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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第2章「人間兵器、将来を憂う」
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89話 赤の弓兵vs金色の人形師Ⅰ


 王城の外に出て城門に向かった。

 城門から続く吊り橋に人だかりができている。


「ちょっと。退いてくださる? わたくしです」


 ヒシズは人混みを分けて中心に割り込んだ。

 たまたま王室に来ていた王侯貴族や臣下が野次馬のようにたむろしていたが、ヒシズに気づいて道を譲ってくれた。

 俺もヒシズに続く。


「わっ。これは酷いわね……」


 人だかりの中心に大きな鳥の死骸があった。

 鷹のような猛禽が、矢に射抜かれて死んでいる。

 血が木製の吊り橋を染めていた。


 平和な昼下がりには不釣り合いな光景だ。


「あら、お兄様」


 白を基調とした王族衣装の男が、鳥の死骸の前にしゃがみ込んでいた。

 ヒシズに声をかけられて、男が立ち上がった。


「ヒシズか」

「あっ、ちょうどいい。紹介しますわ」


 ヒシズはその無表情な男を手で示した。


「こちらがわたくしの兄、ハイランド王国第三王子のグウィッドですわ。――お兄様、こちらはわたくしのボディガード、剣の勇者のソード」

「おい、いつからボディガードに」

「いいから。そうでもないと一緒にいるのを不審がられるでしょう?」


 ヒシズが俺に小声で耳打ちした。

 グウィッドはそんな俺とヒシズのやりとりを気にすることなく、黙って俺を見定めていた。


 この男がグウィッドか。

 もしアークヴィランの憑依(ヨリマシ)になっているとしても判別できないが、ヒシズの証言通りなら、既に悪事を働かせているかもしれない。


「ああ、えーと……」

「剣の勇者か。もしかして、これは君宛ての?」

「うん?」


 友好的に接するべきか決めあぐねていると、グウィッドの方から赤い紙を差し出してきた。


「なんだこれ」

「矢文らしい。鷹に刺さった矢に巻かれていた」


 言われるがままに紙を受け取って開いた。

 赤いのは血が染みているからだ。



『  劇場招待状


 血を見るのは久しぶり?

 臆病者の剣士は、これで十分怖いわよね。

 "勇者"に戻りたいなら劇場へ来なさい。

 あなたに仲間の死を乗り越えられるかしら。


           赤の支配人 より 』



 酷い脅迫文だった。


 臆病者の剣士。

 勇者に戻りたいなら。


 間違いなく、俺に宛てた手紙だ。


 プライミーで連絡も取り合えるこの時代に矢文なんて原始的な方法で、わざわざ鳥の死骸付きでこんなものを送り付けるなんて悪趣味なこって。

 どうやら正体を隠すつもりもないな。


「勇者様、それは?」

「脅迫状だ。多分、俺に対する……」

「どういうことですの? なんでそんなものが?」

「気にするな。騒がせて悪かったな」


 王家への脅迫文じゃないだけよかった。


「はぁ……。ちょっと行ってくるか」

「どちらへ?」

「劇場っていえばグレイス座だろう」

「これを送ってきたのはグレイス座の人間ですの? それなら大問題ですわ。公共劇団がこんなことを……王家への侮辱罪に問われます」

「いや、多分違う」



 送り主には心当たりがある。


 『赤の支配人』


 俺たち人間兵器にはそれぞれカラーがある。

 俺は黒、シールは青、ケアは白という具合に。

 "赤"は二号(アーチェ)の色だった。



     ○



 急いで西区の劇場へと向かうことにした。

 ヒシズは同行を願い出たが、丁重に断った。

 王家の人間を危険な目に遭わせられない。



 ――振り返れば、当たり前のことだった。


 俺はかつて仲間を裏切った過去がある。

 ヴェノムやDB(ケア)はそんな俺を非難することなく受け入れてくれたが、恨み辛みを募らせた奴がいても不思議じゃない。


 人間兵器、二号。コードネーム"アーチェ"。

 燃え盛るような赤髪が特徴の、弓の勇者。

 あいつはプライドが高くて責任感も強かった。


 能力は【誘導弾(ホーミング)】と【桜吹雪(ショットシェル)

 ホーミングは自動追尾の矢。

 ショットシェルは広範囲に拡散する散弾の矢。

 どちらも厄介と言えば厄介だが、俺にとっては取るに足らない能力だ。


 なにせ、俺には無敵の鎧がある。

 一体どんな復讐をするつもりなんだろうか。



 グレイス座の劇場に到着すると、劇団員が避難して逃げ惑うところだった。

 劇場の中から激しい破壊音が響き渡る。

 俺は適当な劇団員の女を捕まえて問いかけた。


「おい。中で何があった?」

「っ……わ、わかりません! 急に爆発音がして、座長が劇場で誰かと戦ってて……!」

「パペットか」


 急いでグレイス座の中に入り、予行演習を見せてもらった劇場まで急いだ。



 劇場の入り口付近の壁は既に穴が空いていた。

 崩壊しかけた壁を殴って広げ、無理やり劇場内に押し入った。


 館内は悲惨な状態だった。

 格式高い赤い皮張りの座席が吹き飛んでいる。

 天井や防音の壁が剥がれ落ち、いつ倒壊してもおかしくない。


 その合間を、縦横無尽に駆ける二つの影――。

 ストーリーテラーのような衣装と黒タイツを身に纏う金髪の女が、野外戦闘用の軽装を着た赤髪の女が交戦している。


 パペットとアーチェだ。



「邪魔、しないでッ!」

「――――……!」


 アーチェは魔導銃を片手に、舞台や突き出た瓦礫の上を跳び移りながらパペットを撃ち続けていた。

 銃弾が壁に当たるたび、爆発でも起こったかのように壁や床が飛び跳ねる――。


 対するパペットは、両手の五本指で糸のようなものを引き、張り巡らせた糸の上に乗ったり、壁に張り付いたりして【人形】を操って応戦していた。


 パペットが操るのは、あのオートマタだ。


「私はこの劇場の支配人です。劇場を守るために戦うのは当然でしょう」


 芝居で見せられた動きとは、まるで違う。

 パペットは舞踏のように体を柔軟に曲げ伸ばし、糸を操っている。

 それに連動して自動人形(オートマタ)がアーチェを狙い、鈍器や手刀で攻撃していた。


「この、ガラクタが――ッ!」


 アーチェはオートマタを魔導銃で撃ち落とすも、命のないそれらは完全に破壊されない限り、いつまでもアーチェを攻撃し続ける。

 まるで生ける屍のようだ。

 アーチェもそんなパペットの力を把握しているからか、攻撃対象は糸を操るパペットに絞っていた。


「人質を解放してください。さもないと、このままあなたの身体機能が停止するまで、オートマタを使役し続けます」

「ヴィランの分際で! その姿、目障りよッ!」


 人質と聞き、舞台上の二人の存在に気づいた。

 本来なら芝居の大道具であるビルの模型にヒンダとスージーが縛られていた。


「ヒンダ……!」


 ここで俺がすべきことは人質の救出だ。

 パペットがアーチェと戦ってくれているうちに、あの二人を解放しよう。


 劇場後方の出入口から舞台に向かって走った。



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