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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第2章「人間兵器、将来を憂う」
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91話 赤の弓兵vs金色の人形師Ⅲ


 劇場に魔導銃の炸裂音が響き、ヒンダに向けられた銃弾は容赦なく放たれた。

 至近距離でのヘッドショット。

 間違いなく死んだ、と思われた。


 しかし。



「え……!?」


 困惑の声はアーチェのもの。

 最悪を想像していた俺も同じく困惑した。


「痛っぁぁああああーーい!」


 ヒンダが目を覚まし、遅れて悲鳴を上げた。


 痛いとかいう次元じゃないはずだが……。

 通常の弾丸でもアーチェの魔導銃で放たれれば相当な破壊力を持つはずだ。パペットとの交戦で、劇場を半壊させた事実がそれを物語っている。


「この子、普通の人間じゃ――」

「オラァアア隙だらけだ!」


 動揺して注意を欠くとは。素人め。

 俺もヒンダの度を越した石頭に驚いたが、それでもこの接近戦において気を取られるほど間抜けじゃない。


「おォら!」

「ぐっ」


 手刀で銃を叩き落とし、攻撃手段を失ったアーチェに回し蹴りを食らわせた。

 魔導銃はアーチェの手元から離れると崩壊した。

 俺の【抜刃】の剣と同じように。


「この……ッ」


 激昂したアーチェが果敢に格闘を仕掛けてきた。

 近接武術(コンバット)は習得済みのようだが、元より剣士として前衛を務めた俺に敵うと思うのか?


「お前に格闘はお似合いじゃねェ!」


 アーチェの右ストレートを左腕で受け流し、肘打ちで隙だらけの喉を突いた。

 怯んだアーチェの顎に掌底打ち。

 さらに間髪入れずハイキックで蹴り飛ばす。


「あ――――」

「得物を使わなかっただけありがたく思え」

「くっ、クソ……」


 アーチェは悪態をつきながら立ち上がった。

 俺が憎くてたまらないようだ。

 瓦礫から【抜刃】で大剣を抜き、切っ先をアーチェに向けた。この至近距離ならどう足掻こうが、俺の間合いだ。


「ほら。観念してお縄につきな」


 拘束した後はどうしたものか。

 勿論、アーチェと戦う気なんかない。

 DBでも呼んで仲介してもらいながら話し合いでもしてみるか? ――話し合いができそうな相手でもないが。


「あんたは絶対に許さない。死んでも!」


 アーチェは煙幕弾のような物を足元に放った。

 舞台にスモークが張られ、アーチェは煙の中に影を潜めて消えてしまった。


「ああ……」


 やはり話し合いには応じないか。

 深追いするより今はヒンダとスージーが優先だ。



 二人の縄を解いた。

 声をかけると二人とも意識が戻った。

 よかった。ヒンダが頭に一発撃たれた以外には何もされてないようだ。

 ヒンダの防御力どうなってんだよ。


 劇場が滅茶苦茶になっていることに、スージーよりヒンダの方が動揺していた。

 悲惨な光景を前に愕然としている。

 その視線の先に、一番の被害者であるパペットが瓦礫を払いながら舞台袖まで近づいてきた。


「はぁ……。ひどい有り様ですね」


 パペットが舞台に上がる。

 衣装の汚れを払い、心底困り果てたように劇場の荒廃具合を見回していた。

 劇場公開直前に、この惨劇――。

 せっかく芝居の練習や広報を進めてきた人形劇が、これじゃ開催が厳しい。


「パペット、すまん」


 俺は、この惨劇を招いた原因の一人だ。

 元を辿れば、アーチェが俺を恨んで引き起こしたこと。謝って済む話ではないが、居たたまれなくなって自然と詫びの言葉が出てきた。


「なんでソードさんが謝るのです? むしろ、こちらがお礼を言うべきです。先ほどは助けていただいて、ありがとうございました」


 パペットは軽く頭を下げた。

 視線を下げると、その長い睫毛が強調される。


「あいつは……アーチェは俺を恨んでいるらしい」

「あの方から恨みを買った覚えが?」

「覚えはないが納得してる。俺はずっと昔、恨まれても仕方ないことをしたんだ」

「そうですか……。でも復讐は愚かなことです。人の感情は厄介ですね。私はソードさんに感謝していますよ」

人の感情(・・・・)……?」

「復讐は感情があるからこそのものでしょ? 私には、まだ理解できないですけどね」


 パペットは微笑み、崩壊した座席に手を翳した。

 手先から金色の魔力粒子が集まり、細い釣り糸を紡いでいく。


 瓦礫の中からボロボロの自動人形が浮き上がった。

 可動する気配はなく、吊るされるように宙に浮き、中央に集められていた。

 スクラップとして回収してるようだ。


「俺も手伝うよ。これでも掃除は得意なんだ」

「あら。助けていただいた上にそんな……」

「気にすんな。ほら――」


 パペットと同じように虚空に手を翳し、【抜刃】を発動させる。瓦礫という瓦礫を一斉に剣に変えて、魔力操作で剣を一ヵ所に寄せ集めてから解除した。

 すると、剣は山盛りの細かい塵灰となった。

 オートマタ以外の瓦礫が消え、劇場はだだっ広い空間となった。


「まぁすごい。ふふふ」


 パペットと少しお近づきになれた気がする。

 人間のように微笑む姿は、五千年前の気難しいパペットとは似ても似つかないが、今の方が何倍も取っつきやすかった。


 ――人の感情、か。


 人間兵器にも昔から個性はあった。


 シールのようなストイックな奴。

 ケアのようなミステリアスな奴。

 メイガスのような慎重な奴。

 ヴェノムのような陽気な奴。

 それぞれ個性は個性として持っていたが、感情は希薄だったように思う。


 アーチェは気が強い奴だが、俺の記憶の限りでは怒る姿を見たことがない。

 変わってしまった証拠だ。


 あいつも憑依(ヨリマシ)になってしまったのだろうか。


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