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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第1章「人間兵器、自由を願う」
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20話 アークヴィラン45号


「ところで、ソードさん――」


 マギアを降り、潮風に当たって思いを馳せる雰囲気の俺に、シズクが申し訳なさそうに声をかけた。


「水を差すようで悪いのですが、船はお持ちでは……ないですよね」

「あっ」

「……」


 そういえば、まだ魔王討伐全盛期だった時代、シーリッツ海沿岸に船着き場があり、勇者特権で気軽に乗せてもらっていた。

 孤海の月まで訳もなく行けていたのだ。


 それが今、海岸には船着き場が無い。

 それどころか、ひと気がまったくない。


「すっかり忘れてた」

「しょうがないですね」


 シズクはアーセナル・マギアを畳んで元の棒の中に収納すると、腰のベルトに携帯し、変わりに別の棒を取り出した。


「こんなこともあろうかと持ってきています」

「まさか! シズク、できる子!?」

「これぞアーセナル・ドック。船の設計が内包されてます」


 シズクが取り出したるはマギアのそれと変わり映えない棒だった。


 アーセナル・マギアの船版か。

 異様なほど準備万端だ。

 浜辺に降りて、シズクがマギアと同じように棒をハンドルのように握り、引っ張って中身を展開させようとした。


 その途端、砂浜がガタガタと揺れ始めた。

 震度で砂が揺れて波のように動いている。


「……?」


 何かが海の方からやってくる。

 遠目に水面から突き出た背びれが見えた。


 ――見たところ、サメのようだ。



「あれってサメか?」

「おそらく……」


 そのサメは陸地に向かってすごいスピードで迫っている。

 しかも異常にデカい。


 俺とシズクはサメを警戒して、念のため、浜辺から距離を取った。

 まさか陸に上がることはないだろうが。

 そう思って、サメがいつ岸辺で方向転換するか黙って観察していたのだが、そのサメは推進力を弱めるどころか、さらに速度を上げて砂浜に突っ込んできた。


 あの背びれのサイズだと、推計して、そろそろ体が海に収まらない程度には浅瀬まで近づいたと思えるが……。


 だが、サメは止まらなかった。

 それどころか一瞬、頭を砂浜に突き出したかと思ったら、直後には水面から飛び出し、空中に全身を曝け出した。


 盛大に水飛沫が上がる――。



「は!?」


 その姿はサメのようだが、イカのようでもあった。


 頭部は間違いなくサメだ。

 しかし、下半身はイカのような触手が幾重も生えていた。

 サメなのかイカなのか分からないその生物は、砂浜に飛び出すと、下半身の触手を正面に突き出し、ドリルのようにして砂浜を掘ると、砂浜にも潜り込んで接近してきた。


「なんだアレ!?」

「私も初見です」

「あれもイカ・スイーパーと同じアークヴィランか」

「多分、そうでしょうね」


 浜辺の砂が盛り上がり、軌道を残していく。

 着実に俺たちに迫っていた。


「水陸両用のサメとは……」

「陸に上がれば安全というサメに対する固定観念を破壊してくる感じがさらに恐怖心を煽りますね」

「冷静に語ってる場合か! シズクは丘まで下がってろ!」

「はい」


 シズクは相変わらず冷静だ。

 俺は近くに転がっていた岩を【抜刃】で剣に変えた。

 念のために【狂戦士】は温存しておく。


 剣の切っ先を下に構え、迫り来るアークヴィランを待ち構える。


 再びアークヴィランが砂浜から飛び出した。

 俺を丸呑みしようと大口を開けている。

 とてつもない大きさだ。


 家一軒分くらいのサイズはある。


 おまけに無数の触手も俺に狙いを定めていた。

 頭を回避しても、触手で串刺しにするって算段か……。

 俺は砂浜で【抜刃】を同時に発動した。


「全弾射出!」


 砂浜から、武骨な剣戟の数々がサメに射出される。

 剣はサメの触手をいくつか切断した。

 図体に突き刺さる砂剣もあった。


 いい感じにサメを捉えた。



 その瞬間――。


 サメの胴体に氷の飛礫(つぶて)が直撃していた。

 もちろん俺の攻撃じゃない。


 氷はサメに当たった直後、破裂して跡形もなく消えた。

 証拠隠滅を図ったようだが、俺は見逃さなかった。


 別の誰かが攻撃した……?



『――――』


 サメの絶叫が砂浜に轟く。

 今がチャンスだ。


 跳躍して空中でサメとすれ違う。

 その一瞬で、得意の剣術で細切れにした。

 俺が砂浜に着陸したと同時にサメが爆散した。


 あっけなく戦いに勝利した。



 爆散したサメの体から黒い瘴気が飛び散り、その瘴気が宿主を求めて俺の体に纏わりつく。

 また新しい力を入手したようだ。

 何の能力だろう。


「ソードさん、お疲れ様です」

「ああ……」

「さすがですね」

「まぁイカ・スイーパーみたいな癖のある敵じゃなきゃ余裕だ」


 シズクは小刻みに拍手してくれた。

 それよりも――。


 俺は海岸沿いの離れた所にある、ある物体に目を向けた。


「どうかしたのですか?」

「あそこに誰かいる」


 光を反射して目立たないが、ガラス張りの四角い塔があった。

 氷の彫刻か……?


 きっとあそこにいる人物がさっきサメを攻撃した。

 ちょっと話を聞きに行こう。


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