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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第2章「人間兵器、将来を憂う」
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80話 人形劇団グレイス座Ⅰ


 最初に連れて来られたのは楽屋だった。

 裏口から一番近い部屋だ。まずはお茶を出してくれるらしい。


「楽屋といっても、ここは人形劇団ですからね。小道具の(・・・・)人形なんかもあるので、見てもらおうかなーって」


 壁際のテーブルには人形が飾られていた。

 二頭身、三頭身の人形ばかりだ。

 俺のイメージの人形劇に近い人形が置いてあった。


「小道具? これが?」

「はい。小人形は回想や劇中劇で使われるんです。本筋のお芝居は、もっと大型の自動人形(オートマタ)を使いますよ」


 スージーは俺からの質問が嬉しいようだ。

 言葉一つ一つに畳みかけるように答えてくれる。


「オートマタ……ってなんだ?」

「え? 知りません?」

「ああっ。コイツは人形劇愛好会に入りたてでさ。素人だから許してやってよ」


 ヒンダが焦ってフォローに割って入った。

 その実、自分の体裁を守るのに必死だ。そりゃ嘘つきにはなりたくないよな。


「なるほど。でも、興味持ってくれて嬉しいです。

 ヒンダちゃんも人形劇を布教してくれてありがとね。

 ――あっ、ちょうどいい。来ましたよ」


 スージーが楽屋の入り口を見た。

 同じ力加減のノックが2回聞こえて、入ってきたのはメイド衣装を着た女。DBの目つきに少し似ていた。

 それがお茶をテーブルに並べてくれた。

 動作に無駄がなさすぎて人間らしくない。


「お、おお。ありがとな」

「……」


 メイドは終始無言で黙々とお茶出しした。

 丁寧に茶を並べ終えると、お辞儀して立ち去った。


「今のが自動人形(オートマタ)です」

「ええ? 見た目はまるっきり人間だったぞ」

「最近の人形造りは、とっても精巧ですもん。アレも座長の作品だったかしら?」

「パペットか」


 傀儡の勇者、人形師パペット。

 腕は劣らず、か。

 それこそ機械兵器と化したDBより今のメイドの方がずっと人間に見える。


「グレイス座には百年の歴史がありますけど、古くに造られた人形が少しずつ引退していて、最近はパペットさんお手製の最新人形が増えてるんですよ」

「まさか、スージーも人形とか言わないよな……?」


 手を伸ばしてスージーの腕を突いてみた。

 スージーは身をよじらせ、満更でもない顔で俺を見返した。


「いやん。わ、私は生身の人間ですーっ」

「あ、キミはまたそうやって女の子に手を出してっ。シールさんに言うぞ」


 ヒンダがまるでスキャンダラスな現場を目撃したかのように注意した。

 "また"とは、パペットのことだろうか。

 子どもは過敏すぎて困る。


「人聞きが悪い。腕を突いただけだろ」

「やだねぇ、ソードはデリカシーに欠けるよ。女の敵だ。そのうち刺されるかも。夜道に気をつけな?」

「おう。戦いなら受けて立つぞ」


 俺はナイフ程の剣を生成して手元でピンと弾いて掴み直した。


「おお~。それが例の剣舞。かっこいいです……」


 スージーは小刻みに拍手を送ってくれた。

 俺のファンってのは本当だった。

 スージーは拍手を終えると、そのまま軽く両手を合わせて、思いついたように立ち上がった。


「そうだ。もし自動人形に興味があるなら、今度の公演で使う自動人形も見てってくださいよ」

「ええ? スージーちゃん、それはさすがに……」

「こっそりね、こっそりっ」


 ヒンダが驚いて両手で口を押えている。

 スージーは人差し指を立ててウィンクした。


「公演用の人形を拝めるなんて滅多にないことだぞ。こりゃあスージーちゃん、思った以上にソードが"お気に"だねぇ」


 ヒンダが口元を歪めるのを俺は見逃さなかった。

 いつかこいつも痛い目を見そうで心配だ。



 楽屋を出て、廊下を突き進むと、関係者以外立ち入り禁止の注意書きが書かれた扉の前まで来た。

 スージーは扉を開け、奥の暗闇に入っていく。

 目を輝かせたヒンダが鼻息荒くして後に続く。

 俺も続いた。


「灯りは点けないのか?」

「劇中、夜のシーンがあったりするので、自動人形には特殊メイクを施してあるんです。仄かなスポットライトで発光するように。そのメイクの効力を保つ為に遮光条件で保管するんですよ」

「はぁ~。なるほどなぁ」


 巻き込まれる形だったが、この見学、意外と勉強になる。

 スージーはペンライトで照らして先に進んだ。

 その灯りだけが頼りだ。先が見えにくい。


「……っ」


 だというのに、スージーの足取りがなぜか重い。

 なんだか怖がっているようだ。

 終いには足を止め、後ろに立つ俺の袖を不安そうにつまみ出した。


「どうしたんだ?」

「あの、実は私、大の怖がりで……」

「なに? 暗がりが怖いって?」

「暗がりというか……。一月ほど前、楽屋で着替えてたら床から生える生首を見ちゃったんです」

「床から生首……だと……?」

「それ以来、劇場全体が怖くて……。古い建物なので、きっと呪われてるんです」

「……」


 本当にすまないと思っている。

 心からお詫び……いや、心の中だけでお詫びする。


「わかった。ペンライトを貸してくれ。俺が行こう」


 怖がらせたのは俺の【潜水】のせいだ。

 幽霊と勘違いさせた責任がある。

 俺が先頭になって奥に進むと、また別の幽かな灯りが通路の先で灯っているのが見えた。


「ひっ……あ、あれ? 先客かしら?」


 その灯りが複数の人面を浮かび上がらせていた。

 無表情で端麗な顔立ちが並ぶ様は、まるでホラー。

 いつぞやプリマローズに見せられたホラーゲームより、よっぽど悍ましい。


 灯りの中心に金髪の女がしゃがんでいた。


「あっ、座長だわ」


 スージーの声が一気に明るくなった。

 しゃがみ込んでいた金髪が立ち上がった。


「うん? あぁ――」


 振り返った妖艶な美人は、やはり昔の仲間だった。

 人間兵器四号。コードネームは"パペット"。

 ストーリーテラーのような黒い光沢を感じさせるパンツやショルダーベルトを身につけているが、その長い睫毛や流し目な仕草一つ一つは当時と変わりない。


「パペットさん、こんにちはっ」

「あら、ヒンダちゃん? どうしてここに……?」


 ヒンダが無警戒に駆け寄っていく。

 まさか彼女がアークヴィランとは俺にも思えない。

 独特の雰囲気や儚げな様子には、邪悪さが感じられないのだ。


 しかし、俺は思う――。



 "ふふ、貴方の目にはどう見える?"



 背後からDBがそっと声をかけた気がした。

 それは幻聴だ。パペットをこの時代で初めて見たときに問いかけられた言葉だ。


 どうって……。

 やっぱり俺にはパペットにしか見えない。

 彼女がアークヴィランだというなら、これも人間兵器が最終的に行き着く未来。

 俺も、力を使い続けたらいずれはこうなる、ということだ。



 "その事実が、これから貴方にどんな影響を与えるか……。それは個人的に楽しみだけどね。ふふふ"



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