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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第3章「人間兵器、本質を探る」
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198話 孤立無援の生命線


 リリスは身を挺してソードに訴える。


「ソードさんっ、もう魔王は倒したわよね!? もう終わりじゃない!? この人までやっつける意味あるの!?」

「……?」


 ソードはぴたりと剣を止め、不思議そうにリリスを見ていた。


「この人、プレイヤーの一人だよっ」

「……プレイヤー……?」

「う、うんうんっ! なんでこのフィールドでPK(プレイヤーキル)可能なのか、あたしも知らないけどもさぁ! これ以上何かするとマナー違反でBANされちゃうかもだわっ」


 リリスはリンピアを庇うようにしながら、必死にゲームマナーを訴えている。


 ソードのBANを危惧するパーティー仲間のような物言いだが、その切羽詰まった雰囲気からは何が起きているのかすべて理解した上で、ソードの暴虐を止める理由を見繕った感じだった。


「なに言ってルかわかラねェんだが……」

「だ、だからさぁ……これ以上戦うのはゲームの域を超えてるってことだわよ。ほら、魔王も倒したんだし、もうファンファーレ鳴らす流れでよくない……?」


 ソードはじーっとリリスを見ていた。

 突然現れて意味不明なことを話すサキュバス。

 今のソード(あいつ)には奇妙な光景に見えただろう。それをリリスが狙ったのだとしたら、だいぶ優秀な立ち回りだ。

 当のリリスは冷や汗をダラダラ垂らしてるが。

 リリスがうまく時間を稼いでくれているうちに俺が――。



「そウか。とコロで」

「う、うん……?」

「サキュバス如きに言わレる筋合いはネェ」

「――!」


 ソードはそう言うと、剣を振り下ろす。

 リンピアの首にではなく、リリスの方に向かって――。


 その剣捌きは神速。

 振り下ろしたと認識した直後にはリリスは真っ二つにされる。俺はそう感じた直後、直感で体が勝手に動いていた。

 あれは、俺自身だ。

 瘴気付けの憑依(ヨリマシ)になったとしても、その動作を見れば次に何をしようとしているのか先読みできる。どれだけ変貌しても、手癖や仕草は変わらない。

 俺だったらどうやって始末するか。

 ただそう考えるだけでソードの動きが読めた。


 虫けら程度の力しかない俺は、幸いにもリリスがソードを止めている間、既にリンピアに接近していて、それを気づかれることもなかった。

 だからリリスにもすぐ手が届く距離にいる。


「リリス!」


 飛び出してリリスの体を抱きしめる。

 そのまま地面に倒れ、かろうじてソードの剣戟の餌食にならずに済んだ。


「きゃっ……」

「ぐぅ!」


 子どもが子どもを支えて地面に滑り込む光景。

 勇者パーティーのリーダーには滑稽に映っただろう。

 滑稽ついでに見逃してくれねぇか……。


「――は?」


 ソードが不可解そうに俺を睨めつけた。

 射殺すような瞳に戦慄が走る。

 邪魔者を払い避けようとしたのを、さらに邪魔されて苛立ちが増したようだ。

 そりゃそうなるか。

 ソードが片腕を上げようとしている。

 俺はすぐに気づいた。あれは――【抜刃】だ。


 即座に立ち上がり、リリスの背中に申し訳程度に生える小ぶりな翼を引っ掴み、その場から精一杯ジャンプして逃げた。


 直後、【抜刃】で生成された剣山が地上から生え仕切る。危ねえ――!


「んん……?」


 ソードが怪訝そうに小首を傾げた。

 躱されたのが不本意なんだろう。

 そりゃそうだ。俺だって敏捷性で叶わないから先読みの判断だけで命の綱渡りをしているようなものだ。

 自分でも生き延びていることに驚いている。


「ま、魔物があたしを助けた? ……もしかしてさっき魔族排球(イビルバレー)で魅了をかけた魔物?」

「違う。俺だ俺っ」

「誰よ~!」

「っ――」


 リリスが混乱しているのをよそに、俺はソードの次の手を気にしていた。

 遠隔での剣の生成が通用しないと考えたら、次はどうする?


 相手が取るに足らない雑魚の場合だ。

 あえて接近して剣で屠るか?

 その手間すら惜しんで殴り殺すか?

 どっちにしろ間合いを詰めてくるだろう。

 それも、有無を言わさぬ速度感で。


「……」


 予想と反してソードは黙って見ていた。

 なぜ殺しに来ない?

 もう興味が失せたか?

