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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第2章「人間兵器、将来を憂う」
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84話 王家の異変Ⅰ


「よし。ここなら誰も来ませんわね」

「なんだここ……? もっと他になかったのか」


 連れて来られたのは武器庫のような場所。

 王室事務局のある廊下から渡り廊下に出て、石造りの古い雰囲気を残す棟の、とある一室の倉庫だった。

 武具が保管されていて黴臭さが充満している。

 長く使われてないようで、間違っても王女と謁見するような場所じゃない。


「心配しなくても大丈夫ですわ。ここなら大声で叫んでも誰の耳にも届きません、ふふふ」

「アンタ、絶対に犯罪者の素質があるな……」


 さっきから言動が王女というより悪党のそれだ。

 思惑通り、といった具合に口元を歪める様は、隣に立つヒンダと同類の匂いを感じさせた。


 しかし、夜も更け、暗がりで石造りの倉庫に佇む高貴な女というのは、なかなか画になる。


「勇者様に手際をお褒めいただくとは光栄です」

「なんか勇者のことを誤解してるな」

「そんな照れなくても。わたくしは貴方たちを取って食べようというつもりはございません。ただ、相談に乗ってほしくて……」


 勇者が絶対服従という固定観念が気になる。

 でも、相談を聞かないと解放してくれなさそうだ。

 さっさと話だけ聞いてスージーと合流しよう。



「それよりソードが勇者ってなんで知ってんのさ」


 ヒンダが口を挟んだ。

 師匠である自分にまず話を通せと言わんばかりだ。


「こいつは自分が勇者ってこと、隠してんだぞ?」

「まあ。そうだったのですね。でも、そうは言いましても、わたくし一応、王家の人間ですし」


 ヒシズは手首に巻いた情報端末――プライミーから三次元のホログラムを浮かび上がらせ、その立体像を手で払いながら資料を巡り始めた。すごい技術だ。

 俺の持つプライミーより機能が充実してる。


「あっ、ありました。こちらですわ」


 ヒシズが摘まみ上げたホログラムを、指先で広げると立体像は拡大された。

 その像は七人の人間兵器だった――。


「一号から七号まで当時の姿が再現されてますわ」

「おおお、ソードだ! ヴェノム兄貴も!」

「みんな揃ってる……。この像はなんだ?」


 ヒンダは面白がってホログラムの中の俺を小突いたり、ヴェノムの髑髏面の裏側を覗こうとしていた。


「王家で共有している歴史資料の一つです。わたくしたちは当然、七人の人間兵器について歴史で学んでいますから」

「そうか。それで俺のことを……」

「ええ。剣の――いえ、裏切りの勇者、ですね」

「……」


 汚名はしっかりと歴史に刻まれていた。

 勇者伝説の幕締めを語るなら、俺の存在は欠かせない。

 裏切り者。そのせいで人類は敗北し、長きに渡る魔王支配の時代がやってきた。


 ヒシズにとって俺は先祖の仇だ。

 魔王に負けた人間は、見せしめに王を処刑され、辛い時代を送った。

 王家なんか特に酷い仕打ちを受けたはずだ。

 プリマローズの手によって根絶やしにされなかっただけでも幸いな話である。


「もしかして、ヒシズは俺に復讐を――」


 警戒が増す。

 思わず、戦闘の構えを取っていた。


「ここでは助けを呼んでも無駄ですわよ。ふふふ」

「……ッ」


 俺はヒンダを庇うように手で後ろに送り出した。

 緊張感が走る。


「ふ、ふふふふ、ふふふ……ぷっ、あっははは!」

「はぁ?」

「あはははっ。ひぃ~おかしい。ふふ、冗談ですわ」

「からかいやがったな……」


 ヒシズは腹を抱え、笑いを堪えるのに必死だ。

 なんだこの王女。


「魔王の時代なんて何千年前の話? そんな昔の復讐をわたくしが果たすと?」

「あのな、俺はけっこう引きずってんだぞ」

「あら。意外とホンモノは繊細ですのね? 漫画や映画、ゲームで語られる"ソード"の人物像はもっと大胆で勝ち気。背中で語る熱い男と評判ですわ」


 わたくしも大好きです、とヒシズは言葉を添えた。

 リップサービスかは知らないが、裏切り者のレッテルを貼られていると思ったから意外だ。


「俺は裏切り者だ。ヒーロー扱いされるような勇者じゃない」

「では、その憂いを晴らす学説を一つ。

 ――近年の歴史学者の見解では、アークヴィランの襲来が魔王の時代で良かったという解釈があります。もし人間兵器の反逆がなく、そのまま人類がアークヴィランを迎えていたら、この星はもっと悲惨な末路を迎えていたかもしれない、ということです」


 ヒシズは俺の憂慮を労ってか、話をしてくれた。


 アークヴィランが襲来したのは魔王統治時代。

 当然、アークヴィランは魔族を駆逐するべく戦い、それに魔族が抗戦した。

 この戦争により魔族は滅亡。

 もし人類がアークヴィランを迎えていたら、アークヴィランは人類を敵と見なさなかったかもしれない。体のいい"宿主"としか思わなかったかもしれない。


 宿主となった人間はいずれ『憑依(ヨリマシ)』になる。

 人類の気づかぬうちに瘴化汚染(マナディクション)は進む。

 結果、あっという間にこの星はアークヴィランに乗っ取られ、支配されていた、ということだ。

 魔族が全盛を究めていた時代だったからこそ、アークヴィランの本質に気づく時間が得られ、人類は対抗策を打つことができた、という解釈だ。


「なるほど……」

「すべては結果論です。でも、剣の勇者様の裏切りのおかげで、この時代ではアークヴィランに対抗し続けることができた。わたくしもそう信じますわ」


 ヒシズが俺に微笑みかけた。

 なんだか少し救われた。


「へぇえ~。ソード、英雄じゃん」

「俺も驚いてる……」


 シールに聞いた話では、以前の俺は自身の裏切りを悔いて、アークヴィランを滅ぼすことで罪を償おうとしていたらしい。

 もし当時の俺が今の話を聞けたら――。

 いや、まだ50年前は、その学説を提唱する学者がいなかったかもしれない。


「そういうわけで、わたくしは人間兵器の中では一号推しです。なので、ここで貴方とお会いできたのも運命のように感じますわ」


 ヒシズ王女は本題に入ろうとしていた。

 俺もそんな雰囲気を感じて、最初よりも前のめりに相談を聞いてあげようという気になった。


「それで、俺にどんな相談が?」

「ええ。実はですね……家族のことなのですけど」

「家族……? って、王家の人間のことか?」

「王家といっても親戚も含めると広い意味になりますので、あえて家族と呼びますわ。わたくしの父、母、それに多くの兄弟も含めて、彼らが変なのです」


 変……?

 ヒシズの家族とは国王や王妃、王子王女のことだ。

 程度によるが、状況次第は国の一大事だ。


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