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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第3章「人間兵器、本質を探る」
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233話 陽動班/見せしめの乗り換え


 ケアからのボイスメッセージを聞いた直後、ソードは即行で【擬・飛翔鎧(デルタ・プロテクト)】の迎撃に向かっていた。


 当てもなく森をさまよい、魔王(当たり)を引くまで魔族を倒し尽くすのは退屈で仕方ない。それならいっそのこと、斬りがいのある相手を優先的に斬った方が楽しいに決まっている。


 魔王城の南側の森から、東側の森までひとっ飛びで着いた。


 跳躍で吹き飛ばした木々は、やはりガラスを粉々に砕いたようなバリバリガシャガシャという不快な音が鳴って違和感がある。


 湖を囲う東側の森は、なだらかな斜面となっていてソードはその中腹に降り立った。

 見上げると、空から落ちてくるプレイヤーと、それを待ち構えるように旋回する黒い戦闘機が視認できた。


 あの戦闘機の装甲は、三号の【護りの盾】と同じ形質をしている。


「シール、カ」


 ソードは惜しげもなく【抜刃】で剣を宙に生成し、それに手を添えながら力を込めた。

 盾の勇者は、初めに葬るにはやや惜しい存在ではある。戦闘のパートナーとして、ソードもその戦闘力を認める相手だ。


 コース料理で言えば、メインディッシュの肉にはならずとも、その前の魚主菜(ポワソン)には並ぶ実力がある。

 それを真っ先に墜としてしまうことは、戦闘狂のソードとしては、順番が違うだろうと自己評価を下すかもしれない相手だ。


 だが今は兎角、敵を倒した感触が欲しい――。



「シゥーーー…………ウゥウウウゥゥウウ!」


 獣のような唸り声をあげ、ソードの肉体には【狂戦士】の黒鎧がまとわりついた。

 宙に浮かぶ剣が肥大し、大剣に変化していく。

 そして、特大の迎撃ミサイルのようになったそれは、ソードの投擲スイングによって、その場から紫電を散らして撃ち放たれる。

 躊躇はない。


「ガァァアアアアアア!」


 意志を持った鷲のように、巨大な黒剣は空を駆け抜けて【擬・飛翔鎧】を追尾した。

 デルタ・プロテクトは逃げるような動きを見せたが、撃ち放たれた黒剣の速度には劣り、すぐさま後尾に追いついて、その胴体を真っ二つに引き裂いた。


 ――ギャアアアアアア。


 断末魔の声が届く。


 だが、二つに切り裂かれた飛翔鎧から姿を見せたのは、見慣れた盾の勇者ではなかった。

 中から現れたのは、ただの魔族(モブ)だ。


「あァ……?」


 ソードは怪訝な表情を浮かべながら、その後の経過を観察した。


 真っ二つに分かれた【擬・飛翔鎧】は、片翼が武骨な鉄球のように硬質化して一つの物体に成り代わる。

 もう一方の片翼は、その翼単体が鳥のように両翼の生き物に変化して「ギャアギャア」と鳴きながら空へと飛び立っていく――。


 今の今まで一つの魔素だったはずの【擬・飛翔鎧】がソードの切断によって、二つの魔素に分かれたのだ。

 それぞれの魔素には、また宿主の魔族がリスポーンするようにどろりと浮かび上がった。


「あリゃあ【護りの盾(プロテクション)】と【翼竜(トウテツ)】じゃねェカ……!」



 見知った魔素の宿主が、変わっている(・・・・・・)

 シールの象徴たる魔素【護りの盾】が移植された、ということだ。

 しかも、あんなモブに……!


