、バランスをくずしてしまう。しかもお話にでてくるドジな登場人物が転んでしまったみたいに、うしろへひっくり返りかけてしまって……。


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