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バーチャルの向こう側

作者: 一乗寺らびり

バーチャルライバーって面白いですよね。


※注意※

人によっては禁忌に触れるような内容のため、バーチャルライバーが好きな方は閲覧をご注意下さい。

 みなさんは、バーチャルライバーというものをご存知だろうか。

 2Dイラストや、3Dモデルのアバターを、自分の動きや表情に合わせて動かしながら、動画制作や生配信を行う人たちのことだ。

 いろいろなバーチャルライバーがいるのだが、僕はそんなバーチャルライバー全般が好きで、かなり無差別気味に配信や動画を見ている。

 これは、そんなバーチャルライバーを色々と見ていた僕に起きた、今でも真相のわからない、不可解な出来事だ。


***


 当時、企業所属のバーチャルライバーをメインに視聴していた僕は、新規開拓をしてみようと思い立った。

 バーチャルライバーの中には、企業に所属して活動している人もいれば、個人で環境を整えて活動している人もいる。中には、企業所属の人に並ぶほど有名になった、個人活動のバーチャルライバーもいるのだ。

 個人のバーチャルライバーは、企業所属の人以上にピンキリだが、まれにいる面白い、尖った人を見つけると、嬉しくなるものだ。

 誰も見ていないような人を見てみたい。そんな事を考えた僕は、チャンネル登録者数が100も行っていないような、かなりのマイナーなバーチャルライバーを探し始めた。そんな人たちの中に、ダイヤの原石がいるかも知れない、そんな期待を胸に抱いて。

 適当に配信を開いて内容を確認し、面白ければ一言二言コメントを残していく。面白くなければ何も書かず、無言で立ち去る。そんな毎日を過ごしていた。もちろん、いつも見ていた企業所属のバーチャルライバーの配信も見つつ、だ。


 ある日の晩、22時半は過ぎていただろうか。いつものように、適当にチャンネル登録者数が少ないバーチャルライバーの配信を探していたときだ。検索結果画面をダラダラと眺めていると、とあるサムネイルが目に入った。


『【雑談】誰も来なくても頑張って喋ります!【ゲームのお話】』


 サムネイルはシンプルなもので、左側に配信タイトル、右側に3Dモデルのアバターが笑顔で配置されているのみだ。アバター自体もシンプルなデザインで、確か、簡単に3Dアバターを作成できるソフトで作ったような簡易的なものだった。セーラー服を着た黒髪ポニーテールの少女という、バーチャルライバーとしてはむしろ少ないくらいの、一般的すぎるデザインだ。

 あまり独特な要素がないそのバーチャルライバーに、僕は興味を持ってしまった。好奇心に勝てず、配信画面を開いてみると、まさに話している最中であった。声は女性のもので、声の感じから、男性がボイスチェンジャーで声を変えているようには聞こえなかった。おそらく、実際の女性なのだろう。同時に視聴している人数の数を見ると、1人と表示されており、少し時間が経ってから2人に増えた。一人は僕、もう一人は、配信管理画面を開いているバーチャルライバーのものである。


『それで、次のステージに進んだんだけど……あ、誰か来たかな? いらっしゃーい!』


 同時接続者数の変化に気づいたのか、にっこりと笑って、丁寧に挨拶をしてきた。コメントが書かれた際に挨拶する人は多いが、同時接続者数を見て挨拶する人は珍しい。よほど普段、人が来ないのであろう。

 チャンネルの名前を見ると、バーチャルライバーのハンドルネームが記載されていた。こちらもアバターのデザイン同様、特徴のあるものではなかった。一般的にいそうだが、実際にいたら目立ちそうな、そんな絶妙な名前である。実際の名前を出すわけにはいかないので、仮にV子さんとしておこう。


『でね、次のステージに進んだんだけど、敵が急に強くなってさ! 何回挑戦してもクリアできなかったんだよね! 難易度ジェットコースターかっての!』


 V子さんは、何かのゲームの話をしているようだった。話の内容から、僕の知らないゲームらしい。普段なら少し話し位を聞いて、配信画面を閉じていただろう。が、V子さんの話し方と声が割と好みで、そのまま話を聞き入ってしまった。コメントを残すことも忘れながら。


