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デザイアカード  作者: 西井あきら
二章 ジェムティアーズ
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二話 魔力制御


 日付が変わり火曜日。いつものように生徒達が登校し、いつものようにホームルームを終えて何事もなく一限目が始まった。

 一年B組の生徒達は訓練所に集まった。訓練所というのは魔法の練習や試験を行う為の場所である。

「いついかなる時でも己の魔力を制御出来てこそ一流の魔法使いだ。という訳で今から魔力制御訓練を行う。あれを見ろ」

 シャノンが指差した方向、数メートル先に半径三十センチのリングを棒の上にくっつけた物体が数個、等間隔に置いてあった。

「やる事は実にシンプルだ。あのリングに何でもいい、攻撃魔法を放ちどこにも当てる事なく通過させるんだ。実際にやってみるぞ」

 彼女は床に引かれたラインの手前に立つと、風を円盤状にしたものを出現させ投げた。円盤は弧を描きながらするりとリングにぶつかる事なく中を通っていく。

「こんな感じだ。それでは班ごとに分かれて早速始めよう。五回連続でやったら次の人に交代してくれ。もう一度言うがリングに当てないようにな。少し掠ったりするのも駄目だ」

 シャノンに言われた通りに生徒達は動きだす。

 円の中に通すだけなんて簡単だと思っていたアビゲイルだったが、実際はそう上手くはいかなかった。

 一回目、円盤が大きすぎてリングをくぐる事なく落下。二、三回目はきちんと通る大きさにしたがリングの外側に当たってしまう。残りの二回は円の中に入れられたが少し掠ってしまった。

 結局一度も成功しなかった事を落ち込みながら列の一番後ろに移動する。待っている間何気なく他の班の様子を眺めた。

 右隣の列では気弱そうな少年が自身と同じように苦戦している。

 対して左隣の列の少年は二人とは異なっていた。

 紺色のウェーブがかった髪の彼は前に立つとバチバチと光る球を五つ出し、間髪入れずに投げた。

 球は全て円の中を綺麗に通過していく。どこかにぶつかったような音は聞こえない。

 その光景に舌を巻いた少女はもしや雷魔法の方が上手くいくのではと考えた。

 自分の番がまわってきたので早速実践してみようと少年と同じような球を作り投げるが、結果は風魔法の時よりもひどくなりリングからだいぶ離れた場所に落ちていった。


    ◇


 授業終了間近になるとシャノンのもとへ生徒達が集まる。

「一週間後テストを行う。そこで成績がよくなかった場合は補習を受けてもらうからそのつもりで」

 言い終わると丁度よくチャイムが鳴ったので生徒達はそのまま訓練所を後にした。

 このままでは確実に不合格、補習は出来ればやりたくないアビゲイルは昼休みに練習しようと決意する。

 教室に戻る為に廊下を歩いていると何やら前方が騒がしい。見ると同級生の気弱な少年が他のクラスの男子生徒二人に絡まれていた。

 ビクビクと怯える少年に詰め寄る二人。周囲の人間は巻き込まれないように廊下の端をいそいそと通り過ぎていく。

 通行の妨げになっているのと少年が可哀想だからやめさせようと動いたその時、紺色の髪の少年が男子生徒の一人にぶつかった。

「いってえな何すん━━!?」

 彼をみた二人の態度が途端に変わった。威圧的さは消え、少しおどおどとしだす。そしてばつが悪そうに舌打ちをするとそそくさと立ち去っていった。

「あ、ありがとうクラウドくん……」

 絡まれていた少年が礼を言うが、相手は無視してすたすたと歩いていく。

 何故あの二人は彼から逃げだしたのだろうかとアビゲイルは不思議に思った。紺髪の少年━━クラウドの体格はどちらかといえば華奢な方だ。喧嘩が強そうには見えない。

 しかし何はともあれ迷惑な存在がいなくなったのであまり深く考えない事にした。




 そして昼休み。昼食を食べ終えると練習を開始する。

 訓練所に入って十分程ひたすら魔法を撃っていると誰か入ってきた。出入り口の方に視線を向けるとそこには三人の少女。フィアと、彼女といつも一緒にいる双子の姉妹が歩きながら喋っている。

