27話 都入り
プリマローズは結局、王都行きを頑なに拒んだ。
というわけで俺とシズク、マモル、他に人形劇団に興味があるというヒンダも一緒だ。
いつものメンバーである。
ナブトはラクトールの宮司の仕事で離れられない。
保護者は俺一人だった。
王都まではマギアを使う距離じゃない。
徒歩で行くことにした。
都入り当日。空には、ぶ厚い雲がかかっている。
まるで暗雲のようで不穏な気配だった。
……にしても、マモルはしばらくシズクと離れていたわりに、その話を尋ねてこない。
人間兵器である俺が、人の気持ちなど理解できるはずないが、普通は好きな女の子がしばらく留守にしていたら、動向が気になるものじゃなかろうか。
しかも野郎も一緒だったら特に――。
俺の認識では思春期男子とはそういうものだ。
マモルの性格だったら猶更じゃないか?
「……? 僕の顔、何か付いてる?」
「いや」
あまりにじっと見すぎて、マモルに気づかれた。
こっちから訊くのもなんか変だ。
だが、この違和感……わりと重要な問題なんじゃないかと俺の直感が告げている。
別に人間の色恋沙汰に興味なんかない。
それとは別に、俺がこの村人らと付き合ってから感じる不可解さを紐解く重要なピースな気がした。
「俺が出かけている間、マモルは何していた?」
「何って……いつも通り学校行ってたよ」
「でもマモルにとって、いつも通りじゃないことがあっただろう。ほらいつも一緒にいる――」
俺はシズクに目配せした。
シズクは涼しい顔で少し後方を歩いている。
シズク本人はマモルをあまりよく思ってないから、マモルの感情を煽るような真似は顰蹙を買いそうだ。
この辺が限界かな。
だが、マモルは首を傾げるばかりだった。
「いつも通りだったよ」
「そうか……」
マモルがシズクに付きまとうのは恋愛感情のそれとは別なのか?
でもそれじゃあ辻褄が合わない。
「そういえば」
マモルは思い出したように手を叩いた。
「やっぱり何かあったか」
「僕じゃなくてシズクちゃんが変だったかな」
「うん……?」
シズクの様子が、変?
それは本人がその場にいないとわからない事だ。
シズクは俺と一緒にいたはずだが。
「それって、どういう意味だ?」
「学校でイカ・スイーパーの話になったんだ。僕らの学校じゃアークヴィランは話題に尽きないからね。みんな都市伝説とか好きだし」
「ほう。それで?」
「イカ・スイーパーをソードさんが倒した時、その場にいた僕やシズクちゃん、ヒンダが学校で注目を集めたんだよ。でもシズクちゃんだけ全然ピンと来てなかったんだ」
……?
シズクが学校にいた?
港町でセイレーンの問題に直面してる時に?
アーセナル・マギアでどれだけ早く砂漠を横断しても、そんな二重生活は物理的に無理だ。
そもそも俺と別行動を取ったタイミングはない。
「それがどうかしたの?」
「なんでもない。もう大丈夫だ」
俺は後方を歩くシズクを今一度眺めた。
お前は一体、何者だ……?
王都に辿り着き、正門を超えた。
基本的に街までなら誰でも通行できた。
忙しなく道を行き交う雑踏に呑まれそうになる。
「ごちゃごちゃしてて全体像がわかりにくい街だな」
「国一番の都会だからねぇ。それにしてもソードって風貌のわりに田舎もんなのかい?」
ヒンダに嫌味を言われた。
この生意気さは慣れると気にならないが、たまにイラっとくる。
怒りをぐっと堪えて答える。
「人混みは苦手でな。ヒンダは詳しいか?」
「そりゃ当然ね。都のことはあたしに任せといてよ」
「それならアークヴィランのデータベースがあるっていう神殿まで案内してくれないか?」
「おっしゃ。あたしがすぐ連れてってやる」
この手の性格は扱いやすくて助かる。




