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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第1章「人間兵器、自由を願う」
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37話 大改造劇的デザートシーⅠ


 ゲーセンの地下迷宮。

 人形劇団の記憶を失ったパペット。

 いくつか気がかりを残しつつも王都から離脱した。

 一つ一つを追ってたらキリがないからな……。


 まずは着実にやるべきことをやる。

 セイレーンの新しい棲み処の用意だ。

 あと救出。



 アーセナル・マギアでDBを連れていく。

 俺は運転ができないからシズクに頼んだ。

 幸いにも天気が良い。


 元は東リッツバー平原の丘だった場所だ。

 砂漠化してばきばきに乾燥し、峡谷に成り変わった日差しと日陰のバランスが都合よかった。


 イカ・スイーパーがいた時より瘴気が晴れている。

 "海に変える"ということだが、陸の孤島がどう変化するか想像もつかない。

 例えば、狭い区画を水辺に変えたところで池や湖にしかならないだろう。



「――ここね」


 丘の上から峡谷の下を見下ろす。

 DBもシズクも身を乗り出していた。怖くないのか。

 前、ヴェノムが飛び降りてきた場所だ。


 こうして見ると良い立地である。

 一通り谷底を見通すことができた。


「いけるか?」

「大丈夫。【潮満つ珠(レビアタン)】は無条件で行使できる。それだけ魔力も使うけど」


 DBもセイレーン救出には協力的だった。

 元々アークヴィラン・データベースの構築も、不遇な精霊や魔族へ助け船を出す為のものだ。

 データベース本人であるDBも、そういう話なら、と気前よく足を運んでくれた。


「……」


 DBは意識を集中させた。

 そのときの横顔は、かつてのケアを思い出す。


 光の粒子が集まって青く輝き始めた。

 真っ昼間で辺りは晴れ渡っているのに、周囲が薄暗くなって、まるでホタルイカの輝きのような幻想的な風景に包み込まれた。


「綺麗です」


 シズクが無機質に呟いた。

 言葉に抑揚がないのは彼女の口癖のようだ。

 だが――。



 例えば、王都に向かった時。

 あの時はシズクの印象が少し違った。


 マモルと二人きりになることを嫌がり、それを露骨に俺へと訴えたのだ。

 驚いた時には父親と同じ口癖さえ見せた。

 シーリッツ海へ向かう時の、淡々と自身の境遇や関心について話すシズクより人間味があった気がする。


 今のシズクは……初めてシーリッツ海へ一緒に行ったときのシズクと同じ印象だ。



 推理するに、シズクは"二人"いる。

 マモルの証言からも間違いない。

 問題は、二人一役(ダブルキャスト)を演じている理由だ。


 マモルやヒンダ、ナブトですら騙されている。

 そこまでして俺に連れ添うお前は……?



「――組成解析。クリア。性状分析。クリア」


 俺がシズクに気を取られている間にも、DBは【潮満つ珠】の能力を行使していた。


 大規模な力は発動まで時間を要する。



 峡谷の砂利や岩が青い魔力を浴びて浮き上がった。

 空中でそれらが小刻みに振動した。


「再構築開始。――"海神(わだつみ)の力よ、ここに"!」


 DBが詠唱を遂げると、振動していた青く輝く砂利が一斉に弾け飛んだ。

 バシャリと樽の水をひっくり返した音が響く。



「おおおお」


 峡谷は一気に池のように姿を変えた。

 だが、所詮は"池"だ。


「おおお……?」


 検証の余地あり。

 俺たちは一旦、丘を降りて確認に向かった。



 峡谷の脇の入り口から狭い道を進んでいくと、すぐ水浸しになったエリアまでたどり着いた。


「これは……」


 俺はしゃがんで水を舐めてみた。

 しょっぱい。確かに海水だ。

 しかし――。



 ぱしゃぱしゃ。

 手を突っ込んでみると"海底"に手がついた。

 まるでただの水溜まりだ。


「DBさん?」

「……」


 DBは視線を逸らして、どこ吹く風だ。


「もう少し奥へ進めば、深い所もあるのでは?」

「なるほど。ここは"浅瀬"か」

「もしかしたら」


 シズクのアドバイスを受けて奥へ進む。

 水溜まりの上をひたすら歩き、ついには峡谷の真ん中、大きな空洞のスペースまでたどり着いた。

 どこまでも浅瀬が続いていた。


「なるほど、な……?」

「これはまた遠浅ですね」

「セイレーンが暮らせると思うか?」

「あの脚の鰭では不自由でしょう……」


 なんということでしょう。

 いつでもどこでも日光浴もとい日陰浴が楽しめる素敵なスポットを匠に提供いただきました。


「DB!」

「ふぅ。魔力が底を尽きたわ……」


 DBは顔色が悪くさせて額を拭った。

 まさかの予算(まりょく)切れ!?


「こんなリフォームで明け渡したら訴訟されるぞ」

「データベースの私を訴訟されてもね」

「無責任だな!?」


 不遇な現代精霊や魔族を守る大儀はどこ行った。

 DBは気怠そうに浅い海をぐるりと見渡した。


「……まぁ、落ち着きなさい」

「本当に具合悪そうだな」

「魔力が枯渇したんだもの。久しぶりに」


 出不精のDBはもう現役(ケア)には戻れない気がする。


「セイレーンの生態に詳しい私が思うに、まだまだ広さも水深も足りない。それと風通しも悪いわ。彼女たちは屋内より野外ライブを好むから」


 確かに、大海原で魔性の歌を披露していたセイレーンにとって、反響の激しい峡谷で歌うのは気持ちよくないかもしれない。


「しばらく時間をちょうだい」

「お、やる気だな」

「他でもないあなたの頼みだから。ふふふ」


 DBのウィットに富んだ返事に、シズクは厭そうな表情を浮かべた。


「あとヴェノムも呼ぶ。改築には彼の力が必要よ」


 爆弾魔を連れてきて改築って、派手に吹っ飛ばそうという気満々じゃねーか……。



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