「自主練とかやだあ、メンドくさい」

 愚図るロープにアルマとフィアは困ったように笑った。

「まあそう言うな。補習受けるよりはマシだろう?」

「そうよ。それにコントロールはちゃんと出来ているからあとは大きさを━━あら、あなたも来てたのね」

 会話の途中でアビゲイルに気付いたフィアは彼女に声をかける。

「あんたも魔力制御の練習?」

 その言葉に肯定して少女は隣のレーンに並んだ。

「本番で失敗するといけないからね」

 そう言うと水の球を一つ作りリングに向けて投げる。球は輪の中を少し掠って通過した。

 フィアの隣のレーンではロープが渋々といった感じで火球を放つ。真っ直ぐ飛んだが、球が大きすぎた為ゴンッと音を立ててリングの手前に落ちた。

 二回目はリングの外側に当たり、三回目はそこにすら当たらずに後ろの壁に激突する。どんどん下手になっていっている。

 しまいには完全にやる気をなくしたのか球を床に転がして遊び始めた。

「こらこら。そんな事しても上達しないぞ?」

「だって……、ただ輪っかに入れるだけなんでつまんないじゃん」

 ごろごろと転がしながらぼやくロープにどうしたものかとアルマが思っていると、また誰か入ってきた。

 今度も三人だ。ただ少女達のように仲睦まじい関係性でないのは一目見ただけで分かる。

 男子生徒の一人が気弱そうな少年を線の向こう側に突き飛ばした。

「オラさっさと立て!」

 床に倒れている少年に向かって別の男子生徒が風魔法を放つ。少年は短く悲鳴をあげながらなんとかかわした。

「ちょっとあんた達なにやってるのよ!」

 その光景を見ていたアビゲイルが二人のもとに駆け寄りやめるよう説得する。

「何って、あいつには俺達の練習に付き合ってもらってるだけだよ」

「そうそう。少しスリルがあった方がやる気出るしな。ほら早く腕で丸く作れよ!」

 会話が終わるとまた魔法が放たれる。少年はすでに涙目だった。

 このままでは怪我人が出てしまうと案じたフィアは二人を拘束しようとベルトを出した。しかし投げようとしたその腕は、幼馴染の呟きによって止まる。

「スリルか……。確かに一理あるな」

 アルマの右手にはいつの間にか黒いクモが乗っていた。

 途端、男子生徒達に異変が起きる。

 一人ずつ閉じ込めるように四方と上部を透明な板で囲まれたのだ。

「な、なんだよこれ!」

 叩いても蹴ってもびくともしない。こんな狭い空間では自身にも被害が出る為魔法を使う事は難しいだろう。

 アルマは近寄り、囲いの一つに触れた。すると下部分にも透明な板が現れた。それによって囲いは透明な箱へと変化を遂げる。

 しかしこれだけでは終わらない。箱の底にタイヤが生え動かしやすくなった。もう片方にも同様に手を加える。

 周囲が困惑している中、ロープだけは姉の意図を読み取り目を輝かせた。

 二つとも加工し終えたアルマは奥に移動させる。ロープもそれに次いでもう一つを動かした。

「おいっ、何する気だよ!」

 箱の中の一人が声を震わせる。

「うん? いやちょっと妹の練習に付き合ってもらおうと思ってな」

 未だ床に転がっていた少年は轢かれないように起き上がって端に避けた。

 リングが置かれている場所まで来ると、双子はそれをどかし箱を設置する。

「お姉ちゃんこんぐらい?」

「いや、もう少し向こうに……。うん、そこらへんでいいだろう」

 位置が決まるとアルマはタイヤを消した。それがなくなった事により浮いていた箱が床と接触し、その際の衝撃で箱が少し振動する。

 設置を終えた双子は手前に戻ってきた。

「おい! 俺達をここから出━━」

 男子生徒の叫びは、アルマが投げた火魔法によって掻き消された。

 ビュンッと音が聞こえる程の豪球は二つの箱の間を通り過ぎると後ろの壁に激突する。

 その衝撃で先程よりも大きな振動が床から伝わった。

「よし、完璧だな。いいかロープ。箱はないものと考えて、二人に当たらない大きさの球をあの間に通すんだ。当たったらあいつらの身体が吹き飛ぶくらいの気持ちでな」

「うんっ、分かった!」

 ロープは元気よく返事をすると早速魔法を撃った。

 火の球はやはり少し大きくて、二つの箱にぶつかり大きな音を立てる。直接衝撃が加わった箱は今までの比にならないぐらい激しく揺れた。中に入っている男子生徒の体勢が崩れる。

「待て待て! これ俺達がいる意味は!?」

「人が中に入っていた方がスリルがあるだろ? まあ擬似的なものだけどな。大丈夫だ安心してくれ、その箱はちょっとやそっとの衝撃じゃ壊れないから。じゃあいくぞー」

 アルマの言葉を合図にロープは魔法の発射を再開する。

 火球の打撃音に男子生徒の叫び声が加わり場はより一層騒がしくなっていった。

 唖然と一連の流れを見ていたアビゲイルははっと我に返る。

 確かに彼らが少年にしていた事に比べれば安全性は高いが、それでも箱に魔法が直撃すると遠くから見ても分かるくらいに揺れている。

 やはり止めるべきかと考えていると、隣にいたフィアが口を開いた。

「アルマ、ロープ」

 名前を呼ばれた双子が彼女の方の向く。その際ロープは魔法を撃つのをやめた。

「揺れが大き過ぎて危ないから━━」

 よかった、とアビゲイルは自分以外にも常識人がいた事に安堵する。

 ただその安心感は次の言葉で霧散した。

「三分くらいで終わらせてね」

 予想していた言葉と違う! とアビゲイルは思わず心の中でツッコむ。

 てっきり助けてくれるのかと思っていた箱の中の二人は絶望に染まった表情をしていた。

「三分じゃ短過ぎる。せめて五分にしてくれないか?」

「仕方ないわね……」

 アルマの要求が承諾された事で更に絶望感が深くなる。

 再び迫りくる幾多の火球。爆音と揺れに恐怖して、二人は悲鳴をあげ続けた。

 そして五分後。時間だとフィアに言われロープは手を止める。

「すごいじゃないか。最後の四発は綺麗に通り抜けていったぞ」

 姉に褒められて満面の笑みを浮かべた。

 男子生徒達はぐったりとしている。しかし箱から解放されると先程までとは別人のように、疲労を感じさせない機敏な動きで訓練所を出ていった。

「なんだあいつら、練習しに来たんじゃないのか?」

「いやそりゃ逃げるでしょ……」

 不思議そうな顔をするアルマに、アビゲイルは苦笑気味に呟いた。

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