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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第1章「人間兵器、自由を願う」
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31話 脱出先に裸美女


 水面のように揺れる壁に手を伸ばしてみた。

 手がするりと通過した。


「おおお」


 本当に【潜水】の力で潜れるようになったらしい。

 これはクシャーケーンに感謝。


 そのまま俺は壁の中へ全身から【潜水】した。

 内部は、水の中で体を浮かすような感覚だ。

 手で内部を掻けば上にも進める。


 視界は真っ暗。まるで黒い水の中にいるみたいだ。

 とりあえず、ここは地下通路だったはずだから、上を目指せば地上に出られるだろう。


 俺は上を目指して泳いだ。

 しばらくすると視界が明るくなった。地上が近い。

 顔を出すと、一気に視界がクリアになった。

 眩しい――。



「……」


 驚いたことに目の前には裸の美女がいる。

 鏡の前にいて、パンツを履こうとしていて、今まさに着替え中だったようである。


「……」


 浮上した場所が、この女の部屋だったらしい。

 しかも目があった。


 俺は床下から首だけを突き出した状態だ。

 そんな風に突然部屋に乱入してきた男と目が合ったら、しかも全裸で無防備な姿だったら、女の取る行動は一つだ。


「きゃああああああ!」


 予想通り悲鳴が上がった。

 なんだこの唐突なラッキースケべ。


「悪かった! 覗くつもりはなかった!」

「きゃああああああ!」


 俺は慌てて【潜水】でまた床下に潜り込み、目算でおそらくその女の部屋からちょうど外に出たあたりと思われる場所で地上へ飛び出した。


 今度はちゃんと"外"に出ることができた。

 だが、覗き行為を犯してしまった手前、ここからすぐに離れたいところである。


 とりあえず地中から抜け出した。

 そのまま背後を確認しつつ足早に距離を取る。

 美女が着替えていた建物は、一軒家というよりも少し大きい建物だ。もしかしたら服屋か衣装の着替えが必要な施設だったか?


 よりにもよって運が悪い……。

 地下迷宮のこともそうだが、ハイランダー王都に来てからというもの、災難ばかりだ。


「くっそ……」


 とにかく、さっきのゲームの店まで戻ろう。

 店長、一発ぶん殴ってやる。


 最初から賞金の話は嘘だったわけだ。


 ……にしても、あんな地下迷宮が何故あんな場所に広がっていたのだろうか。裸美女がいた建物の地下まで広がっていた事も考えると王都の地下を広範囲に埋め尽くしている可能性もある。


 俺はたまたま【潜水】で脱出できたからいい。

 だが、一般市民が迷い込んだら大変だ。


 王都は一体どうなってんだ。



「あれー!? キミ、こんな所に来てたのか!」

「ん?」


 その溌剌な声はヒンダだ。


「ヒンダ。そっちこそ迷子になるなよ」

「迷子はキミでしょうが! シズクもマモルも、今手分けしてソードを探してるんだよ」

「え? 本当か」


 逆に、それはシズクとマモルが迷子になるのでは?

 ヒンダは露骨に怒った顔を向けた。


「あ、待ち合わせ場所は決めてあるから心配無用だからね。キミみたいな間抜けな事しないから」

「そうか……」


 悔しいが、ここは俺の負けだ。


「すまん。俺がゲームの店に釣られたばかりに……」

「ゲーム? プリプリと同類じゃねーかよ」

「それは誤解だ」


 プリマローズと同類は勘弁してほしい。


「腕相撲で対決できるっていうゲームがあったんだ。ゴーレム君とかいう機械の模型と。賞金もあるって言われてな」

「あぁ"ゲーセン"か。どっちにしろ馬鹿だよ」

「ゲーセン?」

「ゲームセンター。ワンプレイごとに金払わなきゃいけないから金がかかるんだ。あそこはよっぽどゲーム好きじゃなけりゃ行かない方がいいねぇ」


 そうなのか?

 賞金があると聞いて挑んだが、プレイ料金は求められなかった。


「金なんて払わなかったけどな?」

「そんなウマい話はないでしょ」

「いや、本当に」


 あの鉄腕ゴーレム君は何だったんだろう。


「都会は金がすべてだよ。無料とか抽選とかいう誘惑には必ず裏があると思っとくんだね」

「そうなのか……」


 俺はまんまと誘惑に駆られてハメられたのだ。

 今後は気をつけよう……。

 ヒンダと話すうちに冷静になり、ゲーセンへ殴り込みに行こうという気持ちは冷めてしまった。


 シズクとマモルも俺を探してくれている。

 これ以上に迷惑かけたら、さすがに立つ瀬ない。

 何ならゲーセンの件は帰り際でいいし。


 本来の目的はアークヴィラン・データベースだ。



「悪かったな。さぁ二人と合流しようぜ」

「あ、いや……」

「なんかあるのか?」


 ヒンダが歯切れ悪く返事した。

 不審に思ってヒンダの近くまで行くと、もじもじしながら背後の建物――さっき裸美女と遭遇した場所をチラチラと見ていた。


「実は……グレイス座の劇場を見学したくて……」

「"グレイス座"ってヒンダの憧れの人形劇団の?」

「そうともさっ」


 ヒンダは俺を探しに来たわけじゃなく、自分の見たいものを優先しただけらしい。

 俺と一緒じゃねえか。


「ソードを探すついでに寄りたくてね。劇場には何度も来たことあるけど、今回もせっかくだから……」


 その劇場は俺が覗き行為をしてしまった場所だ。

 着替えていた美女は劇団員か。


「待ち合わせまで時間もあるから……。頼むっ! 行かせてくれ。それかソードも一緒に来てくれよ」

「普通に行きたくねえ」


 グレイス座の劇場を見やる。

 俺が行ってさっきの女に遭遇し、「この人、覗きです!」と取り挙げられたら逮捕されて人生終了だ。

 まだこれからという俺の物語(たび)も終わる。

 そんなのは嫌だ。


「どうするんだ?」

「遠慮しとく。……ていうか、それならヒンダは劇場で遊んでていいぞ。アークヴィラン・データベースは三人で行ってくるから」


 ヒンダが王都に来たのも劇場目当てだ。

 目的地までの案内はシズクに頼めば事足りる。

 アークヴィラン・データベースについて提案してきたのも、シズクが最初だった。


「いいのかい?」

「あぁ。俺もゲーセンで遊んじまったからな」

「男前だな、ソード!」


 ヒンダは俺の背をバシバシと叩いた。

 待ち合わせ場所とそこまでの道を教えてもらってから、満面の笑みで劇場へ駆け込むヒンダを見送った。

 用件が済んだら迎えに来よう。



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[良い点] まだ途中だけど感想を書かなくては、 これ(この小説)はプロの仕業だ!
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