 それはソードの固定観念をつく騙し討ち。

 【擬・飛翔鎧】の乗り手がシールだろうと思わせ、地上に蠢く有象無象の雑魚を、その能力の宿主に据え置いたのだ。


「チッ……。ってぇこトは……!」


 ソードは瞬時に判断した。

 能力の移植が可能なら、魔王の軍門に下った人間兵器四体は、それぞれの能力をシャッフルさせている可能性がある。


 つまり、今まで相手にしてきた人間兵器の戦術は、まったく別物へと変化しているかもしれないということだ。

 そう気づいた直後、またしてもドドンという爆発音が響いた。


「……!」


 ソードが爆発地点を見やる。

 空から降下を狙うプレイヤーの一人だった。


 それを迎撃したのは――。



「あいつ……!」



 ソードは人間離れした視力で視認する。

 プレイヤーを迎撃したのは、それもまた降下中のプレイヤーだった。


 ――否、プレイヤーのような誰かだった。


 最初から空路からの降下を狙うプレイヤーを撃ち落としていたのは、【擬・飛翔鎧】ではなかったようだ。


 プレイヤーに擬態(・・)した人間兵器。



「こっちは、空中の立ち回りは初めてじゃないからね」



 バチバチと紫電を散らして、それが術を解く。

 一般プレイヤーのような装備をしていた降下中のそれは、魔素【蜃気楼(エクステリア)】を解いて正体を晒した。


 現れたのは、弓矢を番える人間兵器――。


 だが、ソードの知る『赤の弓兵』ではない。

 言うなれば『青の弓兵』。

 弓術の能力を移植された盾の勇者だった。


 ソードは一目で理解した。

 今のシールは、弓兵(アーチャー)だ。

 盾の勇者が盾ではなく、弓矢を使っている。その異様な光景を、ソードは一瞬の戸惑いはあれど早々に理解して剣を構え直した。



 【蜃気楼(エクステリア)】を解いたシールは弓矢を番え、そこからほど近い地点で降下しているプレイヤーを見定める――。


 そして放ったのは【桜吹雪(ショットシェル)】。

 散弾の矢が広範囲に射出され、一気にプレイヤー三体をキルし、街の広場へ強制送還させた。


 シールはめぼしい標的がいなくなると、飛んでいた【翼竜(トウテツ)】を宿すモブを呼び寄せ、その足に掴まって空を翔けた。


 滑空して【護りの盾】を宿すモブの手を掴むと、シールはそれぞれが宿した魔素を自分という触媒を介して再び【擬・飛翔鎧】に融合させる。


 戦闘機を纏ったシールは、無惨にも一匹のモブを地上へと放り捨て、もう一体のモブには【蜃気楼】を移植した。

 あの魔族も所詮はプログラムだ。

 使い捨ての道具のようにシールは魔族を扱っていた。


 それこそが魔王軍の強さ。

 無数の魔族は仲間でも友達でもない。

 未来を賭けた戦いにおける道具。人間兵器にとって、同じ兵器の一つでしかなりえない。


 シールから【蜃気楼】を移植されたモブは、シールの【擬・飛翔鎧】をコピーして擬態すると、別方向へととてつもない速度で飛んでいく。

 よく注意して見ないと、それらばらばらに飛び交う戦闘機は、どっちがシールの【擬・飛翔鎧】かわからなくなるほど、瓜二つだ。


「……ッ」


 ソードは【抜刃】を準備していたが、よく観察し、十分に吟味してから深追いを止めた。


 シールが正体を見せたのは、わざとだろう。

 ある意味、警告でもある。

 人間兵器や魔族で、魔素の乗り換えが可能だと示したのは、シールがどの能力を持っているか未知であることをアピールしている。


 シールが魔素を集中して保持しているとは考えにくいが、ソードと相性の悪い魔素を有している可能性だってある。

 魔王探しが目的のソードには、シールと何が何でも戦わなければならない理由がない。


「能力が次かラ次へ別のヤツに……?」


 それは厄介な作戦だった。

 今まで人間兵器のアイデンティティは、ほぼその能力によって付与されていたと言っても過言ではない。

 ソードがソードであるのは、剣を作る能力を持っているからでもあった。


 今のシールの振る舞いを見ると、アーチェが暗殺者になってトラップをしかてくる可能性もあるし、メイガスが肉弾戦をしかけて来る可能性もあるということ。

 そんな能力のすげ替えを、あの魔王の息子が可能にしたのだ。アイデンティティを捨ててもなお挑まんとする使い捨ての駒のような戦略――。


「魔王らしイやり方じゃねぇカ。えぇ?」


 剣柄を握り直し、ソードは物言いたげな顔で彼方の空へ翔けていったシールを目で追う。


 自分は剣を究めて生きてきた。

 剣を究めた理由を探しているソードという男にとって、それを捨てることは決してないだろう。

 それは孤高の戦士としての己の誇りだ。


「俺が斃す。誇りにかけて――」


 ヤツは仲間を懐柔し、その誇りすら蹂躙した。

 嫌いなタイプだと感じていたが、その憎悪感情はさらに湧いてくる。

 意地でもソードが斃さなければならない。

 ここで勇者と魔王の戦いに終止符を打つ。


「グ……グウウウウ……。ガァアアアア!」


 ソードはそう決意を固め、また別の戦いの匂いが立ち込める戦場に向かい、跳び上がった。

 その肉体の表層には、アークヴィランの瘴気も濃度を増して立ち込めている。


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