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僕の物語「現実逃避」

 僕は気づくと草むらに横たわっていた。平衡感覚が少しずつ戻ってきて、やっと堤防の斜面に横たわっていることを理解した。それと同時にやってきた鋭い痛みのおかげで、何故こんなところに転がっているのかも理解した。バイクが堤防の斜面の下のほうでカタカタと弱々しいエンジン音を立てている。身体中を血液のように激痛が駆け巡った。しかし、川の流れる方向が見えた。たしかに方向が見えた。これからやるべきことが見えたような気がした。その後、酷く激しい眠りが襲ってきた。

バイクがカタカタと何か言っている。

「逃げれば流れる方向が見えてくる。でも、見えたときにはすべてが終わっているんだ。流れる方向が見えるまでほっておいたら手遅れになるんだ。だから、そうなる前にアクセルを開くんだよ。全開にするんだ。すべてが終わってしまう前に・・・。」

少しずつ意識が薄れ、僕は暗闇の底へと引き摺り込まれていった。

 再び目覚めたとき、目の前には白い壁が広がっていた。いや天井だ。痛みはそれほど感じなかったのかが、左手と左足がやけに重たかった。骨折だろうか。すぐそばに人の気配を感じ、僕は反射的に彼女の名前を呼んでいた。

「ああ良かった。やっと気がついたのね。」

「迷惑かけてしまったみたいだね。」

「二日も眠ったままだったから、私怖くて、怖くて・・・。」

声が掠れて聞こえなくなった。泣いてくれている。彼女を置き去りにしたこんな僕のために泣いてくれている。

「でもこれぐらいの怪我で済んで良かったわ。」

「そうだね。」

「でも、バイクのほうはほとんど無傷だったのよ。神様って意地悪よね。」

「人間はもともと不公平に作られている。」

「誰の言葉なの。」

「忘れた。」

「でもバイクは人間じゃないわ。」

「そうかもしれない。」

「そうよ。」

僕が少し微笑むと、彼女の顔も少し明るくなった。何故か彼女の笑顔が見たくなった。とても見たかった。

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