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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第1章「人間兵器、自由を願う」
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7話 魔王退治RTAⅢ(ゲーム)


 緊張感が走る。さすが魔王との対峙。

 それに付け、相手が何を言ってるのか理解できないことに、余計な緊張が襲う。


「げーむ実況って……なんだよ……?」

「そうか。そなた、目覚める度に記憶が抜けるのだったな」


 プリマローズははっとして口元に手を当てた。

 いや、記憶は抜けてないはずなんだが。

 魔王は得意げに語り始めた。


「今ではゲームはシェアする時代じゃ。より楽しくゲームをする者こそ愛され、より面白く語れる者にこそ人が集う。そして、その者が幾多の"信者"を手にするのじゃ。すなわち覇権を手に入れる」

「……?」


 話の半分しか理解できなかった。

 手段は不明だが、魔王の目的が変わらない……らしい。

 とにかく、こいつはまだ世界征服を狙っている。


「まず、その"げーむ"って? 宣教活動か何かか?」

「まずはそこからか。記憶喪失は難儀じゃの」

「残念ながら記憶は消されてない。ちゃんと前回の記憶はある」

「おや? 妾のことも覚えておると?」

「魔王プリマローズ・プリマロロだな」

「ほう。魔王とな……」


 プリマローズは懐かしむように言葉を反芻した。


「だが不思議じゃ。そなた、前回の目覚めは数十年ほど前であろう? その時代からゲームは存在しておったが」

「いや、知らねえ」


 ふむ、と眉を顰め、プリマローズは戦闘態勢を解除した。

 仕方ないとばかりに腰に手を当て、人差し指で"来い"と合図した。


「……」


 固唾を呑む。

 油断は禁物だが、プリマローズに邪気は無い。

 ていうか、始めから邪悪さを感じなかった。


 俺も一旦ダガーナイフを下げ、魔王のもとへ近づいた。



「これを見よ」


 壁面がまた光り出す。色鮮やかに彩色されていた。

 しかも、その光は動いている。


「これをモニターと云う。これが本体、これがコントローラー」

「なるほど。それで?」

「コントローラーを使って、モニターのキャラを操作し、クリアを目指すのがゲームじゃ」

「クリアってなんだ?」

「攻略するってことじゃな。ゲームとは玩具の延長よ。元は子どもが遊ぶために作られたが、今では老若男女、種族問わず、世界中で熱狂的なファンがおる」


 オモチャという言葉でなんとなく理解できた。

 プリマローズは、コントローラーなるものを両手に握りしめ、指でガチャガチャと弄り始めた。

 その動きに連動してモニターに映る人型の絵が動く。


「すげーな」

「文明が創り出した最新の電脳魔術よ」


 プリマローズはモニターに夢中になりながらも、指先を器用に操り、画面に映る薄暗い道をキャラに歩かせていく。


「何をすればクリアなんだ?」

「これは"ホラーゲーム"といわれるジャンル。すなわち、プレイヤーである妾が恐怖を味わうために創り出された」

「魔王が恐怖を味わう遊びだと……?」

「その恐怖に打ち勝ち、道中に現れる数多の魑魅魍魎を避けながら、ゴールを目指すのじゃよ」

「楽しさが分かりにくいな……」

「やってみれば分かるのじゃ。怖いもの見たさじゃよ」


 プリマローズは真剣にゲームをしている。

 道中、何か出そうな場面では怯えたり、実際に怪物が出ると悲鳴をあげたりしていた。


「……ど、どうじゃ、ソード。怖かろう……?」

「全然。てか、そういう問題じゃねえ!」

「どういう問題じゃ?」

「世界征服は!? 人間を滅ぼさないのか!?」

「何を云う。人間が滅んだらゲームが遊べなくなるではないか。ゲーム実況とはリスナーが命よ。聞き手がいなければ妾も寂しい」


 よよよ、と崩れ落ちる魔王プリマローズ・プリマロロ。


 おかしい。

 俺にとって昨日のことのような五十年前、この女と熾烈を極める戦いの果て、その首を狩り、世界を救ったはずだった。

 それが一体全体どうして……。


「…………」

「にひひ、スキありじゃ。ソード!」

「ぐっ!? やっぱり罠か?」


 魔王が茫然とする俺にタックルしてきた。

 一瞬、死を覚悟したが、ただ抱きつかれただけだった。


「テメェ、離れろ」

「いーやーじゃ。シズクを遣わせたのも、そなたを呼びつける為だったのだぞっ」


 魔王が雌の顔して俺を上目遣いで見てくる。

 なんだこいつ。こんな奴だったか?


「誘惑でもかけて戦力を削ごうって魂胆(ハラ)か」

「半分当たり、半分外れじゃな」

「……?」

「そなたに誘惑かけるのは、まぁそうじゃ。戦力を削ぐつもりは無い。そなた、妾と闘おうとでも言うのかえ?」


 小馬鹿にされたようで頭にきた。

 今の俺の闘気を見ろ。【狂戦士】モードだぞ。

 この状態で戦う気ゼロと言う気か。ないない。


「ふんっ!」

「おおおお」


 気合を入れ、プリマローズを引き剥がす。

 距離を空けて剣を構え直した。

 周囲に散らばるゴミを【抜刃】で刀剣類に変える。


「馬鹿にすんな。俺とお前は元々こういう仲だろう?」


 【抜刃】の準備は十分だ。

 魔王もどうやら前より腑抜けになったようだ。

 ここいらで俺がぶっ倒してしまえば、自由への道も近い。



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