『それで、ようやくクリアできたんだけど、その次がなんと、1面よりも簡単でさ! もう拍子抜けだよ!』


 チャンネル登録者数に目をやると、100人どころか30人にも満たなかった。この声と喋りなら、僕のように気に入る人も多かっただろう。宣伝をあまりしていなかったのか、それとも他に目を引く配信や動画が無かったためなのか、それは今となってはわからない。


『一気に攻略できたんだけどさ……あ、もし声とか小さかったら、コメントで教えてね! 私からだと、あまりわからないから!』


 視聴者が来たことがよほど嬉しかったのか、V子さんの声は軽やかに、楽しげなものに変わっていっていた。声とBGMのバランスも問題なく、むしろ聞きやすかった。かなり調整したのだろう。そのことをコメントで教えようか一瞬悩んだが、どんどん話が進んでいくため、タイミングを逃し書くことをやめた。

 これほど聞きやすい配信ならば、知名度さえ上がれば人気も出るだろうに。そんな上から目線なことを考えつつ、V子さんの話に耳を傾け続けた。


 配信を開いてから、気づけば十数分が経過していた。思わず話に聞き入ってしまったが、そろそろいつも見ている、企業所属のバーチャルライバーの配信が始まる時間がせまっていたのだ。

 せっかくだし、コメントを残して、チャンネルも登録しておくか。そして、過去のアーカイブを見つつ、また聞きに来よう。そんなことを考えながら、キーボードに手を伸ばした。


『そうしたら、まさかの初見殺しでさ! もう私、おったまげ『ゴッ!! ドサッ!!』』


 突如、スピーカーから、何かがぶつかり合うような鈍い音が聞こえた。それと同時に、V子さんのアバターが急に下を向き、そのまま停止してしまった。

 僕はびっくりし、思わずキーボードに伸びかけた手が止まった。配信画面の向こう側で、何かが起きている、それしかわからなかった。

 スピーカーから、わずかに音が聞こえてきた。何かが動くような、衣擦れのような音だ。すると唐突に、停止していたV子さんのアバターが動き出した。


『……あ』


 アバターは辺りを見回すかのように首を動かすと、先程聞こえていたものとは違う女の声で、『あ』とだけ発した。その直後、配信は終了した。

 僕はわけがわからず、ただ気持ち悪さだけが胸に残った。あまりの気持ち悪さに、そのままパソコンを閉じ、横になってしまった。チャンネル登録もせず、いつも見ている、企業所属のバーチャルライバーの配信も見ずに。

 そのままその日は、眠りに落ちてしまった。


***


 翌日、起きて朝食を取っていたが、どうにも前日の出来事が頭から離れない。思い立ってパソコンを開き、前日見たV子さんのチャンネルを確認しようとした。が、チャンネルが見つからない。V子さんの名前で検索をかけてもヒットせず、ブラウザの閲覧履歴から確認しても、該当の配信ページは削除されていた。

 バーチャルライバーはSNSをしていることも多いため、つぶやき系SNSでもV子さんの名前で検索をかけてみた。しかし、V子さん本人のアカウントを見つけることはできなかった。V子さんのリスナーらしき人すら見つけられなかった。


 あの出来事はなんだったのか。夢でも見ていたのか、V子さんは実在したのか、今でもわからない。ただ、あの時、コメントを書かなくてよかった。それだけはずっと思っている。

 バーチャルライバーの演者さんのことを、『魂』と表現することがある。

 きっとあの時、最後にV子さんのアバターを動かした『魂』は、おそらく。


 それ以来、僕は、無差別にマイナーなバーチャルライバーを検索することをやめた。

 あの時、最後に入っていた『魂』が、唯一の目撃者を探している。そんな事を思いながら。

実は私も、バーチャルライバーの端くれだったりします。

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