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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第1章「人間兵器、自由を願う」
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46話 尋問ループ


「お前はセイレーンの居場所を知ってるか?」

「セイレーン……?」


 肥満の男は目を泳がせて、ソファの後ろにいるマリノアに振り向きかけた。

 マリノアは変わらずニコニコして手を振っている。


「マリノア以外のセイレーンだ。言え」


 男の喉元に剣を突き立てた。

 目に涙を浮かべて男は訴える。


「ひぃ……オレは知らねえ……何も知らねえ……」

「本当に知らないのか? なら、あそこにいるマリノアに聞くまでだ。マリノアは頂いていく」

「いや~ん」


 マリノアはノリノリで嫌がるフリをした。

 全然打ち合わせ通りに動いてない。まぁいいか。


「マリノアはダメだ! 俺が殺される……!」


 肥満男は引きつった表情を浮かべて首を振った。

 会長に対する恐怖心は一貫しているな。


「ミクラゲ・バナナにか?」

「そうだ。会長は怖ろしいんだ……」

「ミクラゲならセイレーンの居場所を知ってそうだ」


 この肥満男はただの下っ端で、見張り番として此処にいるだけかもしれない。

 元々、俺の目的は背広の男――ミクラゲだ。


 時間をかけて尋問の間を置く。

 相手にじわじわと恐怖を感じさせる為に。

 テレビからの笑い声が静かな部屋に響いた。


「シュコー……」

『ワハハハ』

「シュコー……」

『ワハハハハハハ!』


 なんかのコメディ番組のようで、世界の面白おかしな魔術を紹介しては、ゲストの出演者や会場のお客さんが笑う声が合間に入ってくる。

 正直、鬱陶しい。

 俺は呼び動作なしで剣を横一閃に振るい、真後ろから騒音を立てるテレビモニターを斬り捨てた。


 激しく紫電を散らしながらモニターが壊れた。


「ひぃっ!」

「…………」


 肥満男が驚いて頭を押さえて身を縮こませた。


「なぁ。アンタ、名前は?」

「オ、オレか……オレはドンタだ」

「よし、ドンタ――」


 ここから懐柔に入る。

 尋問の常套手段だ。

 相手に恐怖心を植えつけた後、ちょっとだけ親身な態度を見せる。すると相手は簡単に心を開く。訓練された軍人か工作員でもないかぎり、あっさりとな。

 名前を尋ねて答えた時点でほぼ成功に近い。


「俺は無用な殺しはしたくない。こうやってドンタを脅すのも心苦しいことだ」

「そうなのか……っ! 頼む。助けてくれ……」


 ドンタは涙ぐんだ声で俺に命乞いを始めた。


「簡単だ。ミクラゲの居場所を吐くか。セイレーンの居場所を吐くか。選べ」

「本当にセイレーンがどこにいるかは知らないっ」

「それならミクラゲだ。奴は何処にいる?」


 ドンタは目を泳がせている。

 居場所を吐かずに俺に殺されるリスクと、俺の尋問に応じてボスを裏切るリスクを思案しているようだ。

 もう少しプッシュしとくか。


「シュコー……」


 俺は剣の切っ先を再び、ドンタの臍に向けた。

 切っ先による臍プッシュだ。

 一突きすれば痛いだろう。死ぬかどうかはドンタの体力次第。勇者と呼ばれた男がこんな非道なことするなんて古代の人間は誰が予想しただろう。

 ドンタはついに折れた。


「わっ、わかった! 話す!」

「ミクラゲは何処だ」

「……会長は、夜は洞窟にいる」


 ドンタは躊躇いながらに口にした。


「洞窟ってどこだよ?」

「シーリッツ海岸沿いからさらに南に行った所だ」

「洞窟か……」


 なぜ洞窟? こんな夜更けに?

 街に居ると思っていただけに驚きだ。


「まさか洞窟に住んでるってワケじゃないよな?」

「いや……住んでる。会長は洞窟が好きなんだ」

「あんな正装(フォーマル)な服を着た男が?」


 ミクラゲ・バナナ。生態が謎すぎる。

 競艇を執り仕切る協会の会長が洞窟で穴倉生活?

 そんな風来坊な男に見えなかったが……。


「お、おい。オレがバラしたことは頼むから言わないでくれ……っ。殺される」

「やけに怯えてるな。本当に殺されるのか?」

「殺される。あの人は……だって、アレは、ひ、ひぃいぃい!」


 ドンタは恐怖のあまりに絶叫を上げた。

 想像して怖ろしくなったようだ。

 俺は片手を挙げてチョップのジェスチャーをマリノアに送った。


『ラーララーラーラ、ラーラララ~』


 さっきと同じフレーズでマリノアは歌った。

 さっきより心なしか退屈そうな歌声だ。俺も最初ほどの耳鳴りや頭痛はしない。


「フゴォ……フゴォ……」


 ドンタは簡単に寝。丸出しの腹を上下させて。

 これでこの男は、自分がボスの情報を吐いたってことは忘れてしまっただろう。


 うーむ……。

 情報が本当ならミクラゲ・バナナは普通の人間ではない気がする。俺の勘が正しければ人間ではない可能性すらある。

 一応確認で、もう一度ドンタを叩き起こして同じ尋問を繰り返しておくか。

 違うことを言えば、今のが嘘だったことになる。


 尋問ループは相手が吐いた情報が正しいどうかの検証にもなる。

 適当な事を言ったなら齟齬が生まれるだろう。


「おい――」

「フゴォ……フゴォ……」

「おい!」

「んぐふぉ!?」


 肥満の男に剣の切っ先を向けた。


 ドンタ、いつも同じ反応で飛び起きるな。

 地味に愛着すら湧いてきた。

 せっかくならミクラゲの情報も、もう少し掘り下げて訊いてみるか……。

 なんとなく得意げに街の住民にマリノアを紹介するミクラゲの姿を思い返すと、ただの常人が権力片手に演説する姿とは別種の自信を感じたんだよな。

 もしかしたら能力持ち(・・・・)かもしれない。


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