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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第3章「人間兵器、本質を探る」
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190話 ◆法典武装Ⅳ


 この世界で言う『空路』とは、飛行機や戦闘機に乗ったものではないということが重要だった。


 リンピアもまだゲーム世界に来て丸二日――。

 初心者中の初心者であり、まだ『パンテオン・リベンジェス・オンライン』がどういう世界観なのかを正確に把握していない。


 リンピアの考える『空路』とは、搭乗機に乗るのが当たり前だと思っていた。

 パンテオンでも運営の手先であるゲームマスターが、トラクターに乗ってサキュバスを追いかける現場を目撃したため、文明の利器が登場しても違和感のない世界観だと考えていた。


 その固定観念は間違いだった。



「え゛……!?」


 転移門を通り過ぎた途端、足場を失う。

 支えを失った足元は空を切り、ばたばたと動かすもその足が地に着くことはなかった。


「えぇええええええぇえええ!?」


 そのまま遙か上空の世界から真っ逆さまに落ちてゆく。


 唐突に始まるスカイダイビング。

 空路の消費ポイントが、他のルートよりも高額だったことを考えると、この待遇はあんまりではないか――。


 空を落ちてゆく。

 薄ら瞼を開けて地上を見やるも、その高度が高すぎるのか、雲間と、霞んだ青が見えるばかりで地上の姿を見ることはできない。


「なんで私がこんな目にぃいいいいいい!?」


 絶叫も虚しく、孤独の空の旅を強いられる。

 メンテナンス中のせいでもあるのだろう。周囲に他プレイヤーもいない。頼れる人がいないのでこの状況を自力で乗り越える必要がある。


 リンピアは体勢を保つため、両手を広げ、強張っていた全身の力も抜く。


 高いところから落ちる経験は、何もこれが始めてではない。

 これでも守護者を拝命した不死族の一派だ。

 これしきの事態は何でもないことだ。


「…………っ」


 リンピアは腰につけた〝筆〟を取り出した。

 魔力を集中させ、イメージを固める。


「――魔砲武装、展開。……久しぶりだけど、お願い!」


 リンピアは魔力を絵の具とし、虚空をパレットとし、筆を走らせた。

 塗りたくられた幻想の絵は、形を成して武装兵器として具現化していく。


 背中には大きなジェット。

 足にはブースター。

 それらの機械の動力源は、リンピア自身の魔力潮流だ。

 背中から魔力を吸われ、脚部に装着されたタービンも魔力によって回転する。



 ――バフッ、という空圧音を轟かせ、浮いた。


 リンピアは生成した装着型魔造機【魔砲武装】の力で、滞空飛行を可能にした。

 これぞリンピアの魔法の真髄だ。

 シズクに見せた古代魔術は、趣味で覚えた手品程度の代物である。


 リンピアは元より絵描きだ。

 絵の技量を魔法に応用したものが、彼女の心象抽出の極地。

 彼女はあらゆる幻想を具現化する――。



「うん。魔力量も問題ないね……。ゲームに潜入してからほとんど使わず温存しててよかった」


 リンピアは久々に解放した魔法技術が衰えていないことに安堵し、ほっと胸をなで下ろした。


「はぁ……。しかし、私だからよかったようなもの、他のプレイヤーさんってどうするんだろ」


 自力の飛行手段を持たないプレイヤーは突然放り出された空で、どう対処するというのだろう。

 リンピアは周囲を見渡した。


 エフェクトのせいか、空は霞んで、霧も濃い。

 少し高度を落として地上に近づく必要があるかもしれない。

 魔王城へ向かうルートの一つとして選択したのだから、おそらくこの直下には魔王城があるはずだった。



 リンピアはしばらく【魔砲武装】のブースターを頼りにしながら高度を落とした。

 警戒は怠らず、肩から魔砲の砲身を四方八方に向けて、いつでも敵の出現に対処できるように注意を払った。

 しかし、まったく敵の気配はない。

 魔王城攻略の道すがら、上級モンスターの一匹や二匹は潜んでいるかと思ったが……。



 しばらく降りたところで、ようやく『空路』の意義を知ることとなる。



『繧医≧こそ!

 【激戦!! 魔王城プリマロロ攻略戦線!!】

 ――の挑謌ヲ閠よ。


 空の旅は讌ス縺励ましたか?

 空路を選ク繧だあなたには、追加特典として蠕悟濠戦からスタート!

 魔王プリマ繝シ繧コとの死闘を――


 遨コ荳ュ謌ヲ、蜍昴※繧九°!?』



 突然、空中にメッセージが表示された。

 文字化けしていて、所々、文字が読めない。

 しかし、雰囲気から察するに、どうやら空路で来ることで、魔王城攻略を、プレイヤーに都合のいい状態から始められるようだった。


 メッセージが消失した後、地上からぶわりと〝浮き島〟が上昇して現れた。


 その浮き島とは、崩壊した床の残骸だった。

 欠片に分れた残骸には、白いラインも引かれていて、何か砲弾でも撃ち込まれたのかというほどに穴ぼこだらけだった。


「なんだろ、これ……」


 これから挑むというより、既に戦いを終えた後のような状態だった。


「まさか――」


 もし先行して魔王城に来ているプレイヤーがいたとしたら、それはソードたちに決まっている。

 既にソードやシールは魔王に挑んだのか。

 リンピアは惨状を目の当たりにして、固唾を呑んだ。


 〝浮き島〟に注目していると、リンピアはある魔力の残滓に気づいた。

 黒々とした粘性の魔力だった。


瘴化汚染(マナディクション)……!」


 この場で、魔素が暴走した証拠だった。

 魔力の残滓は、航空機が飛び立った後のように尾を引き、空中に細く漂っていた。


「……っ」


 その魔力に触れ、気配を嗅ぎ取る。

 それは盾の勇者が纏っていた青の魔力だ。


「シールさん……」


 浮き島の残骸には、剣が突き刺さった痕や、魔弾が撃ち込まれた痕もあった。

 魔王との戦いだけでここまでの痕跡がついたのだろうか。それにしては――。


 リンピアは嫌な予感を感じ、地上への着陸を急いだ。


「ソードさん……魔王様も……無事かな」


 最悪の事態に陥っている可能性があった。

 あるいは、ロアの予想が的中している可能性が高まったとも言える。

 暴走した人間兵器を止めるのは、【守護者】の役目でもある。


 リンピアは筆を走らせ、さらなる追加武装を描き加えた。


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