38話 大改造劇的デザートシーⅡ
翌日、DBの魔力回復を待って峡谷に戻った。
シズクとDBと三人でだ。
そしたらヴェノムが普通に居た。驚いた。
「どうやってヴェノムに連絡したんだ?」
DBに振り向いて尋ねてみた。
彼女が答える前にヴェノムが答える。
「アークヴィラン・データベースにはアラート機能もある。厄災級のアークヴィランが現れたときに、俺みたいなヴィラン狩りに連絡が届くんだよ」
「そうなのか?」
「ええ。それを利用して彼だけに連絡した」
こいつら、個別に連絡を取り合えるのか。
ということは二号とも?
なんだ。のけ者にされた気分だ。
でも連絡を受けて来てくれたのは意外だ。
ヴェノムは自分本意にしか動かない奴だと思った。
「なんだかんだヴェノムもお人好しだな?」
「あぁ?」
ヴェノムは痩せこけた頬骨を不服そうに歪めた。
「勘違いするなよ。これは取引だ」
「取引? 金でも払う約束があるのか」
ムキになって否定するヴェノム。
ヴェノムも人助けにトラウマがあるのだろうか。
DBは溜息まじりに答えた。
「彼には、とあるアークヴィランの情報を対価に来てもらった。とあるヴィランというのは、本来なら害のないヴィランだから観察目的で秘匿にしていた種だったのだけど……。セイレーンの生活と ソードの頼みとを天秤にかけて、情報を明け渡すことにしたわ」
DBが厭味ったらしく俺を見た。
なんだろう。この恩着せがましい感じ。
そしてDBが俺に厭らしさを露骨に示すと、シズクは眉間に皺を寄せ、D敵意を向けるのである。
昨日も同じ反応を見せた。
確かにDBは怪しさ無限大だが、敵視するほど危険でもないから安心してくれ。そういう性格なんだ。
「――それで、どっから手に付ければいい?」
ヴェノムが髑髏顔のヘルメットを被った。
同時に手元へ魔力を集中させる。
すると両手に小瓶が出現した。【焼夷繭】だ。
破壊の匠、ヴェノム。本気モード。
「そうねえ……」
一同、ざっと周囲を見渡してみた。
今では浅瀬のプールになってしまった峡谷。
「まずは水深が必要なんじゃないか?」
海といえば深さだ。
そう思って俺が第一声で提案してみた。
「お待ちください。ソードさん」
「ん?」
「作業効率を考えましょう。最初に底を深くしてしまうと、その他の作業がしづらくなります」
「そんなこと気にする必要あるか?」
シズクを除けば、三人とも人間兵器。
身体能力が高いから水深が深かろうが、壁に貼りついて土木工事するなんて余裕だ。
「や、そこのお嬢の言うことは一理ある」
「お嬢って……」
ヴェノムが感心してシズクを指差した。
そこにDBも同調した。
「そうね。作業効率は大事。私も【潮満つ珠】を一度使うだけで、ごっそり魔力が持っていかれる」
見積りを提示する水の匠、DB。
一堂に会した匠の作戦会議だ。
三人の匠は作業効率から検討し始めるのだった。
「まず全体のレイアウトを図示してみよう。本当に破壊が必要な所に【焼夷繭】を配置する」
「セイレーンの生態も建築図面に入れさせてね」
「よし。DBにはそれを任せる」
意見をすり合わせる破壊の匠と水の匠。
やる気満々である。
「私は建築様式のトレンドを資料にまとめます。
セイレーンさんも古い雰囲気と現代の雰囲気のどちらも楽しめる棲み処の方が喜ぶでしょう」
「お嬢。良いセンスだ。俺たちは洒落っ気に無頓着なところがあるからな」
そこに流行の匠、シズクも混ざった。
破壊の匠、水の匠、流行の匠。
匠の三連星。
セイレーンたちの新居はこの三人が奏でるハーモニーにより"温故知新"をテーマとしたユートピアとなることが予想された。
「……でも作業員が足りない。建材の切り出しはソードでいいが、それを嵌めたり組み合わせたりする手先が器用な奴が必要だ」
ヴェノムが俺に一瞥くれた。
DBも俺をちらっと見ると「確かに」と頷いた。
俺はただの運搬業者かい。
「俺だって細かい作業もでき――」
「そうね。お手伝いさんを集めましょう」
水の匠さん、まさかの無視?
「なるべく私たちの素性を知っていて、体力や能力も人外の存在に頼った方がトラブルも少ないわ」
「二号はすぐには来れないぜ」
「……うーん。そうね」
DBは悩ましげに目を瞑った。
とんとんと眉間を叩いて思考を巡らせる水の匠。
そこに、流行の匠が挙手した。
「宛てがあります。手先は器用……かもしれません」
「誰?」
「魔王プリプリさんです」
「……あいつを?」
ここでプリプリ界の匠を呼んでしまうのか。
匠の四天王による大改造。
果たしてどんなリフォームがされるのか。
アークヴィランから逃げ続け、今でも人間たちの迫害に耐え続ける可哀想なセイレーンたちの為に!
故郷から離れた陸の孤島の広大な敷地!
人間兵器な匠たちによる大改造が今、始まる!
……本当に大丈夫か?




