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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第2章「人間兵器、将来を憂う」
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97話 六号メイガス


 魔法の勇者、魔術師メイガス。

 人間兵器六号だ。

 もうだいぶ前の記憶だが、俺の記憶ではメイガスは小柄で童顔な、いかにも魔法使いです、と言わんばかりのローブ姿をしていた。

 それが一体全体、どうしてこんな機械に……。

 いや、機械から音声は発せられているが、どこか別の場所から通信しているのかもしれない。


「お前、てっきり死んだのかと……」


 ゲーム機にそんな風に話しかける俺もなかなかにシュールな光景だ。

 GPⅩはメイガスの声に同調して赤く点滅した。


『魔王に殺されたのは間違いないよ。人間兵器としての僕は、確かに死んだ』

「そうか……。あのときは――」


 ――悪かった。

 そう言おうとして言い淀んだ。

 自由を求めて逃げ出したことを詫びてしまったら、そのおかげで出来上がった現代の人間社会を否定してしまうような気がした。

 ヒシズ曰く、歴史学者の見解では俺の行いは結果オーライということにされている。


『ああ、九回目のこと? 気にしないでよ! 確かに僕はやられちゃったけど、おかげですごい発見ができそうなんだ』


 死んだ本人は思いの外、あっさりしていた。

 メイガスの死でどれだけ悔やんだ仲間がいると思っているんだ。アーチェだって……。


「発見って。そもそも、お前は今どこにいるんだ?」


 どこかにいるなら顔を見せてやってくれ。

 アーチェもそれで正気に戻るかもしれない。


『どこって言われても難しい。ソードはGPⅩって聞いてわかる?』

「ゲーム機だろ。驚くかもしれないが、俺たちが必死に倒し続けた魔王様が今やゲームにどっぷりハマっててな……。見せられたことがある」

『――そっか。プリマローズもヘビーユーザーだもんね。クライアント情報でよくわかるよ』


 クライアント情報? どういう意味だろうか。

 機械音に混じっているものの、ゲーム機越しに聞こえるメイガスの声は明朗快活。

 以前よりもかなり元気にしているようだった。


『僕はね、実は魔導研究の極みにいると言ってもいいかもしれない。ここは簡単に言うと、魔導の中身そのもの……というか、僕自体が今の魔導通信ネットワークを構築していると説明した方がわかりやすい』

「……はぁ?」


 全然わかりやすくないし。

 何を言っているのか、さっぱりわからん。

 その辺の爺さんより現代文明に詳しくないんだぞ、俺は。


「マジで理解できねえ……」

『今の通信設備が成り立っているのは僕の――いや、アークヴィランの力のおかげなんだ。僕はアークヴィランの憑依(ヨリマシ)として、この電脳魔術を構築できたんだ』

「……今、憑依(ヨリマシ)って言ったか?」

『そうだよ』

「お前、アークヴィランに乗っ取られてるのか?」

『そうだけど、アークヴィランと融合しながら、自我は保つことができた。以前から研究していた魔力の量子アクセスの成果としてね。それで、アークヴィランではあるけど昔の記憶もあるし、アークヴィランのように凶暴化することはないよ』


 はは~……よくわからんな。

 これはDBに相談だ。困ったときのDB案件。


「……要するに人間兵器のメイガスは死んだが、アークヴィランと融合したメイガスは生きていると?」

『そう! ソードは理解が早くて助かるよ』

「理解できたわけじゃないが……」


 電脳魔術とか通信ネットワークとかの下りで、なんとなくメイガスが実物として近くに存在しているわけじゃないことは想像できた。

 俺の知らない世界に身を置いているのだろう。


「でも、こうやって話ができるなら、たまには以前の仲間に声をかけてやってくれねえか。こういう機械系には詳しくないが、お前ならいろんな通信端末から声を出すくらいできるんじゃねえか?」

『……それはできない』

「どうしてだ?」

『僕は、あるゲーム世界に幽閉されているんだ。僕の存在が他のアークヴィランにバレて、バグとしてネットから切り離されてしまった……。特定のポータルを通してなら話はできるんだけど』


 そのポータルが、このゲーム機というワケか。


『鉄扉の先はゲームの世界だ。特別なソフトがないと入れないようになってる。この先に行くなら、ゲーム機にソフトを挿入しないと無理だよ』

「そうか……。じゃあ、こうして話すとしたら、この臭い臭い下水道を通ってこないといけないのな」

『……』


 メイガスは言葉を詰まらせている。

 何かを訴えたいが、躊躇っている様子だ。


『……王都の地下はめちゃくちゃだよ。アークヴィランの支配が進んでいる。流動迷宮、このゲーム世界、それから――』

「それから?」

『ダメだ。これ以上、このポータルに留まったら、また迷宮に目をつけられる』

「待ってくれ。その流動迷宮ってなんだ?」


 ゲーセンや王城地下通路で確認された、目まぐるしく構造が変化する迷宮のことだろうか。


『僕は大丈夫だから。でも、ソードはなるべく近づかない方がいい。地下は元々奴らにとって危険分子を排除する処刑場として――ガ、ガガ、ピー……』


 また通信不良になってきた。

 メイガスの声が霞んでいく……。


『ガガ来て……る……すぐそこ! 逃げ――ピーー』

「来てる? なんだ? 何が来てるんだ?」


 機械音声となったメイガスの声に焦りを感じた。

 その刹那、背後から気配を感じた。



 ――…………!


 咄嗟に【抜刃】で剣を抜いた。

 振り向くと、天井から何かが落ちてきた。

 その強襲を剣で弾き返す。

 天井から襲い掛かってきた敵は、四つん這いになって下水道に着地した。


「こいつら……」


 人形だった。

 人間の容姿とほぼ変わらない自動人形(オートマタ)

 しかし、まるで腐っているかのように、双眸から目が垂れ下がっていたり、皮膚が剥がれて鉄合金の骨が丸出しになっている。

 人形なのに、動く死体のようにすら見えた。



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