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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第1章「人間兵器、自由を願う」
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3話 精霊の森、彷徨う鎧Ⅱ


「早く行きますよ」

「ま、待ってよ~」


 森を歩いていると、遠くから声が聞こえてきた。

 無邪気な子ども二人の声だった。

 俺は気にせず、ひたすら東に向かって歩いていたのだが、偶然、そいつらが進行方向に立ちはだかった。


「ひっ!? 誰!?」


 最初に悲鳴を上げたのは少年の方。

 身長が低く、童顔のため、だいぶ若く見える。

 俺の【狂戦士】モードにびびっている。


「シュコー……シュコー……」

「怖っ! え、怖っ!? 精霊様……の祟り?」

「落ち着いて、マモルさん。精霊なら害はない」

「シュコー……シュコー……」

「シズクちゃん、でもこの精霊様、シュコシュコ言ってるよ!?」

「言霊かもしれない」

「そうか。お爺ちゃんの言う通り、ちゃんと耳を傾ければ、意味がわかるかもしれないね」


 少年の名はマモル。少女の名はシズクか。

 マモルはナヨナヨして頼りなさそうだが、シズクという女は物静かで肝が据わっている。

 ワンピース姿で、つばの広い帽子を着用しているが、裕福な家の子なのだろうか。


 マモルはそんなシズクの前で見栄を張りたいのか、勇気を振り絞って俺に近づくと、恐る恐る耳を傾け、鎧の排気音を聞き取り始めた。

 それただの排気音な。


「精霊じゃねーよ」

「聞こえた!? 聞こえたよ、シズクちゃん!」

「いや普通に喋っただけだが。シュコー……」

「聞こえる! 僕にも精霊様の声が聞こえる!」

「……シュコー……」


 以前の俺なら一般市民は絶対殴らなかった。

 だが、今の俺は何の縛りもない。


「精霊様、僕は好きな子を守る力が欲しいです! 僕の声を聞いてださるなら願いを叶えてください!」

「やかましい!」

「あっでぇー」


 軽くゲンコツを食らわせてやった。

 見栄で力を求める輩にロクな奴はいない。


「うぇーん! 精霊様が怒った!」

「精霊じゃねえ。次に精霊って呼んだらぶっ殺す」

「ひっ……まさかアークヴィラン!? ぎょええ」

「それも違う」



 アークヴィランってなんだ……?


 マモルとは会話にならない。

 相手するのも馬鹿らしいので再び歩き始めた。

 この二人に付き合ってる場合じゃない。

 シールを起こしにいかなければ。


「お待ちください。騎士様」

「シュコー?」


 先行く俺を呼び止めたのはシズクだった。

 騎士様。無難な呼び名だ。


「かなりの猛者とお見受けします」

「だったらなんだ。シュコー……。関係ねえだろ」

「あっ……お待ちください」


 面倒くさいのでスルー。

 シズクはめげずに俺を追ってくる。


「実は私たち、勇者様の祠へ向かってます」

「シュコー……何故だ?」

「村が困っていて、助けてほしいのです」


 シズクは早歩きの俺に必死についてきた。

 早歩きしながら喋るものだから息が上がってる。


「残念だな。勇者の祠なんて架空の話だ」


 精霊の森の祠は、勇者とは名ばかりの人間兵器一号の封印の地。

 祀られていたのはそう、この俺。

 二人には悪いが、祠はもぬけの殻だった。


「勇者は居ない。わかったら大人しく帰りな」

「では、あなたにっ、お願いですっ」

「はぁ?」


 思わず立ち止まって振り向いた。


「わべしっ」


 突然止まった俺の背中にシズクがぶつかった。

 意外とドジだな。

 シズクは落ちた帽子を拾い、つばを直して被り直していた。


「ふぅ……鋼鉄の鎧ですか」

「お前は馬鹿か? 見ず知らずの他人に頼るな。どんな見返りを求められるかわかったもんじゃねえ。俺もよく見ろ。どこからどう見ても怪しいだろう?」

「怪しい人は自分から怪しいと言いません」

「どうかな。騙し合いにはブラフは付き物だ。忠告するフリかも」

「あなたはどこか善性に満ちたオーラを感じます」


 なんだそりゃ。

 七人の勇者の中でも最上級に闇堕ちしてるっての。

 実際、人類を裏切ったワケだし。


「どっちにしろ俺は先を急ぐ。他を当たりな」

「そこをなんとかっ」

「しつこいな。村なんてこれまでの人類史でどれだけ滅びたと思ってやがる。テメェらが生き残ってるだけでも、ありがたいと思え!」

「うぅ……」


 シズクが泣きそうな顔をした。

 面倒くさいの極み。


「チッ、知るもんか。俺はやっと自由なんだ」


 後ろ髪引かれる思いだが、振り切って俺は前に進み始めた。


 何が"善性に満ちたオーラを感じる"だよ。

 そのせいで俺はもう八回も人生を無駄にした。

 今回くらい好きに生きてやる。


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[一言] 思ってたのと違うクズだったw
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