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デザイアカード  作者: 西井あきら
一章 日向の吸血鬼
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三話 魔力吸収と爪

 ピピピ、という電子音で彼女はいつものように目を覚ました。目覚まし時計を止めベッドから出ると、身支度を整え始める。

 リビングへ向かうとカインがテーブルに朝食を運んでいる最中だった。

「おはようございます、おじさん」

「フィアさん。おはようございます」

 挨拶を交わすと二人は席に着き、食事を摂る。今日はサンドイッチだ。

「学園生活で何か困っている事はありませんか?」

 白い手袋をした手にナイフとフォークを持ちながらカインは尋ねてきた。彼は基本人前では手袋を取らない為、通常手を使って食べる物にも食器を使う。

「今のところ大丈夫です」

 フィアの言葉にそれならよかったと微笑むと、サンドイッチにナイフを入れた。

 テレビは現在天気予報が放送されている。今日もあまり暖かくはならないようだ。

 天気予報が終わるとニュースが始まった。

 テロップとともに映し出されたのは市内有数の歴史博物館。そこで盗難事件が起きたとニュースキャスターが告げる。

 盗まれたのは百年前に大量殺人を犯した男のデザイアカード。

「昨日映画が放映されていましたね」

 カインの言葉にフィアはそういえば、と双子との会話を思い出した。

 その映画の元となったのがカードの持ち主であった男が起こした事件。村の住民全員を惨殺したという猟奇的な内容だ。

「ああ、ところで━━」

 映画の内容を思い出していると、彼が話しかけてくる。

「昨日ミリアさんから進学祝いにとプリンをいただきましたので、よかったら食べてください」

 少女は頷き、後で叔母にお礼のメールを送ろうと思いながらもぐもぐと口を動かした。


    ◇◇◇


 学園内はニュースの話で持ちきりだった。

「昔からあのカードは妙な噂が流れていたらしい」

 ホームルーム前、アルマがネットの記事を見せてくる。

 そこにはカードがひとりでに動いた、男の幽霊が見えるなどといった内容が書いてあった。

「くだらないわ、幽霊なんて」

 心霊的なものを一切信じないフィアはそう一蹴する。

「お前ならそう言うと思ったよ」

 アルマがスマホをポケットにしまうのと同時にチャイムが鳴った。

 ホームルームでシャノンの話を聞いた後、一限目の授業が行われる実験室へと生徒達は向かった。


「今から教えるのは他の教科でも使用するのでしっかり覚えてくださいね」

 この授業はルーン文字を用いた魔法について。担当教師のカインが黒板に二重の丸を描き始める。

 そして内側の丸の中に星型を、外側の丸の中に文字を書いていく。

「これは物体から魔力を吸収する効果のある魔法陣です。皆さんにはこれを使ってこの果物の中にある魔力を取り出してもらいます」

 まずはやり方を見せましょうと、目の前の机に円と模様を展開させた。

 果物を置き今度は空中に先程黒板に書いた文字を綴っていく。

 全て書き終えたあと手をかざすと、文字はふわりと円に落下していった。

 完成した魔法陣が光を放つ。発光が収まると果物をどかし、今度は空の瓶をそこに置いた。

 魔法陣は再度輝き、それと同時に瓶の中は蜂蜜に似た金色の粘り気のある液体で満たされていく。

 カインは生徒達が見やすいように瓶を持ち上げた。

「とまあ、こんな感じです。それでは早速実践に移りましょう。瓶の中がいっぱいになるまで行ってください。あ、くれぐれも中の液体は飲まないように。魔力濃度が高すぎて大変危険ですから」

 説明が終わると生徒達は早速取りかかった。果物を手に取り、教えられた手順で進めていく。

 一回目が無事成功したフィアは瓶の中の液体の量を確認した。四分の一程溜まっている為あと三回繰り返せば満タンになるだろう。

 二回目を終えたあたりでロープがやって来た。

「ねえねえフィア」

「ロープ。課題やらなくていいの?」

「もう終わらせたよ」

 彼女の席を見てみると机の上には満杯になった瓶が。

「随分と早いのね」

「いっぺんにやった」

 空間に文字を一つ書きながらロープは答える。

 その手があったかと思った時には既に三個目の果物の魔力を取り出し終えた後だった。

「それで、何か用?」

「あ、そうだそうだ聞きたい事があったんだった。爪って剥がれたらどんぐらい痛いの?」

 何故今それを聞きにきたのだろうかと、ゆっくりと落下していく文字を両手でキャッチして遊んでいる彼女を見つめフィアは思った。

「経験した事ないからなんとも言えないけど、相当な激痛だと思うわ」

 最後の一個に取りかかりながら答える。相手はだよねー、と言って手を開いた。

「どうしたの? いきなりそんな事聞いてきて」

「うん、あのねー?」

 手に付いた文字をスタンプのように机にぺたんと押し付けると、ロープはこう囁く。

「━━━━ルカくんの爪がなかったから」

「…………え?」

 思わずフィアは瓶に蓋をしようとした手をぴたりと止めた。

「今朝たまたまルカくんと会って、お腹空いてたみたいだったから購買で買ったお菓子渡そうとしたんだよ。その時に右手の中指と薬指の爪がない事に気付いて……。でも本人はずっと笑ってたから」

