表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間兵器、自由を願う  作者: 胡麻かるび
第3章「人間兵器、本質を探る」
177/249

173話 魔族排球Ⅵ


 俺とプリマローズは剣戟を重ね、互いに睨み合っている間、アーチェが放った『ファイアボール』が敵の放った青黒い魔球サーブを空中で破壊した。


 ――パァ……ン!


 相殺したように破裂し合う魔球二つ。

 コートサイドの点数表は「-1:5」となった。

 やっぱりマイナスカウントが存在している。


 これで点数差は6点。

 魔王チームが1セットを取るまで残り6点だ。

 残り6点のうちに、他の検証も進める。



「ごめんなさいっ……まだ力加減が……!」


 アーチェは魔球を、自身のファイアボールで押し返す想定だったらしい。

 コートにいる仲間に向かって謝っていた。

 でも、俺の狙いは少し違う。


「ナイスだ、アーチェ!」

「ナイス……? チームが減点になっただけよ」

「いや、それでいい!」


 俺の声かけに、アーチェはワケがわからないといった具合に、眉間に皺を寄せていた。


 メイガスの放つ魔球が、アーチェの魔弾で破壊できることが検証できればそれでよかった。

 つまり今のメイガスとアーチェの魔力は同等。

 減点というルールの存在より、破壊してでも魔球を止められるかどうかが重要だった。


「何がナイスじゃ? もう諦めたとでも? つまらぬ。実につまらぬ……」


 プリマローズは俺の剣を押し返し、悪態をつく。

 魔王の『紅き薔薇の棘』が振り払われると、薔薇の花びらが宙に舞い、ノイズがかかったように消失していった。


 魔王の愛剣までこのゲームで再現されている。

 なのに、再現されていないことが一つあった。


「おいプリマ。お前の相棒はどうした?」

「む? 相棒? 誰のことじゃ?」

「――そうかい。何でもねえよ」

「……?」


 理解した。

 こいつは完全なプリマローズ・プリマロロじゃねぇのだ。

 俺が苦戦した魔王とは一線を画す別の存在。

 魔王の要素を持つだけの別モノ。

 不完全なら隙だらけだ。





 第1セットが終了した。

 結果は「-3:11」で魔王チームが勝利。

 次の第2セットも魔王に取られたら、勇者チームの敗北は確定する。



 代わりに検証できたことがたくさんある。


 ・片側のコートに一度に4人しか入場できない。


 ・敵味方関係なく、どちらのコートも入れる。


 ・魔物を倒すと魔王が味方を補充するが、魔物が生きているかぎり補充されない。モブを生け捕りにして勇者チームのコートに拉致しても、補充はされなかった。


 ・魔球は、魔力で生成された魔弾ならいくらでもボールとして認識される。逆に、DBに用意させた本物のバレーボールは、ボールとして認識されなかった。


 ・ラリー中であろうと、どちらかのチームが新たに魔球をつくれば、それも試合のボールとなる。


 ・コート内にいずれかの魔球が存在しているかぎりラリーは続く。ラリー中、仮にどちらかのチームが11点を取ったとしても、ラリーが終わらないかぎり試合は続くようだ。


 ・試合開始はあくまでサーブ権を持つチームのサーブから始まる。始まっていない状態で、他の誰かが魔球を打って相手チームに落としたとしても、点数にカウントされない。



 これだけわかれば十分だ。

 攻略法、ブラフのかけ方、点数の駆け引き。

 勝つまでの道筋は立てられる。

 あとは土壇場での柔軟性。


 第2セットでコートチェンジがあり、サーブ権は勇者チームが先に得ることになっていた。

 魔弾しかボールとして認識されないため、必然的にサーブはアーチェが選任される。


「頼むぞ、アーチェ」

「まかせて。絶対に負けられない」


 配置は、俺とリリスが前衛。

 アーチェとDBが後衛。


 魔王チームは前衛にモブが二体。

 後衛にはプリマローズとメイガスがいる。

 第1セットと変わらなかった。


「――いくわ」


 アーチェ手を翳し、赤の魔弾を生み出した。

 メイガスの放つ青の魔弾に引けを取らず、その火球は雑魚なら軽く焼き尽くすほどの威力を秘めている。


 それが今まさに放たれた――。


 直線的にネットを飛び越していくライナー球。

 ボールは魔王チームのコートのど真ん中のあたりに落下していく。


「凡愚な弾じゃ。やれ」


 プリマローズは退屈そうに顎でモブに指示した。


 前衛のモブ二体は既に動いている。

 元々、個々は強くない魔物のモブだ。

 魔球を受け止めるにはレシーブではなく、自ら壁となり、捨て身で止めなければならない。

 第1セットでもこちらのスパイクを、そうやって受ける姿は何度も見た。


 一人が捨て身のヘッドスライディングの準備。

 もう一人がトスで打ち上げる準備。

 最後はプリマローズのスパイクって流れらしい。

 プリマローズは後衛ながら、既にその場で軽くジャンプし、助走をつける気満々で準備している。


 魔王の華やかなアタックに協力する魔物の図。

 彼らはそんな役割に疑問を持たず、ただひたすら短い命でサイクルを回している。

 所詮はデータ上の存在。

 消耗品という立場に嫌気が差す前に――自我を持つ前に死ぬだけだ。


 だからこそ、魔王チームは仲間を消費しながら試合に勝つことができた。

 俺がそんな奴らに別の道を提案してやる。


「――その必要はねぇ!」


 高らかにそう宣言した。

 指をパチンと鳴らし、十八番の戦術を披露する。


「なんじゃ……!?」


 コートに出現する剣山。

 床から伸びた【抜刃】による剣は、鉄柵のようにモブの動きを制限し、身動きが取れなくさせた。

 魔王のコートに小さな剣の迷宮が完成する。

 どこが剣の壁の抜け道かわからない。

 モブは床から突然生えた刀身を掴んで、隙間から突破しようとするも、切っ先に触れて手を切り、握ることすらできずにいた。


 魔王チームが困惑する中、アーチェが放った魔球は、誰の妨害も受けずにコートに空いた床に着地。

 点数表には『1:0』と表示された。


「くっ、子どもだましの策じゃ……」


 意表を突かれたプリマローズが、心底悔しそうに顔を歪めていた。


「どうせ子どもの遊び(ゲーム)だろうが」

「否。妾は魔王ぞ。この世界を征服すべく穢土から蘇った魔界のカリスマ。斯様な安い策で敗北するような間抜けとは違うっ……! 違うのじゃ!」

「せいぜい吠えてな。今のお前は本物の魔王に程遠いぜ」


 プリマローズの背後からオーラが漂い始める。

 魔王にしては清らかで、怒っている割りには静かで黒い夜の海を彷彿とさせるオーラだ。


「……?」


 なんだか、プリマローズに違和感がある。

 邪悪な魔王らしく振る舞う彼女と、現実のプリマローズのような無邪気さが混在したような……?

 その相反する二人が溶け合うせいで、魔王としても廃人としても威風(キャラ)を失っている気がする。


「ふんっ。虚勢がいつまで持つか楽しみじゃ!」

「……」


 プリマローズは配置に戻っていった。

 俺はその背を見ながら、この『魔族排球(イビル・バレー)』の球技の果てに、プリマローズがどうなるのかを気にしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