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私の物語「夜の海」

 私が彼と出会ったのは偶然だった。ほんの偶然だった。私はいつものように川の流れを見つめていた。川がどこから流れてきて、どこへ流れていくのかなどは、私にはもう関係なかったが、ただ見つめていた。もう私はどこへも流れていくことはない。ただそこにとどまり、ただそこで見つめ、ただそこで生きているだけだった。

 そんな私の前に彼は転がり込んできた。文字通り、堤防の斜面を転がり込んできた。彼もまた何かを抱え込んでいるようだった。その昔、私が『海を横切る月』だった頃のように・・・。そして、あの頃の私と同じように、彼もまた飲み込まれようとしていた。いや、彼はすでに飲み込まれてしまっているのかもしれない。

夜の海。

彼の中の夜の海は少しずつ大きくなっているようだった。

 彼は誰かと話しているようだったが、その悲しげな瞳はただひたすらに川の流れを見つめていた。彼もまた『海を横切る月』だったのだろうか。私は夜の海から逃れることができた。しかし、同時に『海を横切る月』であることも失ってしまった。そう、全てを失ってしまった。私はあの子を失ってしまった時から『海を横切る月』ではなくなってしまった。あの子だけが夜の海の中へ飲み込まれてしまった。私だけを残し、私の中の夜の海まで連れて。

 しかし、彼はまだ『海を横切る月』であることを失ってはいない。彼は救急車の中でうわ言のように繰り返していた。「川の流れが見えた。」と。

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