52話 操舵指南(水着) ※挿絵あり
ミクラゲの正体や陰謀も気になるけど、結局は俺に勝てる力がなければ、気にしても仕方ない。
競艇まで日も足りないのだ。
……ということに気づき、まずは練習に励む。
さて、シーリッツ海岸まで戻った。
もちろん敵情視察で港にも寄る予定だが、何しろシズクがとても積極的で、アーセナル・ドックの乗り方を教えてたくて教えたくて仕方ないらしい。
だから先に操縦を教えてもらうことにした。
「ソードさんは魔動機を操作したご経験は?」
シズクが浜辺でアーセナル・ドックの素となる筒を取り出し、俺に見せつけた。
「まったくないな」
「だと思いました。大丈夫です。簡単ですから」
「そうじゃないと困る。レースまであと5日だ」
「では、さっそく乗り方から学んでいきましょう」
シズクは徐に上着を脱ぎ出した。
おお。こんな所で大胆に着替えを――。
と思ったら、あらかじめ中に着てきたようで、上着を脱ぐだけで水着にシフトチェンジした。
シズクの水着姿、解禁!
「なんですか……?」
「意外と大胆な水着を着るんだな」
「そちらも、意外としっかり見るんですね」
シズクは競泳水着のようなデザインの、しかし面積の少なめな水着を着ていた。
腰周りはちゃっかり素肌を露出している。
大胆にも、背中は紐のような細い生地がぴったりと張りつき、華奢な輪郭を浮き彫りにしていた。おまけに競泳用なのか、余分なヒラヒラはなく、体のラインが惜しみなく曝されている。
これは眼福。
「まぁ、ソードさんにならいいです。普段はこんな姿は人に見せませんけど……」
「恥ずかしいのか?」
「当然ですっ……」
シズクは珍しく頬を染めた。
恥ずかしがる必要ないくらい良いと思うが。
あまり見すぎるのも困らせてしまう気がしたので、本題に戻る。
俺もついでに上裸になった。
「む――」
「うん? どうした?」
シズクは俺の背筋をじっくり確認していた。
とてもまじまじと……。
反撃のつもりか? それとも背筋フェチなのか?
「俺の背筋がそんなに気になるか」
「いえ……。そうではなく、うーん……」
「なんだ?」
シズクはしばらく俺の背中を見た後、首を振って見るのを止め、正面に回った。
本気で何なのか気になる。
「どうした。はっきり言え」
「……まだ様子見とします。ですが、これからは定期的に背中を見せてください」
「お、おう?」
背筋がそんなに気に入ったのか。
シズクのよくわからない性癖を垣間見たところで、アーセナル・ドックの解説に話題は移った。
「魔動機の基本です。
この筒には設計図が内包されていて、両端を逆方向にねじり、両極へ引っ張ることで術式が作動し、設計図通りに魔力が具現化します。やってみてください」
「わかった」
俺はシズクから筒を受け取り、言われた通りに筒を両端から引っ張った。
すると、体内の魔力が手先から吸い取られて目の前にアーセナル・ドックが出現した。
「おお!」
ハンドルを握ったまま、機体を逆さに持ち上げる。
シズクは俺の馬鹿力に呆れていた。
「あの……普通はそんな持ち方しません」
「わかってる。どうやって乗ればいい?」
「アーセナル・マギアなら陸走なので、筒を水平に展開するだけで自動で地面に設置されるのですが……。船舶の場合はコツが要ります」
シズクは俺に手招きして、波打ち際に向かった。
後をついて行く。
言われるがままにアーセナル・ドックを収納して、シズクに返した。
「いいですか? 水泳と一緒です」
「水泳?」
「やったことあります? 水泳」
「当たり前だ。元勇者だぞ」
「それなら――」
シズクは波打ち際から浜辺に小走りで戻り、助走をつけて一気に波間へ駆けた。
波に足を取られる直前、ジャンプ。
飛び込むように腕を前に突き出したと思えば、その瞬間、アーセナル・ドックを展開させ、水上に小型のモーターボートを出現させた。
そのまま跨って水上を滑走していく。
「おおおお!」
「こんな感じです。ソードさんならすぐできるようになるでしょう。大会はこんな不安定な波間ではなく、ちゃんと飛び込み台があります」
大人しそうなシズクが、まさかそんな機敏な動きを披露するとは意外……。
いや、意外じゃないか。
「運動神経が良いんだな、シズク」
「……いいえ。これに関しては特別です」
「一瞬、熟練した競泳の選手に見えたぞ」
「気のせいです」
人間兵器の俺から見ても、シズクの動きは卓越して見えた。気のせいじゃない。
まだシズクへの疑念は晴れてないんだ。
今までの振舞い、マモルの証言で彼女がただの村人じゃないことは見抜いてる。
少なくとも『シズク・タイム』は2人いる。
ラクトール村の村娘であるシズクと、今こうして積極的に俺と接触を図ってくるシズク――。
敵だとは思っていないが、目的がわからない以上、警戒を怠ってはいけない。
シズクは俺の賞賛を振り払うように、アーセナル・ドックを収納して手渡した。
「はい。どうぞ」
「……」
だが、この協力的な少女を敵と思えないのも事実。
何か秘密がありそうだが、いつか俺を信用して打ち明けてくれる日が来ることを祈るしかなかった。
「よし――じゃあ、練習しよう」
今はとにかく練習に集中だ。
一区切りついたら、次は敵情視察に向かう。
作中の挿絵は、本生公 先生にご提供いただきました。
ありがとうございます。