 だとすれば、リンピアのところへ戻って首を切り落としに行くだろう。

 なんとかアイツを惹きつけなければ……。



「ソードが雑魚を取り逃すなんて珍しいね」



 ぎょっとして振り返ると、真後ろにメイガスが居た。


 その長い銀の前髪が風に揺れた。

 凍てつくような濃紺の瞳が、こっちを見下ろしている。


 そうか。ソードは単体じゃない。

 仲間が他に四人もいるのだ。

 あいつが俺とリリスを始末しに来なくても、他にも人手がある……。


「ケッ、意味わかンねぇガ、当たらねえンだ」

「そうかい。なら僕が預かっても?」

「好きにシろよ」


 そういうとソードは踵を返し、リンピアのもとへ向かっていった。


「じゃあ遠慮なく――」


 言ってメイガスは腕に強化魔術をかけ、俺の脳天から拳でぶん殴ろうとしてきた。

 なんて破壊的な肉弾戦をしかける魔術師だ。

 俺はリリスを蹴り、その強打からリリスを守りつつ、自分自身も地面を転がって逃げた。


 とにかく逃げるしかできない。


 ごろごろとローリングしながらメイガスから距離を取っていると、少しして――。


 ――ズガァンと炸裂音が鳴り響いた。

 俺の進行方向で、土を小さく掘られた。

 銃弾が撃ち込まれたのだ。



「逃げらレてやんの。雑魚狩り競争でもスる?」



 恐る恐る声のする方を見ると、そこにシールとアーチェがいた。


 人間兵器がこんなに……。

 目を剥きながら、その現実と向き合うが、直視できない。どう考えても分が悪い。


 俺は、ほぼ戦闘力がないのだ。

 リリスも魔族のエリアボスとしてイベントクエストの最終戦を担っていたが、かといって肉弾戦が得意なタイプではない。少人数を誘い出し、誘惑スキルでプレイヤーを嵌める程度の存在だ。

 肉弾戦や遠距離攻撃、魔法といった総合力で圧倒的な人間兵器に叶う戦力がない。


 絶望……。

 この戦力差をどうやっても埋められない。

 ソードとして幾多の戦場を渡り歩いてきた俺でさえ、考え得る作戦は底を突いた。

 むしろ即死しなかっただけでも凄いくらいだ。


 リリスが四つん這いで俺のところへ焦ったように近づいてきた。


「ね、ねねねねぇ……。なんであの勇者たち、あたしを殺そうとするのよぅ……」

「あいつらもう見境ねぇぞ。みんな揃いも揃って憑依(ヨリマシ)だ」

「憑依……って何よ?」

「そうか。NPCだから分からないよな。あんたの夢見る外の世界だが、アークヴィランっていう宇宙人が蔓延ってて、今はそんなにいい世界じゃねぇんだ。あいつらがその証拠だ」


 俺は声を押し殺して手早くリリスに伝えた。

 リリスはきょとんとした目を向けている。


「あんた……なんであたしが外の世界に行きたいって知って……」

「だからっ」


 言おうとした瞬間、また銃声が響いた。

 頭を押さえて地面に突っ伏す。

 シールの狙撃銃だろう。

 その直後、地面が赤く輝き始めていた。


「あなたに罪はないかもしれないけど……ごめんなさい。ここでは殺すしかないわ」


 アーチェの声だ。

 炎の魔術が発動しようとしている。

 しかも広範囲の高位魔術だ。


 俺とリリスは目を見合わせた。

 もうこれで終わりだ。これほどの大魔術をまともに喰らえば即死間違いなし。地面一帯が輝いていくのを見るに、今から急いで魔術が展開される範囲を出ようとしても間に合わない。


「……!」


 リリスが目をぎゅっと瞑っていた。

 俺もプリマローズに託されたばかりのこの体、無駄にしてしまうようで忸怩たる思いだ。

 だが、弱肉強食の世界だ。

 これだけ性能差があると、どうしようもない。



 諦めかけた直後、突然フッと範囲魔術の輝きが消えた。



 何事かと、アーチェを見やると、アーチェは背後から何者かの襲撃を受けて、地面に突っ伏していた。


 誰が襲っているのか、はっきりわからない。

 ボロの外套がはためき、アーチェを組み伏せると続けざまに隣のシールへ飛びかかる誰か。

 男か……?


 シールは抵抗しようと銃口をその男に向けるものの、残像だけを残して男が消えた。

 その場には葡萄一房くらいの、黒い何かが宙に放られていた。


「あれは……」


 その飛び道具をよく知っている。

 一房の葡萄のような何かが光り輝き、シールが反応するよりも早く爆発した。

 爆風で、シールの目元を隠す【狂戦士】由来の黒いバイザーが弾け跳ぶ。


「なになに、なんなのぅ!」

「あれは、【焼夷繭】だ」

「…………へ?」


 爆音に怯えるリリスを宥めると、リリスははっとしてその爆発の中心部を見やっていた。


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