7話 魔王退治RTAⅢ(ゲーム)
緊張感が走る。さすが魔王との対峙。
それに付け、相手が何を言ってるのか理解できないことに、余計な緊張が襲う。
「げーむ実況って……なんだよ……?」
「そうか。そなた、目覚める度に記憶が抜けるのだったな」
プリマローズははっとして口元に手を当てた。
いや、記憶は抜けてないはずなんだが。
魔王は得意げに語り始めた。
「今ではゲームはシェアする時代じゃ。より楽しくゲームをする者こそ愛され、より面白く語れる者にこそ人が集う。そして、その者が幾多の"信者"を手にするのじゃ。すなわち覇権を手に入れる」
「……?」
話の半分しか理解できなかった。
手段は不明だが、魔王の目的が変わらない……らしい。
とにかく、こいつはまだ世界征服を狙っている。
「まず、その"げーむ"って? 宣教活動か何かか?」
「まずはそこからか。記憶喪失は難儀じゃの」
「残念ながら記憶は消されてない。ちゃんと前回の記憶はある」
「おや? 妾のことも覚えておると?」
「魔王プリマローズ・プリマロロだな」
「ほう。魔王とな……」
プリマローズは懐かしむように言葉を反芻した。
「だが不思議じゃ。そなた、前回の目覚めは数十年ほど前であろう? その時代からゲームは存在しておったが」
「いや、知らねえ」
ふむ、と眉を顰め、プリマローズは戦闘態勢を解除した。
仕方ないとばかりに腰に手を当て、人差し指で"来い"と合図した。
「……」
固唾を呑む。
油断は禁物だが、プリマローズに邪気は無い。
ていうか、始めから邪悪さを感じなかった。
俺も一旦ダガーナイフを下げ、魔王のもとへ近づいた。
「これを見よ」
壁面がまた光り出す。色鮮やかに彩色されていた。
しかも、その光は動いている。
「これをモニターと云う。これが本体、これがコントローラー」
「なるほど。それで?」
「コントローラーを使って、モニターのキャラを操作し、クリアを目指すのがゲームじゃ」
「クリアってなんだ?」
「攻略するってことじゃな。ゲームとは玩具の延長よ。元は子どもが遊ぶために作られたが、今では老若男女、種族問わず、世界中で熱狂的なファンがおる」
オモチャという言葉でなんとなく理解できた。
プリマローズは、コントローラーなるものを両手に握りしめ、指でガチャガチャと弄り始めた。
その動きに連動してモニターに映る人型の絵が動く。
「すげーな」
「文明が創り出した最新の電脳魔術よ」
プリマローズはモニターに夢中になりながらも、指先を器用に操り、画面に映る薄暗い道をキャラに歩かせていく。
「何をすればクリアなんだ?」
「これは"ホラーゲーム"といわれるジャンル。すなわち、プレイヤーである妾が恐怖を味わうために創り出された」
「魔王が恐怖を味わう遊びだと……?」
「その恐怖に打ち勝ち、道中に現れる数多の魑魅魍魎を避けながら、ゴールを目指すのじゃよ」
「楽しさが分かりにくいな……」
「やってみれば分かるのじゃ。怖いもの見たさじゃよ」
プリマローズは真剣にゲームをしている。
道中、何か出そうな場面では怯えたり、実際に怪物が出ると悲鳴をあげたりしていた。
「……ど、どうじゃ、ソード。怖かろう……?」
「全然。てか、そういう問題じゃねえ!」
「どういう問題じゃ?」
「世界征服は!? 人間を滅ぼさないのか!?」
「何を云う。人間が滅んだらゲームが遊べなくなるではないか。ゲーム実況とはリスナーが命よ。聞き手がいなければ妾も寂しい」
よよよ、と崩れ落ちる魔王プリマローズ・プリマロロ。
おかしい。
俺にとって昨日のことのような五十年前、この女と熾烈を極める戦いの果て、その首を狩り、世界を救ったはずだった。
それが一体全体どうして……。
「…………」
「にひひ、スキありじゃ。ソード!」
「ぐっ!? やっぱり罠か?」
魔王が茫然とする俺にタックルしてきた。
一瞬、死を覚悟したが、ただ抱きつかれただけだった。
「テメェ、離れろ」
「いーやーじゃ。シズクを遣わせたのも、そなたを呼びつける為だったのだぞっ」
魔王が雌の顔して俺を上目遣いで見てくる。
なんだこいつ。こんな奴だったか?
「誘惑でもかけて戦力を削ごうって魂胆か」
「半分当たり、半分外れじゃな」
「……?」
「そなたに誘惑かけるのは、まぁそうじゃ。戦力を削ぐつもりは無い。そなた、妾と闘おうとでも言うのかえ?」
小馬鹿にされたようで頭にきた。
今の俺の闘気を見ろ。【狂戦士】モードだぞ。
この状態で戦う気ゼロと言う気か。ないない。
「ふんっ!」
「おおおお」
気合を入れ、プリマローズを引き剥がす。
距離を空けて剣を構え直した。
周囲に散らばるゴミを【抜刃】で刀剣類に変える。
「馬鹿にすんな。俺とお前は元々こういう仲だろう?」
【抜刃】の準備は十分だ。
魔王もどうやら前より腑抜けになったようだ。
ここいらで俺がぶっ倒してしまえば、自由への道も近い。