右腕工場
なぁ、ちょっと話したいことあんだ。
飯食いにいかねぇ?
よぉー、久しぶり。
俺? 元気だよ、だからこうしてお前をわざわざ呼び出してんじゃん。
何食う?
肉? いいね、俺、知ってるフレンチある。
こっから近いよ。
学校のみんな、変わんない?
そろそろ高三だもんな。受験生なんだよな。
あっという間だったよなぁ、みんなでわちゃわちゃしてたの。
俺はね、もう高卒の資格なくていいや。中退したこと後悔してない。一ミリもね。
一時 親がめちゃうるさかったけど。勉強し直せって。
でもさぁ、ダルいじゃん。
俺んち、親が金持ってるし、俺一人くらい一生養っても金あまるよ。
俺もこの前、大金稼いだし。
あ、ここ。この店。
シャレてるだろ。
親がオーナーとなじみなんだよ。
へん、悪かったな、ぼっちゃんで。
予約してないけど入れると思うよ、いざとなったら親父の名前出すわ。
こんちは。
友達連れてきたんですけど。
はい。
ちょっと待ってって。
個室空いてるか確認してくれるって。
あのフロア担当してるおっさん、俺が子供の時からずっとフロアやってる。
給料いいのかなぁ。
あ、個室はいっぱい?
どこでもいいですよ、入れれば。
ありがとうございます。
あれ、絨毯が変わってる。
この前来たばっかなのに。
つっても、もう二ヶ月前か。
え、リニューアルしたんすか。
へえ。
ほんとだ、シャンデリアもピカピカ。
セレブ仕様になった感じするっす。
はは。
うわー、ここ景色いいな。
見ろよ、スクランブル交差点がよく見えら。
人いっぱいいるなぁ。
お、椅子ひいてくれるの? 優しいじゃん。
いいんだぜ、気を遣わなくて。
俺は元気だっつったろ。
今日はおごる。好きなもん頼んでいいよ。
ほら、これとかいいじゃん。
「本日のおすすめスペシャルコース」だってよ。
牛、豚、鶏、選べるし。
あとなにこれ、なんて読むの?
スズキ? そうなんだ、鱸。
あつ森で出てた? そーだっけ。
次見ても、読めねぇわ、これ。
大丈夫、七千八百円ごとき。はした金さ。
任せとけ。
俺もこれにしよ。
飲み物なんにする?
俺、ジンジャーエール。
コーラ? 変わんないね。
コーラありますか?
じゃ、コーラで。
牛肉はミディアムレアがいいかな。
あ、そうだ、俺の分、肉、切ってくれますか?
食べやすい大きさで。
ナイフはいりません、使わないから片付けちゃっていいです。
俺さ、学校辞めてからスタバでバイトしてたの知ってんだろ。
あれはさぁ、俺にしては珍しく休まずシフト入れまくったんだよ。
だって、俺目当てに毎日客が来てたから。
すごいだろ? 女だよ。
まぁちょっと年齢は上な感じだったけど、そんなこたぁいいの。
とにかく、女が俺に会いに来るんだよ。
うん、最初は普通の客だった。
俺が気づいたのは一ヶ月くらい経ってからかな。
俺、親がうるさいから家にいるのやんなっちゃって朝からシフト入ってただろ、朝って客多いの。
いちいち覚えてらんない。
でもね、たまたま俺がいなかった日に、その女の人、俺がいつ来ますかって訊いてきたって。
なんかピンと来たよ、俺。
そっから挨拶するようになった。
俺も、明日のシフトは夕方です、とか教えるようになってさ。
そうすっと、夕方に来るの。
俺に会いたい以外のナニモノでもなくね?
けっこう可愛い感じの人でさぁ、なんか、こう上目遣いで何か言いたげなんだよ、いつも。
だから、バイトの後少し話せませんか?って言われた時は、もうそりゃ、はい喜んでって返事した。
めちゃくちゃ緊張したけどね。
女子とお茶したことないもんで。
年上で良かったよ、向こうが話ふってくれるもん。
結論から言うと、まぁそれなりの関係になったんだけど、なんで俺に惚れたか分かる?
言いたかないけど、学もなくて、顔もいまいちで、背だって高くないこの俺様をロックオンするんだぜ?
