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争いの煙(5)

ノキルは、馬を止めて、降りる。


燃え盛る並木道が、ぐらぐらと揺らめく。


小隊も止まり、馬に乗ったまま待機する。


ノキルは、村人の前で、片膝を立ててしゃがむ。


「ノキル様」


村人は、ノキルに気がつくと言う。


その声は、息も絶え絶えで、燃え朽ちる枝葉の音に、かき消される。


村人の顔は煤汚れ、細かな擦り傷がある。


胸部から腹部にかけて、真っ直ぐに刀傷がある。


刀傷は深く、血が止めどなく流れている。


その刀傷を見たノキルは息を呑んだ。


この刀傷。


ノキルの目が鋭くなる。


ノキルは見覚えがあった。


この刀傷は間違いなく、本国の英雄。


先の戦いで国を守り、終戦に多大なる文武で貢献した勇者アルス様の刀の切り傷だった。


今となっては、ノキルが本国一の剣士と謳われている。


しかし、そのノキルの文武は、師匠のアルスから教わったものだった。


終戦後、忽然と姿を消してから数年、密偵を遣わすも、消息が掴めなかった。


「ジョフィル様が、まだ、村に」


村人が言う。


ノキルは、はっと、我にかえる。


「皆、この者を王宮へ。私は村へ行く」


ノキルは小隊に言った。


「失礼ながら、ノキル様お一人は危険です。この者を連れて行くのに、一人で十分でございます」


小隊の一人が言う。


「いや、王宮の警備を厚くする。私達の小隊は本国一、戦闘に長けている。だからこそ、エシア様をお守りしなさい」


「はっ!」


小隊は、ノキルに一礼すると、村人を連れて、王宮へ戻っていった。


ノキルは、小隊を見送ると、ひと息ついて、馬に乗る。


呼吸と共に、木々の焼け焦げる臭いが口に入る。


もし、アルス様であれば、陽動ではない。


アルス様が、このような安易な計略はしない。


そうすると、この先に、アルス様が居る。


ノキルは馬を走らせた。


馬は煙を切り、突き進む。


小隊と、アルス様を対峙させる訳にはいかない。


到底かなう相手ではない。


世界中で、アルス様の鎧に傷を付ける事ができる者は、誰一人として居ないだろう。


ノキルは、きゅっと綱を握り、村に急いだ。


ジョフィルを救出するべきか、アルス様と対峙して、村を救うべきか。


ノキルは、決死の覚悟をして、奥歯を噛んだ。


もうすぐ、村だ。


ノキルの乗る馬も、ノキルの緊張感を感じ取っているようだ。


馬は、真剣な眼差しで、駆け抜けていく。


ノキルは、その馬の緊張感を感じ取り、心の中で感謝する。


そして、全身に熱い血を通わせて、奮い立たせた。


村が見えてきた。


村の門が壊れている。


扉のように開閉する門だったが、ほとんど原型を保っていない。


門は地面に倒れて、材木の残骸と化している。


ノキルの馬は、その門の残骸を飛び越えて、村の中へ入った。

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