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悪姫(後編)

何度でも初投稿です。

「へぇ…流石は尊い尊い天聖軍さまの方々ね。ちゃんと息があるんだもの」

「この忌々しい悪魔めが…一体…何をしにここへ……!」


クルルァ達天聖国の使者たち十数名は、天聖軍本隊においても優秀な者たちが集っている。だが逆に言うならば、その彼らが肉体と装備を魔法強化した兵士達を一瞬で消し飛ばす存在が、目の前にいるのである。


「それをあなた方に説明する必要があるの?…そうね、強いて言うならこの世界は《《私達》》のもの、ということかしら?」

「…どこまでも、強欲で下劣な魔王め……!」

「それをあなた方が言うの?ブーメランって知っているかしら」


どこまでも冷たい目である。自分たちをゴミとしか思っていない、卑下と軽蔑に満ちた目。クルルァ達はそれに腸が煮えくり返りそうになるが、奇しくもその目は彼等が地球の者たちへ向けるそれと何ら変わりはしないという皮肉には気づかない。


「さて…あなた達の生死に微塵も興味はないけれど、残念ながらここでお別れね」

「ふっ…そうだな。貴様をここで殺せないのは虫唾が走るが、ここは一旦退かせてもらおう」

「退く?」


ミレイアの全身に禍々しい魔力が集まってゆく最中飛び出たクルルァの言。これにはミレイアも首を傾げる。


「癪に障るが実力差くらいはわきまえているのでね」

「あら?逃げられると思っているの?随分と楽観的だこと」

「貴様の魔法攻撃力は見切った。確かに想像以上…打ち勝つことは私たちを持ってしても叶わぬが、その場凌ぎなら可能だ。後は“異界ワープ”でここからお暇させてもらう」


そう言うと、クルルァ達全員で全精力を注いたものと思われる分厚い魔力防壁が展開され、その後ろに異界人が地球との連絡に用いるゲートが創りあげられてゆく


「ここは撤退するが、もはや貴様の命はこれまでだ。天聖国へ全てを報告し、全勢力をもって貴様の駆逐に応ってくれる。せいぜい残る余生をそのゴミの塊とともに過」

「言いたいことは済んだかしら?」


ミレイアは表情ひとつ変わらない。何を言っているんだこのゴミはと目で語っている。


「貴様…どういうこ………」


絶句した。


クルルァが目にしたのは背後で作っていたはずのゲートが、ボロボロと崩れ落ちてゆく様だった。



「当たり前でしょう、この周辺の時空が壊れているのだもの」


「なんだと……?!!??!」



時空が、壊れている……!?


「そもそも、どうして私が、こんなに悠長に、あなた達と会話を許していたと思っているの?」


本当に逃げられるなら、逃げられることが危険なのなら、これほどのんびりと会話を交わすなどありえないのだ。



つまり、喋る余裕があるから、喋りたいから、喋っているに過ぎなかった。



「仕方ないわね。私は優しいから、冥土の土産に色々と教えて差し上げましょう?」



天使のような悪魔の笑顔である。



「まず、あなた方は2つほど誤解をしているわ」


クルルァ達は聞く耳持たない素振りで必死にゲートの構築に奮闘するも、やはり途中で粉々に崩れてゆく。

ミレイアはまるで見せびらかすかのようにゆったりと、それでいて恐ろしく密度の詰まったどす黒い魔力を漂わせている。


「あなた方の力は光、私の力は闇。創造と破壊、これはわざわざ確認するまでもないわね?」

「いきなり自分を劣等種だと自白するとはどういうつもりだ?」

「そうよ。魔法の有用性においては私はあなた方と比べて圧倒的に劣っているわ。だから、あなた方はそちらと地球への導を創り出すことができるのに対して、私はそちらと地球を隔てる時空そのものを破壊しなければならないのよ」

「なっ??!!!!!??!」


時空の破壊。

神や天使、その祝福を得た彼等の手段がどこでもドアなら、ミレイアの手段は極太鉄パイプを用いたすべての貫通。

同じ異界交通でも、その手段と結果は何もかもが違う。


「壊れた地盤にトンネルや橋は築けないでしょう?だから無駄なのよ」

「な…なんという邪悪な……!!!!!」


それは虚空に縄を投げてターザンを試みるようなものである。成功するはずがない。


それだけに異変は留まらない


「な…なんだこれは……!」

「歪む…揺れる……?!」


彼らを囲う球体の防壁陣がぐにゃりとたわんだり、シャボン玉のように立ち位置がフラフラと揺れたり、いまにも弾けて飛び散りそうな不気味さを醸し始める。


「当たり前でしょう、この周辺の時空が壊れているのだから」


対して天丼をかまし微動だにせず余裕の表情のミレイア


「こ…このアマ……!」

「ここまでして私たちを滅したかったのか!時空を破壊してまで!!」


「…はぁ?何言ってるのかしら。そんな訳ないじゃない」


ミレイアから苛立ちが発される。苛立ち程度の怒りの感情だけで周囲の瘴気が面白いように吹き荒れる。


「逆よ逆。この時空を直すのよ。そのついでにあなた方を一緒に始末するだけの話」

「な…!ついでだと!!」

「貴様は破壊することしか出来ないと認めたはず!何をでまかせを!」

「穴を塞ぐことならできるわ。崩落させればいいのだもの」



…つまり、さらに大きなエネルギーを加えて、破壊されているという状況そのものを破壊するー


「2つ目の誤解、まだ話してなかったわね?」


ミレイアの掌に家の大きさに匹敵する巨大な黒黒とした炎の塊が現れる。


「あなた方、私の攻撃を防ぐことはできるんですって??攻撃でなく、異界移動の余波ごときで怯んでいるあなた方が???」


掌の上にある黒い炎…その魔力の密度、熱量は、クルルァたちの防衛陣を紙屑のように焼き尽くすことを見るまでもなく理解させられるほどに発していた。


クルルァ達はようやく悟った。これが死なのだと。彼らの絶望に比例するかのように、呼応するかのように、黒い炎はより光を吸い込みながら勢いを増してゆく…


先程の雷と別次元の破壊力を持つことが瞭然のこの炎に、さらなるダメ押しの説明がなされる。



「これ、あなた方の国で言うところの初級火玉魔法プチファイヤーなのだけれど、こういったものを放つ時わざとらしく謙遜するのが礼儀だったかしら?せっかくだから私の国での謙遜を死出の旅に持っていきなさい」



そして、彼らに、空に蠢く闇の渦にそれを放った





「今のはメラゾーマではない、……メラだ!!!!!!!」










◆◆◆◆◆



ミレイアの放った初級火玉魔法初級火玉魔法(プチファイヤー)、もといメラは、低く見積もって広島を焼き尽くした原子爆弾の威力に匹敵しており、周囲の生命を絶滅させるにはあまりにも充分すぎた。



空は黒に黒を相殺した結果歪みそのものが壊れ、どんよりとした光が差し込む雲に覆われている。が、この周囲に生気といった温かみはまるでない。


そんな虚空をミレイアは無表情で眺め…






「う…うぇぇぇぇっ……!」




…嘔吐した。


両手両膝をつき、蹲り、胃の中のものが全て出尽くしてもなお絞り出すように胃液が流れ、痙攣にも等しい症状に近づくとやがて仰向けに横たわり、



「…俺…何やってるんだ……」




ミレイア…透は、空に嘆いた。

DIR京の「客が一人もいなくてもいつもと変わらずライブやってやる」の精神見習いたい

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