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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第1章「人間兵器、自由を願う」
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70話 最強の剣と盾Ⅰ


 遥か頭上を翔けるノスケを見て、俺は焦っていた。

 もはや海上レースじゃねえじゃん!


 ノスケが『飛翔水柱(バブルパルス)』に乗るとき、ひっそり見てたが、どうも乗りかかるときに板のようなものを投げ込んで土台を造り、その土台を水流が突き上げたのを利用してジャンプしていた……。

 元々用意がないと、利用できるギミックじゃない。


 これだけでも不利だってのに、おそらく先を進むジャステンは水上を進む俺たちを潰すため、あえてバブルパルスを避けたのだと思う。

 あるいは、誘導だろうな。


 俺は迷いなく潜航渦潮(ダイブ・ボーテックス)を選んだ。

 俺たちと差を広げるノスケを抜くには積極的に潜ってマナブーストリングを使い、アーセナル・ドックもフルスロットルで加速していくしかない――。



 渦潮の中は海の深部まで続いていた。


 第一レースで潜ったときより遥かに深い。

 マナブーストリングは幸いにもあった。

 俺はそれを潜ることでどんどんアーセナル・ドックが加速させた。


 猛スピードで海中を進む中、第六感が働いた。

 何かが海中から襲いかかろうしている。

 それも一頭や二頭って数じゃねえ。


「来やがれ。こちとら望むところだ」


 咄嗟に【抜刃】で剣を造り、眼前に突如として突き出された謎の触手を切り裂いた。吸盤があったからタコだったかもしれない。

 さらにまだまだ来る。

 魚、鮫、鯨、海竜のような得体の知れないアークヴィランのオンパレードだ。


 さらにマナブーストリングによる強制加速。

 速度を増し続けるアーセナル・ドックを片手で支えながら、大量の海産モンスターを利き手で斬り払い、なんとか脱落せずに耐え抜いていた。


 これならいける。

 空からショートカットしたノスケにも追いつける。

 そう思っていた矢先だった。



「――っ!」


 目が熱くなり、視界が突然ブラックアウトした。

 遅れてやってくる激痛。

 ああ、これが【百鬼夜行】か。


「ぐっ」


 最悪なタイミングに使ってくれた。

 どうやらリックにやった時のような加減をするつもりもないようで、端から眼球を潰しにきやがった。


 まだ眼球破裂まではされてないか……?

 でも、今の俺が脱落するには十分すぎる致命傷。

 ブラックアウトしたままの視界で、第六感だけを頼りに海産モンスターを捌ききるには限界があった。

 不覚にも謎の触手に突き飛ばされ、潜航渦潮(ダイブ・ボーテックス)を外れ、海中に投げ出された。


「がふっ……がっ……アア……オオオ……!」


 体内から湧き出た黒魔力が全身を包む。

 水圧に潰されかけたところを【狂戦士】の鎧でなんとか防いだ。しかし直後には、まだ何かの怪物に甚振(いたぶ)られ続ける。


 大丈夫だ。

 目を潰されても【狂戦士】が治す。

 実はそれもあってミクラゲの目潰しを舐めていた。


 でも、すぐには視力は回復しなかった。

 それに眼球を抉られる痛みが続き、しかも外側からは怪物の攻撃。


「ううう、あああああ……!」


 内からも外からも攻撃されて気が狂いそうだ。

 脱出するまで鎧が耐えきれるかも心配だった。

 あのクラゲ野郎、覚えとけよ。次に会ったら殺して殺して殺して殺して殺し殺し殺し殺――。


「コロ……コロシ……コロス……」


 うん? 今、無意識に声が?

 方々からの攻撃で我ながら混乱したか?

 まぁいい。とにかく今はここから脱出しないと。


 残念ながらレースは諦め――。



護りの盾(プロテクション)!」



 諦めかけたとき、どこか聞き慣れたような、でも懐かしい言葉が頭を駆け巡る。

 それは俺が求めていた人の声だ。

 俺が必要としていた声。


「ガッ……ゴボッ……」

「ほら、掴まって!」


 視界が真っ黒で姿は見えなかった。

 だが、その技、その声、間違えるはずがない。

 シールがいる。目の前にいるんだ。


「がはっ……」


 腕を掴まれ、潜水状態から空気があるところまで引き戻された。


「シール、お前なのか!?」

「うん、私だよ。来て!」


 そのまま手を引っ張られ、何かに乗せられた。


 アーセナル・ドック?

 なぜか、乗り心地に覚えがある。

 くそ、まだ視力は回復しない。

 シールの後ろに乗せられたが、体に掴まると、少し体格が違うように感じた。なんか硬い……?


 それにさっきまでのアークヴィランの数々はどこへ行ったんだろう。まさか【護りの盾】一つですべて拘束したというのか……。


 考える間もなく、跨った機体は急加速を始めた。

 水流の音が聞こえるから『潜航渦潮』に引き戻されたようだ。


「よく此処に――ていうか、俺はずっとお前を」

「そんな話は後! 今はレース中でしょ」

「……? なんで知って……」

「私があなたの目になるから。二人で走りきるよ!」


 シールは巧みなハンドル捌きで潜航渦潮を抜けた。

 水上に飛び出すとき、勢い余って空中に少し跳び上がった。


『やや!? 先ほど突如として現れた二人目(・・・)のノスケが、ダイブ・ボーテックスから出てきたと思いきや、背後に黒い鎧の男を乗せているー!? 一体なにがどうなっているのか!』

『私にも何が何だかわかりませんけれど、あの黒い鎧の男はソードですわね』

『なんと! 助けたということでしょうか!?』

『そのようにしか見えません』


 実況と解説が混乱している様子がわかる。


 今のでシールが変装中だと気づいた。

 シールには【護りの盾】以外に【蜃気楼(エクステリア)】という擬態能力がある。

 どんな人間にも成りすませる特殊能力だ。


「ノスケに変装してるのか?」

「レースに参加するには誰かに擬態しないとね」

「それならプリマローズに擬態した方が良かったんじゃねえか。あいつは一度脱落して行方不明だから、復活したって不思議には思われねえ」

「……」


 俺の問いかけに沈黙したところから察するに、その発想はなかったって感じだ。


「ううん。プリプリは駄目。プライドが許さない」

「プリプリ……」


 選手名で呼んだ、と解釈しておこう。

 俺の中でシールに疑念が一つある。

 それを確認するのはすべて終わってからだ。



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