5話 魔王退治RTAⅠ(最初の村)
魔王。
名を『プリマローズ・プリマロロ』という。
彼女の目覚めとともに世界は魔物に満ち溢れ、魑魅魍魎が跋扈する。それで人類は何度も絶滅しかけた。
俺が七度目の覚醒で聞いた話では、プリマローズ・プリマロロは太古の昔――それこそ数千年前から存在していたと謂われている。
俺のような勇者の登場はプリマローズ誕生より後。
それまで人類は魔王にどう対抗していたのか。
さて、タイマンで魔王に挑むことになったが――。
村へ向かう森の道中でシズクに問いかける。
「なぁ、本当に魔王が村に居るのか?」
「私の家の母屋に住んでます」
「お、母屋……そいつは本当にプリマローズ・プリマロロ、か?」
「そうです。プリプリさんです」
「プリプリさん!?」
どれだけ魔王が身近になっちゃってんだ。
プリプリさんとか呼ばれてるぞ。
「シズクちゃん家、広いから部屋を貸したんだよね」
「そうです」
魔王が人間から家を借りるって……。
以前なら問答無用で略奪していた。
そもそも人間の家に住むなど、プライドが許さないだろう。
くそっ、目覚めから一日経たず早速意味不明だ。
だが、もしここで俺が魔王を倒せれば人間も勇者を必要としなくなる。
聖堂騎士団もシールを起こす必要がなくなる。
必然的にくだらない勇者覚醒レースも終了だ。
単騎攻略は初だが、二回分の魔王退治の記憶がある俺なら行けるかもしれない。
「いいだろう。俺がなんとかする」
「ありがとうございます。プリプリさんは最近ずっと不機嫌で、手に負えません。それをなんとかしてほしいのです」
「それ大丈夫か? 王に報告した方がいいんじゃ?」
「複雑な事情がありまして。今はどうやら勇者様をご所望してる様子で……。森の祠の話もプリプリさんに教えてもらったのです」
「俺――ごほっごほっ。シュコー……」
危ない。
俺がその勇者だとバレるところだった。
「……勇者を呼びつけて何を? ぶっ倒すって?」
「どうも違うようです」
「味方になれば世界の半分をやろうとか?」
「さぁ。よくわからないです」
さっきはシズクが追いかける側だったが、今は俺が追いかける側。
シズクがすたすた歩くのを俺が後ろからついて歩き、魔王に関する質問を続けた。
正直、焦っている。
心の準備ができてない。
だって目覚めたばかりでラスボスに挑むって、そんなタイムアタックがあってたまるか。
とうとう村に着いてしまった。
精霊の森を抜け、少し荒れ地の野原を歩くと、村はあった。
「着きました。ここがラクトール村です」
「へぇ……って、でか!? え、これ村か!?」
目の前に広がるのは城塞のような外壁だった。
しかも、どういう構造なのか石造りというより綺麗に切り出した鉄を丸々外壁に使ってるような贅沢さがある。
俺が前回の目覚めで知る街の数々より、この村のが王都級――いや、それ以上の防衛設備がある。
「村ですよ。騎士様、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……」
一体、この五十年で何があった。
それとも魔王が住んでるから特別仕様なのか。
「こちらです」
鉄の外壁は入り口がどこかも見分けがつかない。
シズクは迷わず歩いていき、外壁の一部を手で触ると、何に反応したか知らないが、人一人が入れる大きさの入り口が出現した。
音もなく、静かに薄い扉が勝手に空いた。
「何の魔術トラップだ!?」
「生体認証の自動ドアですけど?」
「シュコー……?」
シズクの言う言葉が全く理解できない。
マモルも動じることなく普通に村へ入っていく。
俺は戸惑いながらも"村"に入った。
いまいち村だと思えないが。