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人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第1章「人間兵器、自由を願う」
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19話 逃避行ドライブ


 シズクは砂漠の炎天下でも、帽子のおかげで涼しそうだった。

 マギアを運転するシズクに問いかけた。


「ところで、なんでシーリッツ海に行きたいんだ?」

「その話ですか」


 シズクは眉間に皺を寄せた。

 何から話そうか考えているようだ。


「別に、行くならどこでもいいんです」

「どういうことだ?」

「私はラクトールを離れたいのです。あの村が嫌いで」

「そりゃあ……難儀だな」

「はい」


 シズクの横顔をちらりと見やる。

 この娘、家出少女になるつもりなのか。


「私は人間――」

「人間?」

「噛みました。……こほん、人の古い歴史に興味があります」


 咳払いを入れるシズク。

 人の、とはまた他人事な物言いだ。


「特に伝承や民謡が好きで。古代史を辿ると、今の生活が奇跡のようでびっくりします」


 物静かな子だと思っていたが、喋らせてみると饒舌だった。


「五千年前までの人類史は魔族との戦いの歴史だったようですね」

「まぁ、そうだな」

「プリプリさんを居候させているのも、私からお父さんにお願いしたからです。何度か追い出されそうになったのを私が止めました」

「意外だな。プリマローズは、シズクが苦手そうだったぞ」


 シズクは不服そうに口を膨らませた。


「心外ですね。私はプリプリさんが好きです。当時の人類の敵がそのまま生き残り、お話もできるなんて貴重だと思いませんか?」

「言われてみれば……」


 逆に、なぜ野放しにしているんだ。

 貴重な史料として国から丁重に扱われても不思議じゃない。

 今度、プリマローズに経緯を聞いてみよう。


「そして当時、魔王と戦った七人の勇者の存在も――」

「……」


 シズクは俺に一瞥くれた。


 なんだ、その視線は……。

 あなたもその一人でしょう、という目だ。

 あらためて自己紹介したわけじゃないが、プリマローズやヴェノムとの会話、アークヴィランを倒した実績。

 状況証拠的に、俺が勇者であることを疑われても仕方ない。


「シズク、言ってなかったが――」

「大丈夫です。皆まで言わずとも」

「そうか」


 やはりバレていた。


「安心してください。私以外の村人は気づいてません」

「ナブトはともかく……ヒンダもマモルも?」

「ヒンダさんは分かりませんが、マモルさんは間違いなく気づいてません。あの人は私以外のことに興味ありませんから」


 確かに、マモルのシズクへの想いは執拗だった。

 初めて会った俺ですら感じるほどに。


「村を出たい理由もそれが一つです」

「……? マモルが疎ましいって?」

「そこまでではありません」


 シズクはハンドルを切り、砂漠地帯を抜けて岩肌が露出した草原地帯にアーセナル・マギアを乗り上げさせた。

 乱暴にハンドルを倒し、ガリガリと車輪を回して進んだ。

 もう砂漠を抜けた。早いな。


「マモルさんは私を束縛しようとします。危険な目に合わせないように行動を制限してきますし、何かするときは必ずくっついてきます」

「心配してるってことじゃないか」

「私は、自分の行動に"自由"でいたいのです」

「――」



 "ソード……。私は、自由でいたい"


 ふと蘇る記憶。

 最初にそう話したのは、シールだった。

 夕焼けに染まる王都の街の一角で二人で語り合った。

 あれは、七回目の覚醒の記憶――。



 シズクも一緒だった。

 シズクは今、マモルの一件しか喋っていない。

 だというのに、俺はなぜかシズクが、タイム家の末裔としての役目、村人から向けられるプレッシャーの数々に悩んでいると悟った。


「今回の外出は大丈夫なのか?」

「うまく誤魔化してます。大丈夫でしょう」

「色々と大変なんだな」

「そうなのです」


 草原の小高い丘を登り詰め、シズクがマギアを停めた。


「海岸につきました」

「おお!」


 そこから見える景色は、俺の当時の記憶にも残る鮮やかなシーリッツの蒼海だった。変わってなくて安心した。

 この海の向こうに孤島の祠がある。

 果たして、シールはいるのだろうか。


「三号の祠――別名『孤海の月』だ」


 蒼い海にぽつんと浮かぶ孤島が満月のようで、その名が付けられた。

 シールにぴったりの祠だと思う。



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