29話 Go! Go! 鉄腕ゴーレム
ゴーレム君の腕は微動だにしなかった。
……すごい力だ。
赤く目を光らせているゴーレム君。
ただの鉄くずかと思ったが、実際のところは一流の人形師が作り上げた戦闘兵器の類だな、これ。
「おーーっと、お客さん!? 凄いですね」
「なにがだ!?」
「これだけ長時間ゴーレム君と張り合える方は久しぶりです」
やっぱり、ただのお遊びじゃねえな。
今の発言がネタばらしのようなものだ。
俺は魔力を腕に込めて反撃に出た。
バチバチと周囲へ魔力が放散された。
「うるぁ!」
少し相手の腕が傾いた。
このまま魔力を使って押し込めば勝てる。
だが、一筋縄じゃいかないのは予想がついた。
ゴーレム君は押し込められそうになった腕を寸での所で止めた。
再び筐体に魔力が駆け巡り、キラリと眼が光る。
「ゴ……デ……ノ……ダ……ンダ」
ゴーレム君が掠れた声を上げる。
整備不十分じゃないか? 機種は古いのか?
声とともに凄まじい力がかかった。
ゴーレム君も目に見えて魔力が全身に滾っている。
徐々に、俺の腕が押し返されていった。
ついに関節が逆に曲がるまで押し返された。
負け寸前だ。
「本気出してきやがったか……っ」
でも、俺が負けると思うか?
こう見えても勇者だぞ。
幾多の戦場を経験した。
他の勇者と違って近接戦闘が強みだった。
すなわち、単純な力比べでは七人の勇者でも最強のパワーを誇るのが俺だ。
――ここからが、本当の本当に本領発揮。
俺は【狂戦士】の篭手を片腕に呼び出した。
右腕に黒い魔力が纏わり、鋼鉄の篭手が出現する。
篭手の効果でゴーレム君からかけられる力が相殺され、俺の腕は微動だにしなくなった。
「ン……ド……!」
「どうだ? これが人間兵器の力だ」
「ン……ド……! ン……ド……」
ゴーレムは壊れた機械のような声を繰り返す。
このまま一気に力を加えれば――。
「俺をただの人間だと見くびったお前の負けだぁ!」
「ゴ……ゴレ……バ……」
「ああああああ!」
力を込め、ゴーレム君の腕を押し込みにかかる。
ゴーレム君の腕はついに俺との競り合いに耐えきれなくなり、腕ごともぎ取れて壊れた。
「ピ――ガ……ガガ……ア……ア」
バチバチと紫電を散らしてゴーレム君は壊れた。
もぎ取った腕をテーブルに投げ捨てる。
「ほらな? 俺の勝ちだ」
「ま、まさかそんなことが……」
店員はだいぶ驚いているようだ。
「さぁ賞金をよこせ」
ゲームソフトはどうでもいい。それより賞金だ。
これで今後の行動に自由さが増すだろう。
店員は引きつった顔を浮かべている。
勝てる奴はいないと高を括っていたか?
「わ、わかりました。ただ賞金の額が額だけに、支払いは口座振込みになります。お客様の振込み口座を教えていただけますか?」
「口座……」
しまった。
俺が活躍していた当時も銀行はあったが、人間兵器が個人資産を持ってるはずもなく、銀行口座なんて作ったことすらない。
そもそも口座を作っていたとしても記憶がない。
「小切手とかないのか?」
「ございません。――あ、少々お待ちください」
店員が人差し指を立てて会話を止めた。
片耳に差し込まれた耳栓に集中している。
線が繋がれているから無線の連絡が入ったようだ。
「はい。大丈夫です。え? あぁ、そうですね」
店員は誰かと会話して相槌を打っていた。
しばらく会話しながら俺をチラチラと見てくる。
……なんか怪しい。
「わかりました。――お客様、どうやら小切手の準備が整ったようですので、地下まで来ていただいてもよろしいですか?」
「地下? なんでだ?」
「小切手とゲームソフトを贈呈します」
「いや、ここでいいだろ」
「いえいえ。『パンテオン・リベンジェス・オンライン』の特注装備の贈呈ですよ! スタッフ一同で祝福させてください」
なんか胡散臭え。
持ち前の洞察力で何かおかしい事は見抜いていた。
しかし、鉄腕ゴーレムの腕をへし折った俺に対し、こんな非力な人間が罠をかけるとも思えない。
「まぁいいか。さっさとしろよ」
店員の後に続いて地下への階段を下りた。
……ん?
何か大事なことを忘れてる気がする。
というか、なんでこんな事してるんだ?
俺が王都に来たのは――。
冷静になって思い出した。
アークヴィラン・データベースだ。
ああ、みんなと逸れた!




