表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第1章「人間兵器、自由を願う」
30/249

30話 アークヴィラン88号


 違う。俺がみんなと逸れたんじゃない。

 みんなが俺と逸れたんだ。

 そういうことにしておこう。


 まったく困った奴らだ。

 後で迷子3人を探しに行かないとな。


「お客様、どうされましたか?」

「……」

「こちらですよ?」


 俺が振り返るのを見て、店員も足を止めていた。


 せっかくの賞金だ。

 ここで引き返したら何のために【狂戦士】を使ってまでゴーレム君に勝利したかわからない。


 ちょっと賞金とゲームソフトを貰って元の道路を進めば、すぐ追いつくだろう。ただでさえヒンダは奇抜な格好をしている。シズクも高貴で清廉とした衣装だし、見つけやすいはずだ。


 大丈夫……だろう。



「なんでもない」

「では、こちらへどうぞ」


 地下へと進む。充満する鉄錆の匂い。

 赤いランプがついた怪しい通路へ様子は様変わりしていった。

 間違っても、お祝いの雰囲気ではない。


「おい。こんな所で祝福されても嬉しくないぞ」

「……」


 店員はスタスタと歩いていく。

 なんか異様に歩くの早くないか?

 地下通路が入り組んでいて、曲がり角で見失いそうになる。


「おい。ちょっと待て」


 まるで早歩きで俺から逃げるような動きだ。

 店員はついには次の曲がり角で俊敏な動きで逃げ去り、とうとう俺は見失ってしまった。


「…………」


 ハメられた。

 よくわからない地下通路に誘われて逃げられた。

 やっぱり賞金なんて渡す気なかったのか。


「クソっ」


 俺は苛々しながらも、さっきのゲームの店に文句をつけにいこうと思い、引き返すことにした。



 引き返そうと踵を返した瞬間――。



 ドン。なぜか壁にぶつかった。


「いって。……はぁ?」


 真後ろに壁が出来ていた。

 通り過ぎるまで普通の通路だったのに。


 その壁の窪みに台座があり、何か置かれていた。

 薄い箱とメモ紙みたいなものだ。



『お客さんナメてました。

 さーせん。これで勘弁っす。

 お金ないっす。


   ファンタジープラザ王都店 店長』



「……」


 は?



 は? なにこれ?

 ナメてるな、これ!!


 薄い箱の表紙は『パンテオン・リベンジェス・オンライン』と書かれている。

 中身を見てみる。

 円盤と『特殊アイテムコード』が書かれていた。

 ゲームかよ! 要らねえよ! 金くれよ!


 とりあえず帰ったらプリマローズに渡そう。

 まずはここから脱出だ。


 冷静に周囲の状況を観察してみる。

 赤いランプがゆっくり点滅している。

 狭い通路。天井には太い排水管や細い給水管が張り巡らされ、圧迫感のある陰鬱とした通路だった。

 湿気があり、噎せ返るような空気感。


「この状況は……」


 歴戦の勇者である俺にはわかる。

 この地下通路は"迷宮"だ。

 しかも構造が変化するタイプの脱出難度の高い迷宮。

 魔王激戦時代の当時、別大陸にもこんな迷宮があって、そこに眠る秘宝を求めて七人の勇者で潜入を試みたことがある。


「検証の余地ありだな」


 試しに地下通路を進んでみた。

 すると、俺から死角となった場所は急速に構造を変え、目を離した隙にまったく違う景色へと変わった。


 壁が通路に。

 曲がり角は壁に。

 直進の通路が曲り道に。


「なるほど」


 この実体のない"生きた迷宮"にかつて挑戦した時、当時の勇者七人は簡単に攻略してみせた。


 と言っても力技だったが。

 攻略当初、頭脳担当の魔術師メイガスに助言を求めたが、プレッシャーと閉鎖空間に弱いメイガスはパニックに陥り、結局、ヴェノムの【焼夷繭】と【王の水】で通路を破壊して踏破した。


 懐かしい。

 人間に利用された事を除けば、楽しい事もあった。

 メイガスとヴェノムと馬鹿やるのは特に。

 それが今ではメイガスは死んだという話だし、ヴェノムは久しぶりに会っても素っ気なかった。



「あ、そうか」


 迷宮攻略のことを思い出して閃いた。

 ヴェノムは爆薬で迷宮を破壊して道を切り開いたが、今の俺にも道を切り開く能力が一つある。


 【潜水】だ。

 クシャーケーンを倒して手に入れた能力。



 "――【潜水】という能力を使い、海だけでなく浜や地面、鋼鉄の大地ですら潜伏できるので、どこまでも泳いでいきます"


 セイレーンのエレノアが教えてくれた。

 潜水を使えば鋼鉄の大地ですら潜伏できる。

 つまり、この壁も潜水ですり抜けられるのでは?


 試しに新しい力を使ってみよう。

 【抜刃】や【狂戦士】のように使い慣れていないから感覚を掴まなければならない。


 眼前の壁に意識を集中した。

 すると、壁の表面が水面のように波打ち始めた。

 微量だが、全身から魔力が消耗されていく。


 今ならその壁に潜れる(・・・)気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