40話 大改造劇的デザートシーⅣ
ハイランダー王国、東リッツバー平原。
アークヴィランの瘴気によって、かつては緑豊かな平原だったこの地が、今では見る影もない。
青々と緑茂る丘陵の地も今では砂漠の峡谷だ。
ここを大改造しようと挑む今回のリフォーム。
それに挑むのは、四人の匠だった。
「――完成が楽しみね」
峡谷の入り口を拝み、不敵に笑う水の匠、DB。
彼女はカラカラに乾いた土地に潤いを与える癒しの人間兵器だった。
この場所を"玄関"へと変えたいという水の匠。
その意気込みについて伺いたい。
「DBさん、今回のリフォームのこだわりは?」
「そうね。やっぱり華やかさね」
「華やかさというと、どのような玄関を?」
「とにかく派手に、優雅に、セイレーンが住んでいて誇らしく思える玄関を提供したいわ。私の構想では、入り口は円形の穴にして、そこから奥へ広がるような――例えるならクジラの口のような構造にしたいわね」
近未来的なデザインだ。
そう語る水の匠の表情には、どこか信念のようなものを感じさせた。
「いいかー!? 行くぞー!」
まず最初の作業が始まろうとしていた。
それは爆破解体だ。
現状の狭い"玄関"をぶち抜くことで、内装へのアクセスを簡略化し、作業効率を上げようという目的だ。
かけ声を上げたのは破壊の匠、ヴェノム。
呼応するように水の匠は親指を立てた。
破壊の匠は、それを確認すると、手を翳して仕掛けた【焼夷繭】の瓶に魔力を集中させた。
カタ……カタ……。
揺れ動く【焼夷繭】の瓶。
ヴェノムは、最初の解体は景気よく派手にいこうと決め、気合を入れて【焼夷繭】を作成していた。
DBもどこか爆薬に信頼がありそうな眼差し。
それが今まさに。
爆発した――――。
爆炎とともに"玄関"となる場所が吹っ飛ぶ。
盛大に。これでもないってくらい吹っ飛んだ。
きのこ雲に近い噴煙も舞い上がる。
「……」
「……」
表情が固まる水の匠。
噴煙の中から顔を出したのは、見るも無残な平面となった"玄関"だった。
爆破地点から突き出した壁がそそり立っている。
クジラの口というより剥き出しの肋骨である。
「DBさん? 派手で優雅な玄関……?」
イメージとは真逆。
おどろおどろしい荒廃感のある入り口だ。
「ま、まずは……これで……いいわ」
「嘘つけ!?」
平静を装うも動揺が隠せない匠。
先行きが不安な様子を見せたが、果たして。
お次にやってきたのは中央部の空洞。
ここはかつてアークヴィラン23号の根城だった空間である。
「――こうして見ると敷地が広いですね」
瘴気の発生源であったこの陰湿な場所を、セイレーンが暮らす快適なリビングへ変えようというのが流行の匠、シズク。
「シズクさん、ここは一体どんな空間に?」
「セイレーンさんが一番長く居る場所ですので落ち着き感と開放感を同時に演出したいです」
「なるほど。ここでどんな改築を?」
「天井に吹き抜けをつくって陽射しを確保し、一方で壁際に窪みをつくって日除けの寝床とします。中心部は開放的に、壁沿いは落ち着く場所に、そんなイメージで爆薬を設置しました」
ぐるりと空洞全体を眺める。
天井から特大の【焼夷繭】の瓶がぶら下がる。
壁際には等間隔に【王の水】の瓶が置かれている。
天井は爆破。
壁は溶解。
この二つの解体方法によって、吹き抜けは豪快に、壁際はモダンで滑らかなデザインに変えるとのこと。
「おーし。ここも破壊するぞ」
手を挙げて合図する破壊の匠、ヴェノム。
「お願いします……!」
シズクは期待と不安を胸に小さな声で返答した。
ヴェノムは両手を翳して、【焼夷繭】と【王の水】どの瓶も魔力を込めて、爆破の準備に入った。
カタ……カタカタ……。
小刻みに揺れ始める空洞の瓶の数々。
ヴェノムは、リビングとなるこの空間の"瓶"は慎重に薬物の量を調整していた。
濃淡をつけたいという流行の匠の願いを聞き受け、天井からぶら下がる【焼夷繭】は量を多く、壁際の【王の水】は多かったり少なかったりと場所によって分けた。
それが今まさに。
爆発した――。
「きゃ!」
天井は盛大に爆発し、大小様々な岩石が落ちる。
そういえば落石があることを考えていなかった。
油断しすぎにも程がある。
咄嗟にシズクの体に覆い被さって守った。
シズクもこういう時だけ天然で、俺やヴェノムのような人間兵器と同じ感覚で危険物の近くにいたりするから危なっかしい。
「あっ……ありがとうございます……っ」
「どういたしまして」
照れたように下を向いたシズク。
紳士としてすぐに離れた。
周辺の様子を見回す――。
「……」
「……」
天井が広く開き、陽射しが強まって明るくなった。
だが、開放的すぎる。
壁際の【王の水】も濃淡をつけすぎて、場所によっては壁が丸々なくなったり、小さな窪みが出来ただけだったりした。
岩石が転がって散らかっただけである。
「落ち着きと開放感……?」
「岩は頑張って退けます……」
反応こそ淡泊だが、シズクは面倒くさそうだった。
作業効率が悪くなるばかりだ。
「まったく……そなたらは美学がないのう」
「ん?」
振り向くと呆れたような目を向ける匠がいた。
プリプリ界の匠――改め、引き篭り界の匠。
自信満々だが、その実力はいかに。