 あの時の状況を思い出し、不思議そうに自身の指を眺めをながら少女は詳細を語った。

 話を聞いたフィアはその光景を想像した。朝会って、何気ない動作でふと気付く痛々しい怪我。しかし相手はそれを感じさせない程いつも通りで笑みさえ浮かべている。はっきり言って異様だ。

「……とりあえず授業が終わったらおじ━━ジェムティアーズ先生に報告しましょう」

 そう結論を出すと、中断した作業を再開した。


    ◇


 昼休み、フィアの席に集まって昼ご飯を食べながらロープはアルマに朝の出来事を話した。

「もしかして今までの怪我も誰かにやられたんじゃないか?」

 一通り話を聞いたアルマは率直な感想を述べた。

「誰かって、誰に?」

 超ロングエクレアをかじりながら尋ねるロープに、そこまでは分からんと返す。

「相手が誰であれ、爪を剥ぐなんてやり過ぎよ。もちろん暴力自体よくない事だけど」

 そう言った後フィアはチョココロネをちぎって口に運んだ。

 そういえば、とアルマが呟く。

「爪で思い出したんだけどさ、昨日の映画で殺人鬼が行為を寄せていた相手の婚約者を殺すシーンがあったんだよ。好きな人を奪った相手にただ殺すだけじゃ満足出来ないと、そいつは婚約者の両手両足の爪を剥ぐんだ。より多くの苦痛を味わわせる為に」

 何故いきなりそんな事を語ったのか、フィアは彼女の意図が読めず内心困惑した。

「まあ要するにだ。ルカに暴行したのはあいつの事を恨んでる奴じゃないかって事だよ」

「ああ、そういう事ね。━━もしそうだとしたら相手は彼と同じ中学の人かしら。ここで出会った人に恨みを買われるには日が浅いと思うし」

 アルマはそうかもな、と頷くと二袋目のピーナッツパンを開封した。

「ルカくん中学どこだったんだろう?」

 二人の会話を聞いていたロープが疑問を口にする。

「今度聞いてみましょうか」

 そう呟くとフィアは最後の一口を口に入れた。


「……なんか廊下騒がしくないか?」

 昼休みももうすぐ終わる頃だというのにほとんどのクラスメイトが教室に戻って来ず、どこかへ向かっている。

 三人は出入り口まで移動すると一人の男子生徒を呼び止めた。

「ねえ、なんかあったの?」

「庭園で誰か倒れてるらしいんだ。救急車も来ているみたいで……」

 ロープの言葉に相手は短く伝えるとまた走り出す。

「倒れてるって……まさか!」

 今までの会話からフィアは最悪の事態を想定した。彼かもしれない、と。

 確かめる為に少女達もそこへ向かう。

 玄関前には人だかりが出来ていた。騒ぎを聞いて集まった生徒達と、彼らに教室へ戻るよう促す教師達によって場は大変混沌としている。

「これじゃあ確かめようがないな」

「仕方ない……、戻りましょう」

 フィアが回れ右をしたその時、誰かとぶつかった。

 その相手を見て、目を見開く。

「ごっ、ごめんねフィアさんっ! 怪我はない?」

 銀髪赤目の少年は慌ててフィアに謝罪した。

 ルカくんっ! と三人は彼の名前を叫びながら接近する。突然少女達に迫られたルカはひどく動揺していた。

「ど、どうしたの一体!?」

「いや、私達てっきり倒れたのがお前だとばかり……」

 アルマの発言に首を傾げる。

「なんでまた……」

「だって頻繁に怪我してるから。学園の誰かに暴行されてるんじゃないかって心配してたのよ」

 フィアの言葉を聞いたルカは目を丸くし、激しく首を横に振った。

「ち、違うよ! 誰かにやられたとかじゃなくて転んだりどこかにぶつかったりして出来たもので━━」

 必死に弁明する彼を遮るようにアルマが再度口を開く。

「どんだけ激しいぶつかり方したら爪取れるんだよ」

「えっとそれは……」

 返す言葉が見つからないのか、右手を口に当てたまま黙ってしまった。中指と薬指には包帯が巻かれている。

 それを見たフィアは安心したように息をついた。

「よかった、ちゃんと手当してもらったのね」

「ああ、うん。ジェムティアーズ先生が保健室に……━━」

 不意にルカは三人の後ろを見た。そこにあるのは人混みのみ。

 どうしたのとロープが声をかけるが反応がない。

「ルカくん?」

「今カラスの鳴き声が……いや、なんでもない。僕はそろそろ戻る事にするよ、これ以上ここにいたら怒られそうだし」

 そう言うとそそくさと立ち去っていった。

 その直後に響く怒号。呼び止めようとしたフィアの声は掻き消される。

 教師の大声に反応した生徒達が一斉に動き出した事により、三人も波にのまれるように教室へと戻る形になった。


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