知りたいよ、なんで?って。
で、もちろん訊いたよ。
なんとね、字が綺麗だからだってよ。
スタバでカップにメッセージ書くじゃん。
俺、朝は忙しいからあんまやんないんだけど、いつだったか『今日も良い一日を』って書いたんだよね。
書き殴ったんだけど。
それがめっちゃ良かったって。
初めて二人でお茶した時、まずそれ言われた。
めちゃくちゃ字が上手ですね、って。
まー、そりゃ本音を言ったらちょっとがっかりしたよ。
やっぱ顔はダメかーってさ。
ははははは。
なんだよ、そりゃそうだ、みたいな顔すんなよ。
それからバイトの時は、忙しくてもその女にはメッセージ書くようにしてた。
外で会うのは月に一回くらいかなぁ。
俺からは誘わなかった。
なんか悪いじゃん?
いつもスーツ着て仕事してるっぽかったし。
高校中退した俺から声かけるなんてさぁ。
卑下しちゃう。
四回目くらいに会った時、それ言ったんだよね。
俺、高校中退してるんですって。
全然驚かれなかった。
てか、その方がいいって言うんだぜ。
なんかすごくね?
俺、もうカーッて胸熱だったわ。
彼女ね、工場勤務なんだって。
スーツ着てるのに?って訊いたら、ラインじゃなくて営業事務みたいな仕事だって言ってた。
必要な部品を自分で探して納入しなくちゃいけない。
工場で最先端の介護用アンドロイドを作ってて、その部品を取り扱ってる部署にいるから、良い素材を求めてアンテナ張ってるんだってさ。
そんなに忙しいのに、先週……先々週かな、夜会わない? って言われたんだぜ。
これまでのちょっとお茶とは違う感じで、俺、めかしこんで行ったんだよ。
出かける前にシャワー浴びて念入りにヒゲ剃って。
……って笑うなよ、期待すんだろ、男なら。
当然だろ。
平日の夕方だったけど、俺、学校ないし、土曜の夜気分だったわ。
彼女も明日は休みって、会いしなから言ってくるし。
そりゃもう、こっちはビンビンよ、いろんな意味で。
夕飯には早い時間だからって、買い物付き合わされて服見に行って。
ネックレス買った。
いや、俺が買ったんじゃないよ、彼女が自分で買ったの。
俺は選んで、その場でつけてあげた。
すぐしたいからつけてって。
こういうの、なんか意味深だよね、って思ったら、次はゲーセン連れてかれた。
前にゲームが得意って言ったからかな。
とにかく俺がゲームしてるところをガン見すんのよ。
その感想がさぁ。
上手だね、とかじゃなくて、なんて言ったと思う?
よく動く指ね、ステキ。だよ。
ぞわぞわするだろ。
おいおい、なんでそんなに引きっつった顔してんの?
エロくね?
それから大きい声じゃ言えないけど、ホテル行った。
部屋とってるから、ゆっくり話そう、って。
ここから見えるよ。
ほら、あそこのホテル。
うん、けっこういいとこ。
いや、別に最上階とかじゃないよ。
普通の部屋。
なにしたかって?
訊くなよ〜……ってもったいぶってもしゃあない。
なでて、って言われてさ。
どこって、そりゃいろんなとこ。
やらしーだろ。
まじだよ、言われた通りなでた。
そしたらね、ちょ、まじ内緒なんだけど、めっちゃ感じてんの。
すごくいい、間違いないわ、って。
何が間違いないの、って聞いたら、それだけ繊細になでられるのは天性だって。
字も綺麗で、ネックレスもすぐにつけてくれて、ゲームしてるあの動きも。
で、工場見学に来ない?って言われたんだよ。
お父さんが社長だから紹介したいらしくてさ。
すげーだろ、トントン拍子。
一週間くらいして、バイト休めたから行ったよ。
アンドロイド作ってるって言ったじゃん?
それがさぁ、すげぇ工場だった。
お父さんが社長って言うから小さい町工場かと思ったら、全然違った。
彼女、右腕の担当でさ。
そう。
それでお前の思ってる通り、俺の右腕、彼女にあげたんだ。
そんな青ざめんなよ。
ちゃんと工場内に手術室があって、丁寧に切ってもらえるんだ。
今ごろアンドロイドに組み上げられてんじゃないかな。
人体を使うのが一番性能がいいんだってさ。
選ばれた右腕しか介護用になれないから、俺の右腕はスーパーエリートなんだよ。
面白いだろ、俺は社会のはぐれ者なのに、右腕は立派に社会貢献してる。
ああ、満足だよ。
ちゃんと報酬ももらったし。
だからこうしておごってるじゃないか。
ところで、彼女、今度、脚のラインに異動になったんだ。
お前、脚速かったろ。
今度、工場見学行かない?